第三十八話 負けず嫌いとシードへ
――ルミウと剣技を思い出させるための模擬戦は1時間に及び、俺はしっかりとレベル6の剣技を思い出した。型は完璧とまではいかないものの、支障ない程度には磨けた。
ルミウの剣技も見事過ぎて、差が縮まっている気がして途中ドキドキ焦っていた。俺が学園に通う間も鍛錬は当たり前のように毎日取り組んでいるのが分かる。
太刀筋に迷いのない剣士は読みにくい。よって、アドバンテージを持って戦うことが出来るわけだ。負けはしなかったものの、2本致命傷になり得る剣技を体に受けた。
痛みを感じたのは久しぶりだった。それも使い慣れない模擬刀なのだから、最強剣士と謳われるにしては力不足と実感した。
とりあえず今は体力を回復させるために腰を降ろして、水分補給をする。日没寸前まで待ちきれなくなったのは俺の性、故だ。
――「よっ、朝から真面目だったお2人さん」
時間は進み会議室でその時を待つ4人の神傑剣士。
「見てたのかよ」
「お前とルミウの気派を感じて、もしかしたらと思ってな」
俺が模擬戦をするのは珍しい。だからと言って国務を無視してまでも見に来るものでも無いと思うが。
メンデは守護剣士を指導中にも抜け出すことがあるらしい。まじで怠惰な性格は神傑剣士有るまじき。
イケオジを誰か第2座から引き下ろせ。
「私とも戦って欲しかったもんだ。特にイオナ、お前はとな」
「……お前ら国務を遂行しろよ。見てる暇ないだろ」
エイルの国務は60位以下の神託剣士の指導。誰一人として足元に届かないのでエイルは毎回愚痴を言っては、ルミウに指導されるというテンプレが作られている。
60位以下とはいえ、この国の猛者中の猛者が足元にも及ばないのだ。神傑剣士がどれだけ至高の存在か身を以って知っているだろう。
「もうすぐ出発の時間。エイルとメンデは考えて書庫を守って。絶対に半径50m以内に一緒に居たらだめだよ。お互いの邪魔になるし、もし目的が変更されたら対応に遅れるから」
「「了解」」
息を合わせたコンビネーションが出来る2人ではないので、近づけば味方をも斬ってしまう可能性がある。相性が良い2人を書庫の守りに指名したかったが、余裕があり自分の国務を放棄して時間を作るアホがこの2人しかいなかったので妥協して第2座と第8座だ。
力量は申し分ないが、いつの間にか味方同士で戦い合いそうなのが気になる。
「では――」
刀を胸前に掲げる。絶対遂行。100%ミスは許されない国務が義務となり開始する。
すぐに会議室を出た俺たちは、ここから南に位置するシードと呼ばれる王国1問題の多い都市へ向かう。おそらく着く頃には日は完全に落ちて暗闇の中による戦闘になるはず。
室内戦で戦えれば明かりがあっていいのだが、剣技を1つ使うだけで家は破壊される。つまり不可能に近いので暗順応して戦う方が圧倒的に有利。
早く落ちてくれることを願う。
季節も変わり始めているようで、地下で受けた風より涼しく、いや、寒く感じるのは気のせいではない。ランナーズハイによって体が安定するとともに暖まる。それが唯一の暖房機能だ。
「ルミウ、俺の背中に乗るか?」
50m後ろで着いてくるルミウに顔も向けず問う。後ろを向かないのはルミウの顔も見えないので無駄だから。
美人を見たらやる気湧くじゃん?
「負けた気がするから乗らない。それに乗り心地悪そうじゃん」
「相変わらず、負けず嫌いの辛辣美人だな」
負けた気がするから、とか言ってるが勝てる気もしてないルミウは追いつくことが出来ないと誰よりも知っているはず。
体力が大きく関わる『走る』行為で俺の右に出る者はいない。それは体力上限がない特異体質だから当たり前だ。
それであって俺は剣技の才は固有能力で補う部分が多いので、実質神傑剣士で1番強くても1番才能が無く、技術がないのも俺だ。
それを知るから俺は自分を最強とは思っても、必ず勝てるとは思っていない。
走る中でしっかりと慢心をしないよう心構えをする。
「じゃあ、お姫様抱っこはどうだ?」
「シンプルにキモいから乗らない」
「おいおい、それは言い過ぎだぞ。もうルミウのこと好きになってやらないからな」
「それは困る」
「え?なんで?」
「君が私と関わってくれないとバカに出来ないでしょ」
「……一瞬でも期待した俺がバカだった」
こんな会話をしているが、今は国務のためにデズモンドの居るシードに向かっている途中。それに距離も離れているので、例えるなら葬式所でカップルが海辺の追いかけっこをしているように変なことだ。
良く言えば、リラックスした状態。
「このままのペースだと後15分で着く。予定より早いが日没に合わせて拠点に乗り込むんだろ?」
「うん、そう2人に伝えてるから、タイミングは合わせるよ」
「了解」
合図は遠く離れたここからでは届かない。各々の判断によって戦闘が開始される。メンデとエイル、どちらも長年神傑剣士の座に就いている。ヘマはしないと信頼している。
走れば走るほど日が落ちるのが横目で分かる。キレイな黄金色。雲一つない快晴に不気味さは全く感じられない。おそらく王都での書物回収はハズレないだろう。
俺は久しぶりにレベル6の剣技を扱えることにワクワクし、無意識にスピードを上げていた。気付いたのは到着後ルミウに言われてから。
時刻にして18時前、だんだんと黒に染められる街がこれから行われる戦闘によって慌ただしく、赤に染められるのだろう。
目的地に着いた俺たちは自分のタイミングを見計らっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます