第三十九話 奇襲と首謀者

 完全に日が暮れるまで15分、俺たちは再確認を行っていた。


 「ホントに良いのか?1人で幹部相手は骨が折れるぞ」


 「問題ないよ。それに危機なら君が早く終わらせて助けに来てくれるだろうし」


 「ホント、信頼だけは寄せてくれるんだからな」


 「神傑剣士最強だから当たり前」


 こんな性格だと知っていても照れるのは美人に言われるから。お世辞を言われてるんだとしてもルミウという、美人で強い剣士からの言葉なんだ、真に受ける。


 いつもと変わらぬバカテンションで何よりだ俺。


 それにしてもプロムの拠点に着いて思うが、空気が重い。気派でも圧でも殺意でもない、ドヨンとした空気感だ。確かどこか似た感じのを昔感じた気がするが……。


 思い出せない。


 いや、今は重要な国務中なのだ、空気感なんてその次だな。


 先ほどとは打って変わって暗闇に包まれたシード。イカれた奴らにお似合いの闇夜って感じだ。


 こっから颯爽と現れて薙ぎ倒して行けばモテるんじゃね。


 俺は落ち着いている。初の国務が国の命運を分けるような重要さなのに、それでも怖気づかないメンタルの強さはピカイチかもな。


 静かだ、これから戦闘が始まるなんて誰も思わないだろうな。よし、行こう。


 「ルミウ、頼んだ」


 「了解――サウンドコレクト」


 無駄のない太刀筋。俺と違い、下から上に振り上げられる刀は一切のズレのない音波となり空気中を流れる。見惚れるレベルにキレイだ。


 「何人?」


 「全員1階の5人、1番強い気派を持つのは……真ん中に座る――イオナ!!」


 説明途中、声を荒げて俺に逃げろと伝える。それを瞬時に理解。俺はすぐにルミウと反対方向に全力で飛び跳ねる。それと同時に目で捉えるのがやっとだった斬撃が俺のいた屋根上に飛ばされる。


 わぁお、気付くの早くね。


 余裕を持ち回避した俺はその場にて斬撃を飛ばした人間の場所を把握する。常に刀を刹那で握れるよう訓練というか準備はしているので秒で剣技を出せる。


 「サウンドコレクト」


 んーっと、室内には……1、2、3、4……。


 「んで、5人目がお前か!デズモンド!」


 室内からは4人の気配しか感じられなかった。そして5人目をサウンドコレクトが捉えた時、1番の気派を持つ男は俺のすぐ横まで登って来ていた。


 焦らず抜刀、頭部目掛けて振り下ろされる刀をギリギリで受け止める。流石はレベル5の元第1座、危ないとこまで迫られる。


 「お前何者だ?初めて見る面だな」


 「そんなこと気にするほど余裕あんのかよ、元第1座の弱虫くん」


 刀を薙ぎ払う。7割の力を込めたのは久しぶりだ。体力よりも精神を削られる。レベル5にここまで使わせられるんだ、無理もないかもしれないが。


 「あっちの女は知ってるぜ、神傑剣士第1座だろ。だがお前は知らねぇ。新しい神傑剣士でもなければ、神託剣士でも見たことねぇぞ」


 低めの悪役って感じの声をしている。初めて聞いたがゾワゾワして気持ちが悪い。出来るなら聞きたくない。


 片目には眼帯が付けられているのがデズモンドと確信できる。


 「俺が気になるなら拷問でもして吐かせるしかないぞ」


 「ふんっ、抜かせ。どうせあの女の付き人ってとこだろ」


 デズモンドでさえ、王国の極秘については探れなかったようだ。それほど硬く守られた王国内、国王の賢さが垣間見えるな。


 「さぁ、それにしてはお前の刀を受けてたがな。それほどの実力しかないって言ってるように聞こえるぞ。あー、楽に勝てそうだ」


 煽る。こういう戦闘狂はプライドが摩天楼。少しでも擽ってやればすぐに最上階から降りてくる。


 「第1座が元気な間に刀を交えたかったが……先にてめぇを殺すことにするぜ」


 効いてる効いてるぅ!!


 「さぁ、久しぶりに遊ばせてくれよ。元最強剣士!」


 「オラァ"ァ"!業火の太刀!」


 リュートがルミウに放った熱を倍以上上回る熱量と質。間合いも右足だけの踏み込みで15mほどを一息に詰める。同じレベルでもここまでの才能の差に、リュートの勿体なさを感じる。


 正確に喉を斬りに刀を振り下ろす。その刀を受けるのは容易いが、熱を込められているのだから往なす方がいい。それに激甚刀だ、重みもあり未知数。


 激甚刀の先端を俺の黒真刀で下から上に軽く叩く。そして喉から頭の上まで軌道をずらす。これだけでも結構な精密さが必要になる。


 頭上ギリギリを右から左に横切る業火の太刀。


 あっぶね。


 「まだまだぁ"!!」


 今度は左に過ぎた刀を切り返し、再び首を狙う。


 「虚空」


 流石に面倒だ。直径2mの虚空で動きを一旦止める。その間に距離を取り刀を握り直すことで虚空を解く。


 「ちっ!セコい技使いやがって。そうしねぇと勝てねぇのかよ!」


 「勝てるけど熱いの嫌いなんだよ。それにお前は俺の肩慣らしの相手として遊んでやってるんだ。別に本気じゃなくても良いだろ」


 「はぁ?俺がてめぇの肩慣らし?はっはっはっ!夢の中でもいるつもりか?ここは現実だぜ?お前の理想郷じゃねぇんだよ!」


 「いやいや、誰も理想郷とか描いてないって……」


 ただ現実でこれから起こりうる事を言っているだけだ。


 絶対にこいつの影響で捕らえられたプロムが死に際に言う言葉、あんな恥ずかしいやつになっただろ。いい歳してやめろよな!


 「いくぞ、もう長く遊んでると第1座が死ぬかもしれねぇ」


 「ははっ、何を言うかと思えば。第1座がお前の手下に負けるわけがないだろ――舐めるなよゴミが」


 「――っ、極心技・万丈夜叉ばんじょうやしゃ!」


 一瞬俺の殺意に怖じ気づくも、無かったことのように極心技を斬り込む。万丈夜叉、音速並みに連撃を斬り込む剣技。体力消耗が激しい代わりにスピードと鋭さが変化する。


 目、首、胸部と、致命傷を負わせれる部分を正確に狙う。


 しかし、届かない。

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