第四十四話 模擬戦への参加証明
会議を終えた俺たちはそれぞれの用事の元へ向かった。ルミウとエイルは模擬戦、メンデは新しい国務の説明。俺は帰宅だ。
国務を終えることで詰めに詰めていた気持ちに落ち着きが表れる。自室のベッドにダイブするとドッと疲れが押し寄せるように、気派に押し潰される感覚に陥った。
「あぁー、きっつ」
また明日から退屈な学園生活のスタートと思えば更に圧が掛かりそうなので、学園のことは考えない。なら何を考える?そう長考するだけで、いつの間にか俺は次の日の朝を迎えていた。
欠伸を数回ベッドの中で行い、重い体を無理矢理動かし向かった学園内。予想通り騒がしく、噂は何処から流れ込んでくるのか、広まる速さも尋常ではなかった。
全員が席に着くと俺の所属するクラスの担任である――アヴィリム・スカイが噂の話を切り出した。神託剣士ではなく、ただの学園の担任を行う男剣士だ。
「本日より一騎討ちまでの約2ヶ月、我々3年生の午後の模擬戦は神傑剣士第1座である――ルミウ・ワン様に指導を賜ることになった」
確信となり、より一層ブワッと盛り上がりを見せる。
俺はそれを肩肘付いて鬱陶しく思う。朝から元気なのは良いが、耳が耐えれる程度の声を発してほしいものだ。
「何故この学園にルミウ様が来られるのか、それは王国剣士団守護剣士に選抜される剣士を育てるためだ。守護剣士を選抜されるのは神傑剣士第2座のメンデ様だが、メンデ様曰く今年のフリードは質が低いとのこと。その理由から忙しい中ルミウ様は来られる。皆、全身全霊で取り組むように」
これからの自分の未来が決められるのだから真剣に取り組まないやつは俺を除いていないだろう。レベル5だからといって絶対に引き取られるわけではないし、レベル5よりもレベル4の剣士が多く選抜された例もある。ちなみにレベル5の人数がレベル4より少ないからではない。純粋に力の差だ。
結局はレベルではなく、剣技の才。つまりどれだけ実践で活躍出来るのかが選抜対象となる。慢心を決め込むリュートにはぜひ落ちて嗤われてほしい。
「リュート、君はテンラン様とルミウ様に目を付けられている。これ以上自分勝手な行動を続ければ君自身、将来が狭まるだけだ。それで良いなら構わないが、良くないなら気持ちと言動を改めて模擬戦に取り組むことだね」
「……分かってます」
おいおい、思春期真っ只中の子供じゃないか。反抗期か?自業自得なのに注意されたことに拗ねやがって。今時イジメを楽しむやつの方が珍しいからな、まじで。
反抗できないのは相手、スカイが自分より強いから。レベル5であり、剣技も先生として不足なし程度には扱える。それでも神託剣士には届かないのが残念だが。
「それとイオナ、君は模擬戦には参加を認められない」
「えっ?何故ですか?」
「ルミウ様の前に流石にレベル3の剣技は見せられない。それに守護剣士になり得る生徒を育てるのだから、君は参加しても意味がないだろう?」
えー、どいつもこいつもムカつくこと言ってくれるじゃんかよ。今すぐ首に刀通してやろうか、この気派も読めない新米教師が。
とは思いつつも共感はしている。確かにレベル3の剣士が神傑剣士の前で剣技を見せるなんて、俺がホントにレベル3なら無理だ。
しかし、ルミウとテンランはそんな人ではないと俺がこの中で1番理解している。だからムカつく。自分の面子を保つために自分の評価で神傑剣士を語り、至高の存在である2人にはレベルの低い剣技は見せられないと思い込んでるその気持ちがムカつくんだ。
きっとこれは国王でもルミウやテンランでもなく、スカイ自身が判断したこと。俺の知る神傑剣士と国王が俺を参加させないと判断するわけがない。
「意味はあります。レベル3でも成長し、強くなれば、神傑剣士にはなれずとも神託剣士にはなれるかもしれないじゃないですか」
神託剣士にレベル3が居たという前例はない。しかし、可能性はある。虚空と体力を最大限極めればそれだけで戦えるんだからな。
「……君が神託剣士?面白くない冗談だ。守護剣士ですら怪しいというのにその上を目指していたなんて」
そうだ、この男も俺を否定する側の最低野郎だったな。俺をいないものとして扱うからこうして話したのも初めての感覚だった。
こういう人を見下し、上に立つ者には何が有効か。それは証明だ。目の前で動かぬ証明と、信じるしかないものを見せつけられた時、その時自分の過ちに気付く。
その先の道は2つ。1つは反省し謝罪後に人を見下すことをしなくなる。1つは間違いを認めずひたすら自分の意見を通すゴミになるか。こいつは多分後者だ。
なら。
「ではこの中の先生が選んだ生徒と模擬戦をします。そして勝てば参加を認めてくれますか?」
勝ち負け関係なく、テンランに聞かれれば俺は参加可能になる。しかし、それではスカイの今後に変化は訪れない。この腐った剣士をキレイにするには1度やり返しされることを覚えさせる必要がある。
「はははっ、それは面白い提案だ。いいよ。君が勝ったら参加を認めるよ」
こんなクズの権化のような性格の人間はホントに存在したんだな。絶滅したと思ってたぞ。今日から絶滅危惧種のスカイだな、こいつの異名。
「ありがとうございます」
「では対戦相手を今決めようか」
こいつはおそらくのイジメトリオを出すことはない。俺を最弱だと分からせたいならこいつはこの中で最弱の生徒を選ぶはず。
「ダース、君がイオナの相手をしなさい」
「お、俺ですか?」
「君以外にダースはいないよ」
「分かりました……」
シェルフィン・ダース。レベル4にして男爵家の長男。技量は詳しく知らないが、俺の踏み台になってくれるなら誰でもいい。
「今日の午後、ルミウ様がいらっしゃる前に済ませる。速やかに闘技場に来ること」
「分かりました」
乗り気ではないダースには申し訳ないという気持ちは多少持たされながらも、その日の午前は乗り切った。乗り切った?いや、そんな大層なことは無かったから普通に過ごしたと言うのが正しいな。
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