第三十五話 プロムの裏と気付く第8座
これで俺がここですることは無くなった。これからルミウが俺に直接伝えに来るまで、何もすることはない。が、一応ルミウが会議室に居るかもしれないので、寄ってみるとする。
毎回予想外の時に席に座っているので、今回はなんとなく居ない気はしていた。
会議室の扉を開く。第1座を確認すると座る人は誰もいない。
よし、俺の求める人は居ない。帰るとしよう。
「おっ、ナイスタイミングだイオナ。ちょっとこっち来いよ」
「……嫌だよ。どうせ模擬戦か何かだろ」
求めない人が1人、第8座に座って珍しく考えごとをしているようだった。
「心外だな。私もそこまで模擬戦バカじゃない。――今から言うことはお前たちの国務についてだ。だから聞くだけでもしといた方がいいぞ。どうせ帰ってもテンランとイチャイチャする訳でもないだろうし」
「だからってお前とイチャイチャしろって?」
「嫌か?」
「いや、美人とイチャイチャ出来るなら大歓迎だ」
「……1言余計だ」
「美人とイチャイチャ出来るなら」
「そこじゃねーよ!!」
「はいはい、知ってる知ってる。茶化しただけだろ」
相変わらず29歳とは思えない性格と顔だ。22歳と言われても頷くし、ルミウと同い年と言われても頷く。単にルミウが大人の色気を持っているからというのも関係しているが。
何食ったらこんないじりがいのある性格になるんだろうな。めちゃくちゃ可愛いじゃないか。
茶化して一段落すると、俺は久しぶりに自分の席――第7座に腰を下ろす。
「んで、俺たちの国務についてどんなことを?」
「あ、ああ」
俺のキャラの切り替えに戸惑うエイル。確かに俺自身、冗談と真剣の切り替えは長けていると自負している。
「調べてたら気になった事があってな。特にイオナ、お前が始末した2人の貴族のレベル覚えてるか?」
「もちろん。どっちもレベル5だったぞ」
「そうだよな。それで私とルミウが裏で始末した刀鍛冶も当然レベル5だったんだ。ここまでは何も変ではないんだが、不思議なことに、始末した奴らは全員
「……それが何か?」
「お前が捕らえた短刀を持つ2人のレベル5は元々レベル5じゃなかったんだろ?」
「そうだが」
どの気派を読んでもレベル4を超えることはなかった。5として備わった力ならきっと神託剣士1人にあれほど時間を費やすことはなかったはず。
「なら、私の予想では短刀を使う剣士だけがレベルを無理に5まで引き上げられてるんだと思う。詳しく言うと、レベル5をプロムに引き入れようと襲い掛かった奴らだけが、レベル5に無理矢理引き上げられてるんだ」
「なるほど……」
完全に理解は出来ない。しかし、エイルの言いたいことはだんだん分かってくる。パズルのピースが埋まっていくように。
「そして、シードに居るデズモンドの配下は全員がレベル5だ。じゃ、無理にレベル5にされた奴らは今どこに居るんだ?今もまだ勧誘をしてると思うか?」
「いや、それはあり得ない。プロムの目的は王国の書庫にある書物に書かれた禁技による世界征服っていったところだ。内容を知る者を殺したんだ。勧誘なんてしても、書物を手に入れる方法がないんじゃもう意味がない」
「だろ?それに無理矢理レベル5にされた奴らはお前が捕まえた2人以降、誰1人として姿を現してない。身を隠してるってことだろうが、変だ。何かの機会を待ってるようで……」
バレたのかもしれない。デズモンドがフィートとジェルドが殺られたことを耳にし、潜ませた……無きにしもあらず。
「プロムの目的はこの王国の書物を手に入れること。つまりデズモンドたちはそれを求めて今シードに居るんだろ?なんでわざわざそんな遠くに拠点を構える。普通ならもっと近くに……」
自分で言っていて、ここでようやく1つの重要になるかもしれないことに気付く。
「陽動……の可能性はないか?」
「陽動だと?」
「本命を、シードにいる自分らに向けさせ神傑剣士をシードに呼び、隔離する。そうすることで潜ませたレベル5を書庫に向ける。ここからシードまでは片道俺の全力で30分は必要だ。戦闘を踏まえると1時間半は使うし、盗むには余裕のある時間だ」
元第1座だから国務についてよく知っているはずだ。国務はとてつもない激務。だから他の神傑剣士と同じ行動はできず、1人行動が基本。なら、デズモンドと戦う神傑剣士は国務を任された1人。レベル5に引き上げられたことによる体力、技量向上なら王城内の神託剣士を倒してでも書庫に入ることが可能。
実際敗北したとも耳にする。
もっと鍛えろよな!
それに、神傑剣士同士でいくら国務を裏からサポートしていたってそれにも限界がある。国務と同時進行なのだから、下手すれば寝る暇もない。だから国務には1人が基本だ。
たまにルミウとか他の神傑剣士に任せてるけど、あれは例外だ。可愛いから許されてるってとこもある。
美人最高!
「つまり、お前たちがシードに来た瞬間に書庫に突入……ってことか。――よし、それならお前たちに合わせて私が書庫を守ろう。もしものためだ」
「良いのか?用事とか国務で忙しくないのかよ」
「これも国務の1つだろ。別に私の国務が滞っても困ることはねーよ。すぐ終わらせるさ」
「そうか、それなら助かる」
「おう。任せろ」
エイルは言葉に覇気が籠もっていて頼りがいがある。信頼出来る心構えをしているというか、覚悟を常に決めている感じだ。いつ如何なる時でもそれは変わらない。
カッコいい女剣士って惹かれるよな……。
「良いことを聞かせてもらった。ありがとな」
「たまにはお前の役にも立つさ」
「今度お礼するよ」
「そうか、楽しみにしてるぞ」
「ああ。それじゃ、俺は一旦帰宅する。またな、美人剣士」
「……ホ、ホントに好きだなお前は……」
照れるエイルを横目に第7座を立った。
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