第四十一話 魔人との決着
背中を合わせて魔人と化した4人と向き合う。不利過ぎる。
「どうする?俺が3人相手しようか?」
「バカなこと言わないで、私が3人で良いよ」
「強がりは自分より弱い相手にだけにしてくれよ」
「君こそ、初めて戦うんでしょ?私の戦い方を見て学んだ方が良いんじゃない?」
「はぁぁ、仕方ないな。これ以上巫山戯てるとまじで怪我しそうだから、2人ずつで頼む」
「そうだね」
何もピンチとは思えない会話をしている俺たちだが、結構問題はある。別に怪我をするとか自分たちに降り掛かる問題は皆無に等しい。だが、ここはどんな僻地でも、どんな犯罪でも犯す罪人がいたとしても、王国内だ。つまり国民が存在している。
もし刹那でも国民に魔人の意識が行くのなら俺たちは2人では相手が間に合わない。最悪死者を出しながら戦うことも計算して行動しなければならなくなる。
だから今、余裕感を見せつけ意識を完全に俺たちに向けているのだ。
一瞬でも気が抜けないの久しぶりだわ。冷や汗でるじゃんかよ。
「俺はデズモンドとあの太った幹部を相手にする。他2人は任せた」
「了解。なるべく遊ばないで終わったら加勢して。もしかしたら手こずるかも」
「弱気になるなよ。お前なら勝てる。だからいつも通り動くんだぞ」
「ふんっ、こういう時に優しく声掛けしないでよ」
「好きになっちゃうじゃん、ってか?」
「これが終わったら君を斬りたいよ」
「すみません。ホントに悪かったです」
こんな調子ならルミウに問題はない。
「そんじゃ――」
「うん――」
念話で確かなコミュニケーションを取る。魔人は何もかもが研ぎ澄まされる。五感はもちろん、気配取りも気波も全てが神託剣士第10位以内と大差ないほどまで上昇する。
面倒くさいの一点張りだが、それ以外に思うことはない。
デズモンド目掛けて駆ける。距離はあっても追いつくのは3秒も経過しない。今の俺は蓋世心技を使い体力を消耗したとはいえ、調子がよくノリに乗っている状態だ。
このまま行けば時間はそんなに必要ない。
蓋世心技でサクッと終わらせて加勢するのがこの先の理想だ。
「よぉ、魔人になっても悪人面は変わらないな、デズモンド」
「ゔぅ"ぅ"ぅ"」
魔人は死んだ人間。言葉を発することはない。代わりに唸って叫ぶ。そして気派が読めなくなる。何よりも、目が充血し赤く染められる。
それに筋力も増して、その根源である殺意が消えるまで生きるのを辞めない。正真正銘バケモノだ。
めちゃくちゃタイプの女性魔人なら体力尽きる限り虚空使うけどな。こんなおっさんが相手ならもう気味悪いだけだわ。それに片方デブと来た。見るに堪えないって。
「2回もお前に同じ技使うの贅沢だが、こればかりは仕方ないな。1回目で俺が仕留めなかったのが悪いし」
ただ苦しみを味わってほしかったがために、片腕を斬り落とした。それがここに繋がったのなら俺の反省すべき点だ。
だからもう俺は容赦しない。
「あっ、それと隣のおデブさんも一緒に一太刀で逝くから、しっかり俺の刀を見切らないと死ぬぞ」
聞こえていても理解は出来ない。それでも忠告してやるのは俺の思いからだ。プロムにはおじいさんたちのようになんの罪も無い人が居たように、もしかすると幹部にもそんな人がいるかもしれない。
そんな人を殺めるのは魔人であってもまだ18の俺には響く。だからその時の少しの緩衝材となってくれるのがこの忠告だ。もしかしたらの話にすぎないがな。
「あ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
奇声がどこか辛い思いを込めているかのように聞こえる。
クソが!それならプロムになんて加担するなよ!
1つの思いは誰にも届かない。だから魔人は俺に襲い掛かる。刀を今にも落しそうなほど柔い握りで持ち、2本の刀をそれぞれ両手に持ってそれを振り回す。一刀流だろうが二刀流だろうが、魔人には関係ない。
ただ、殺意の対象を殲滅するために振る。剣技も使えない。それでいてシンプルな刀の振りは一撃一撃とてつもなく重い。それが負の感情の量に比例するから余計に。
それらを全て往なす。瞬間的に向上する筋力によって不意を付かれても往なす。2人に挟まれて絶体絶命に思われる態勢でも完璧に往なす。
今の俺にこいつらは人間の時より弱く感じるのだ。なんでかって?考えることが出来ないからだ。
しっかりと急所を狙って突く剣技も、緩急を付けて上下左右不意を付いて斬撃を飛ばすことも全ては殺意、気派による端的な行動に過ぎないから。
「そろそろ時間切れだ」
2人の両手に握られた刀、それを4本同時に上に弾く。力を込め過ぎたせいかデズモンドの刀が空中で1本真っ二つに折れる。
そしてすぐに納刀。
この間およそ0.2秒。まだデズモンドと幹部の両腕は振り上げられたまま降りてこない。脳天から爪先まで完全にガラ空きとなった。もうこの時点で――俺の負けはない。
「
2度目の蓋世心技。首目掛けて振られた刀は既に納刀されていて、首もまだ繋がっているように見える状態だ。
これが紛うこと無きこの王国最強の剣士であり、この世界最強の剣技の1つと知られる剣技の極地である。
そして、一瞬にして首と胴体が離れ離れになる。瞬きをせずとも見逃す剣技の美しさに俺は自画自賛する。今日も俺は人々を救ったのだと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます