第四十話 蓋世心技と真意

 「クソッ!なんで当たらねぇ!!」


 俺から五歩後ろに引いてやることで連撃は止む。


 「お前の太刀筋が決められてるんだよ。致命傷ばかり狙うから、その部分だけ意識すれば他のとこに割く意識もなくなる。だからより精度の高い防御態勢を構えれるだろ」


 「分かってんだよ!……でも!それでもあり得ねぇんだよ!てめぇの防御態勢が!」


 圧倒的な距離を感じてか、全ての攻撃が当たらない、掠りもしないことに違和感を覚え始めたようだ。もちろん当たらないのには理由がある。しかしそれは1つだけで、この世の理通りの理由。


 「お前じゃ俺に傷を残すことは出来ない。無理だと思うか?ならば、それを今証明してやろう」


 息切れをするデズモンド。構わず俺は構える。と言ってもただ納刀したまま手をそのままに棒立ちしてるだけだが。


 「今からお前の右腕を斬る。絶対にだ。だから死ぬ気で防御してみろ」


 「……はぁ、てめぇ、何を……」


 脱力させた右手に力を込める。全力だ。


 「蓋世心技がいせいしんぎあま


 俺が剣技を口に出した時、既にデズモンドの右腕は鮮血を撒き散らして飛んでいた。キレイとも汚いとも思わない、ただ無心に。


 「ぐぁ"ぁ"ぁ"!!!」


 叫び右肩を抑える。しかし血は止まらず流れ落ちる。


 蓋世心技。この世界のレベル6にしか扱えない剣技。基本剣技名を漢字一文字で表し、種類もとても少なく、刹那で決着をつける神業だ。そのため数多くの剣士がどんな技で倒されたか理解出来ない。そう、今の目の前の男と同じように。


 咆哮は止まない。このまま俺が喉を斬るのもありだが、それではつまらないだろ?


 気付けば俺もシルヴィアのこと言えないレベルに頭が可笑しかった。しかし自覚はない。


 「叫べば叫ぶほど血が出るぞ。いい加減黙れよ」


 現実を見せてやる。腕がいつの間にか飛んだんだ。それも俺は一歩も動かず、増しては抜刀するとこさえ視界に捉えられなかっただろう。


 これがこの世の理による答えだ。俺には勝てない。いや、レベル6にはレベル5以下が勝つことは出来ない。


 「…………」


 黙れと言ったらすぐに黙るデズモンド。聞き分けが良すぎて驚くレベルだ。


 「やっと負けを認めた――」


 「ははっ……はははははは!面白い。てめぇがあの王国最強の、序列無視とか言われてる調子に乗ったクソ剣士かよ……」


 遮って高笑いをする。すぐに刀へと手を持っていった。こいつはまだ殺意が死んでいない。ということはまだ刀を交える気でいる。


 命知らずだな。


 「今頃気付いても遅い。お前はもう殺されるんだからな」


 「……さぁ、それはどうかな……俺を知ってるなら俺の固有能力も知ってるってことだよな……」


 「ヒートブレーカーだろ」


 「そうだ。ヒートブレーカーは万能でよ……今頃お前らの書庫に俺の集めたレベル5の仲間が――」


 「それなら他の神傑剣士に任せた。もしかしたらと思ってな。そしたら見事的中したってわけか」


 今度は俺が遮る。無駄話にペラペラ付き合うほど優しい俺ではない。それに、少しでも早く殺してルミウのとこに向かいたい。苦戦はしてないだろうが、心配してしまう。


 しかし、まだ剣技を試したいとも思い、よくある葛藤が再び現れる。そしてそれを押し殺し目の前に集中、ルミウに駆け付けることを優先させる。


 「……そうか、全部知ってたのか……なら俺はここでとするか」


 「そうだな。お前はもう死ぬしかない」


 普通の事を普通に言っているに過ぎない。そう思っていたが、甘かった。


 「はははっ!後悔するぜ……俺のヒートブレーカーはな、命を捨てる代わりに――レベル5の奴らをレベル6まで引き上げれるんだぜ。禁書で読んだ……やり方は分かる」


 「なぁ、レベル6のお前の赤ん坊とこの国の頂点に立つレベル6の神傑剣士。どっちが勝つか考えずとも分かるだろ?」


 急にレベルが上がったからって何だというのか。対応が出来ない神傑剣士ではない。それにレベル5のプロムがレベル6にいきなり対応出来るとは思えない。


 「俺はお前らを殺すためにここにいるんじゃねぇ。仲間が書物を盗んでこの世界を変えてくれればそれでいい。そしてな、その為になら俺は死ねる。何よりも、死んでからもお前らを苦しめることは出来るんだぜ……ここに居る5人限定だがな。方法は――このままお前ら神傑剣士を恨んで恨んで恨みまくって死ぬだけだ……」


 淡々と息が絶え絶えでも話すデズモンドに先ほど感じた重い空気を再び蘇らされる。


 「――っ!まさか!!蓋世心――」


 デズモンドの意図に気付く、だが俺の神傑剣士としての落ち度が剣技を出すのを遅らせた。


 「お前ら!!俺たちの未来のために――死ねぇ!!!」


 デズモンドの声を耳にしたルミウが相手する幹部4人、いや、今はルミウが1人倒したようで3人が同時に短刀で首を裂く。自害だ。


 この世界には僻み妬み嫉み恨み、負の感情を強く持ったまま死ぬ人間は魔人と化する。そう、今デズモンドは俺ら神傑剣士に対して死ぬ寸前まで殺意を溜めて自害した。よって、人として死に魔人として生を受ける。


 ルミウ相手の3人に加えて、相当な殺意を持ちながら死んだデズモンドはレベル6に近い魔人となる。つまり、今ここで俺とルミウ2人で4体の魔人は――苦戦を強いられる。


 「クソッ!――ルミウ!!」


 「分かってるよ!」


 何をするべきかお互い理解しているのは、相性が抜群だから。


 美人と相性抜群とか至高の幸せだわ!

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