第三十六話 神集と王国最優刀鍛冶

 学園終わり、放課後にこの場に集まるのは何度目だろうか。神傑剣士に就いてもう80は超えている気がするが、気だけではなく本当に3桁へ迫っているだろう。


 そんな今、俺はクールビューティー剣士、イケオジ剣士、オラオラ剣士と4人で話し合いをしている。空気はなかなか美味しい。


 「――説明はさっきの通りで全部だ。それらの理由によりルミウと俺はシードに向かう。だからメンデとエイルは書庫の防衛を頼む」


 「なんで私がこの老いぼれと一緒に守らないとといけねぇんだよ」


 「おい、お前俺と歳1つしか変わんねぇんだからな?」


 仲の良さは見て分かる。どっちも老いぼれではないし、実年齢より全然若く見える。


 そんなメンデは不満気に俺に愚痴をぶつけてくる。


 「なぁ、書庫の護衛ならエイルだけで良いだろ」


 「エイルだけで対応出来るのは最大30人ぐらいだ。それ以上来たら苦戦するだろ。だから少しでも各々の国務に影響しない程度に、楽してる老いぼれを招集させてもらったんたよ」


 「はぁぁ……それならわざわざ神集ユリフォンで呼ばなくても良いものを……」


 「お前はそうしないと来ないだろ」


 神集ユリフォンとは神傑剣士だけが持つ特別権利だ。主に国務で困りごとが起きた際、又は緊急事態を知らせるために発令可能の権利で、神傑剣士を指名し会議室に集めることが出来る。


 現在俺らの国務はルミウが指揮しているが、神集は指揮権関係なく開いた剣士がその時の指揮権を持つ。


 強制参加なので断ることは、特別な理由がない限り不可能。


 ちなみに、神傑剣士は権力の差はないものの、第1座に近付くに連れて神傑剣士内での小さな権力の差が表れ、上の星座が基本権力が高くなる。ただ、指示は断ることも出来るので強制ではない。ちょっとしたお遊び程度に考えている。


 「とりあえず、王城は2人に任せた。可能性の話で動いているから来ないこともあり得る。逆にまた別の策を考えているかもしれない。だから、常に頭を回転させて行動すること」


 「「了解」」


 「ルミウは万全の状態になったら俺に連絡するんだろ?俺はいつでも準備万端だからタイミングは任せる」


 「うん。そろそろっていうか、明日には向かっても良いけどね」


 「なら、エイルとメンデが良ければ俺たちは明日向かうが」


 「俺はいいぜ。さっさと済ませて休みたいしな」


 「同じく。小物を相手にしても楽しくないからな。早くボコって終わらせたい」


 「了解。なら明日日が落ちる1時間前に向かう。その時から書庫を頼んだ」


 「「了解」」


 どちらも猛者との戦闘にしか興味のない。逆にルミウと俺は別にそんなことはどうでも良く、運良く猛者に会えたら良いな、的な立場なので国務で無ければ交代してやりたいところだ。


 しかし、俺も普段通りではない。ストレスは十分に溜めてある。今にでも首に一閃刀を通しても良いんだが、我慢だ。


 なにより控えるはリュートとの一騎討ち。今は煽って、ルミウのおかげもあり着々と剣技を磨いているようなので、渾身の一撃を再び絶望への一撃に変えてやる。それまではストレスは全部解放しない。


 「以上で俺の要件は終わったが、3人から何かないか?」


 「「「なし」」」


 「なら、これにて神集を終了とする」


 ――解散後、向かうは学園でも自宅でもない。


 王都内、地下にある牢獄。地下なのに露出した肌に触れる風が冷たく心地良い。そんな中を無心で歩き進める。


 こいつらを意識したら俺まで頭おかしくされるわ。


 何人もの助けてと叫ぶ声が耳にうるさく響く。重要人物として捕まっても、神傑剣士の優しさで死ぬまで牢獄の中で生かせてもらってるんだ。黙ってくれると耳に優しく、俺は助かる。


 まるで地獄に居るみたいだな。


 ここにいる人は皆、俺のことを知っている。だから神傑剣士の権力を使って助けてと求める。しかし俺は耳を傾けることは皆無。目的地へ進むだけ。


 そして着いた場所、そこは監獄の1番奥であり、王城で最も優れた刀鍛冶が住む部屋でもある。何故こんなとこに住んで居るのか、それは単に好みだかららしい。


 毎回ここを通って来る俺たちのことを全く考えてくれない。そこがその人らしいって思うとこなんだけど。


 「シルヴィア、居るか?居なくても入るぞ」


 彼女の名を呼ぶと、2秒後に「入ってー」と元気に返事が返ってくる。いつも元気なこと。


 ドアを優しく引いてお邪魔する。


 するとお約束のようにシルヴィアは俺の体に勢いよく飛び込んでくる。


 「イオナー!ひはひふひはへ久しぶりだね!」


 「顔を擦りながら喋るなよ……」


 シルヴィア・ニーナ。王国で1番の刀鍛冶と言われる、ルミウの専属刀鍛冶だ。ルミウのオリジン刀を主に製作しているが、神傑剣士の黒真刀も製作してくれる万能な女の子。女の子と言っても歳は1つ上の19歳。


 「それで、今日は何しに来たの?もしかしてようやく私と結ばれたくなった?!それならいつでも言ってくれれば――」


 「違うっっって」


 顔を俺の腹から引き剥がして態勢を整える。


 このシルヴィア・ニーナ。俺のことが――ルミウを俺が負かした時から好きらしく、会えばいつもこうして結ばれることを要求してくる。可愛い垂れ目をした落ち着いた女の子に見えるが、内面は天真爛漫である。


 可愛いから良いんだけどね!ってか思えばテンラン、ルミウ、エイルその他神傑剣士の女性は美人しか居ないから、ニア以外でこうして可愛いを摂取するのは良いな。


 美人の次は可愛い最高!!


 「黒真刀を製作して欲しいんだ。期限は1カ月半で頼む」


 「なーんだ。真面目なお依頼かー」


 「真面目な依頼しかしたことないけどな」


 ニアには主にオリジン刀を製作してもらい、黒真刀はニアもたまに頼むがシルヴィアが主になる。微々たる差でシルヴィアに軍配が上がる黒真刀だが、その差が命取りの世界だ。妥協はしない。

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