第三十七話 模擬戦と王国最優刀鍛冶

 「なんでこんな時期に黒真刀の依頼を?」


 「あと少しで卒業。その前に一騎討ちがあるだろ?その時にオリジン刀を使うより黒真刀を使う方がやり返してる気になれるからだな」


 オリジン刀と黒真刀は性能が全く違う。オリジン刀はどの剣技を使用しても壊れないのに対し、黒真刀は制限がされている。それでも黒真刀を使うのはオリジン刀より精度を高く出来る剣技が存在しているから。


 例えば虚空やサウンドコレクトなんかがそうで、相手を斬らないサポートタイプの剣技は黒真刀が圧倒的に精度が高い。


 「へぇ、イオナも限界がキテるんだね」


 「とっくにキテるわ」


 俺が神傑剣士に就いたのが学園入学前の14歳。当時は驚かれたものだが、知る人こそ少なかったので優越感なんてなかった。


 そして入学早々にイジメが始まり、2年と9ヶ月現在まで続けられている。


 ホント、飽きないやつ。


 「それじゃ、頼んだから期限になったらまた来る」


 「えーもう帰るの?私とイチャイチャしていこうよー」


 「それは山々だが俺も忙しいから遠慮しとく」


 美少女からのお誘いだ。全然イチャイチャしても良いが、面倒なことしか起こらないので絶対に、絶対にしない。


 「なら、最後に監獄の中にいる人適当に1人連れて来て」


 絶対にしたくない原因がこれだ。


 始まった。


 「いやだ、自分で動いて連れて来るか、そのサイコパスを辞めるかのどっちかにしろ」


 この美少女、顔が良いだけで内面はサイコパスの権化のようなイカレ具合である。刀鍛冶としてこの部屋に居ることから分かる通り、このシルヴィアという女、監獄の中にいる罪人を刀の試し斬りに使うという普通の人間の精神状態をしていない。


 魔人一歩手前だろ。怖ぇ!!


 「なら自分で連れて来まーす」


 「そういうことで、またな」


 「はーい、じゃねー。チュッ!」


 「それ毎回いらないって」


 顔だけは良いんだから性格も治ってくれたら接しやすくなるんだけどな。たまに俺も実験体にしようとしてくるから関わりにくい。もちろん捕まっても逃げられるが、レベル5の刀鍛冶であり王国最優なので捕まった瞬間死を意味するかもしれないので捕まりたくはない。


 好かれてて良かった。殺されることは無さそうだしな。


 そうして癖の強い刀鍛冶と別れ、再び癖の強い罪人の命乞いから救いの声が飛ばされる。


 耳イカレるぅぅ!!


 奥に行けば、シルヴィアの部屋に近づけば近づくほど罪人の罪は重くなる。全員無期懲役が最低だが、処刑が決められた罪人もたまに残される。もちろんシルヴィアのために。


 今日はゆっくり寝れそうにもない。


 ちなみにシルヴィアはあの部屋から基本出ることはない。なので俺が神傑剣士として活動していることは知っていても、なぜ存在が極秘に扱われているのかは知らない。


 こうして今日1疲れる作業は終わり、会議も何もすることはなくなったので自宅に戻りテンランの料理を口にして眠りについた。


 ――完璧なまでのナイトメアに昨日のシルヴィアのサイコパスが過る朝、寝惚け眼を擦り起床。重要な国務前に変なことを思い出させてもらった。刀を取りに行ったら罰を与えるしかないな。


 着替えを済ませるとすぐにルミウのいる王城内に向かう。


 出発時刻はまだ先。確かめることがあるため朝早くにルミウのとこに向かうのだ。運が良ければルミウの寝顔か寝起き顔が見れる。


 そうなればめちゃくちゃダッシュ。


 しかし、そう上手く思い通りにいく相手ではない。


 「やぁ、朝早くからなんの用事で?」


 「珍しく早起きしたな?俺が来ること知ってたのか?」


 「君との付き合いは長いからね。下心ある時は分かりやすいよ」


 「余裕ある女性なら寝顔ぐらい見せてくれると思ったけどなー」


 「私はそんな甘くないんだよ」


 バッチリ目も覚め、制服も着こなしている。それに寝癖1つもないキリッとした立ち居振る舞いのルミウ。完全に先を読まれたみたいだ。


 刀も腰に下げられている。おそらくオリジン刀で、昨日のシルヴィアを見る限りギリギリに製作したわけでもない。準備万端だったのはらしい。


 「今度再挑戦だな」


 「やれるもんなら」


 言葉に圧を感じる。辞めろと言われているのが伝わってくるが知らないふりをする。どうせ神傑剣士同士のお遊びなんだ、こうやって息抜きをしなければ張り詰め過ぎて倒れることも考えられる。


 「それで、ホントに君は何をしに?」


 「剣技だよ。レベル5までは鍛えたがレベル6はまだ使ってないからな。いきなり使えば負担が大き過ぎる」


 「なるほど。君は今回の国務で使うつもりなんだね?」


 「俺の固有能力でも体力はそれ相応に減るからな。なるべく使いたくない」


 誰であれ固有能力は体力の消費が激しい。酷使すると命を削ることになる。いざとなれば命をも削るのが俺たちだが、なるべくそれを避けるために頭を使うのもまた神傑剣士としての在り方だ。


 「だから私と模擬戦をしようと朝早くに訪ねてきたってことね」


 「大正解」


 神傑剣士なら誰でも十分相手になり得る力を持つが、今回は国務に2人が出向くので丁度良く刀を交えることが出来る。ルミウとは久しぶり。本気では交えないので闘技場が吹っ飛ぶこともない。


 「今から向かう?」


 「ああ、早い方がそれだけ早く体力も回復するだろうからそうする」


 「了解、刀は?」


 「模擬刀で十分。型を思い出させれればそれでいい」


 「了解」


 そして2人揃って闘技場に足を運んだ。

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