第三十四話 断罪

 翌日、俺は再び王城内へ足を運んでいた。理由は断罪の件についてなるべく早く解決しておきたいと思ったからだ。


 今日は昨日のルミウとエイルのおかげで気分が良すぎたので調子に乗ってリュートに、お前は弱い者しかイジメない弱者だ!と言ってやった。そしたら血管ブチブチ寸前まで怒り、渾身の一撃を何度も打ち込んできた。


 もちろん痛くも痒くもないし、力加減が完璧なので俺にマッサージをしてくれたと更に気分を良くしてもらった。なので学園帰りにしては遅い。


 にしてもリュートのやつ、ルミウから言われたこと思い出していつもの倍はキレてたな。面白いわ。


 深く傷ついたリュートの、憂さ晴らしを手伝ってあげた優しさにドMを感じるがそこは無視しておじいさんおばあさんの居る1階へ向かう。


 会議室からは遠くない。


 牢屋の中に居るのだが、それはまだ刑が確定していない人が収容される牢屋であり3食ご飯付きの、まだ咎人として言われる前の状況にある。


 確定すればそれに応じてその咎人に対しての罰が決められ執行される。敵対勢力の重要人物は良くて死ぬまで牢屋、悪くて即死刑執行だ。


 「確か54……だったよな」


 収容されている部屋番号を手に表記されたプレートを見ながら歩く。この場に監視は誰1人として居ない。逃げ出したのなら即神託剣士が動き、首を弾きに向かうのでそもそも逃げ出す人はいない。


 もし神託剣士が捕まるような事をした場合は神傑剣士が動く。つまり逃げ道はない。


 「あっ、みっけ」


 厳重な施設であり、刀なし気派も特異ではなければ抜け出すことのできない厚さ80cmほどの鉄でしっかりと閉じ込められている。


 ここまでする必要もないと思うのは俺だけ。他の剣士からすれば罪人でありプロムのレベル5だ。下手したら死ぬ状況で甘いことを聞いてられない。


 第7座の印を使い、扉を開ける。1人では重労働だ。


 開けた先には疲弊した老夫婦がぐだーっと寝転んでいた。


 「どうもどうも、お久しぶりです」


 そんな2人に構うことなく俺はいつも通り元気に好青年感を出して話し掛ける。


 好青年じゃないのは俺自身も知っている。だから好青年感なのだ。そもそも好青年の基準すらよく理解していない。


 「……君は……」


 目を細めて俺の素性を確認する。気派の流れも思うようにコントロール出来ていない。それほど弱っているのは陽の光を浴びていないからだろうな。


 「えっ、覚えてないんですか?」


 「いいや、覚えているよ。ルーフで助けてくれた剣士だろ?」


 「なんだ、覚えてるんですね。良かった」


 俺を見て息を吹き返すように体を起こす。拷問はなくとも精神的な苦痛はあっただろう。しかしそれを乗り越え今に至る。この老夫婦にはあと50年は長生きしてもらいたいものだ。


 「ではここで改めて、自己紹介をさせてもらいますね」


 ローブに隠れる神傑剣士の紋章を見えるように右手で空間を作る。


 「俺は神傑剣士第7座シーボ・イオナと言います。初めて聞く神傑剣士の名前だとは思いますが第7座なので当たり前です。なので気にしないで覚えてください」


 「……神傑剣士第7座…………やはり君があの序列無視の……」


 おばあさんは知っていたよと言わんばかりの顔をしながらも、怪訝な表情もみせる。


 まぁ見た目若いし学生だから信じられないのは納得だけど、あり得ないって顔はしないでくれると嬉しんだが!


 「やはりって、もしかしてバレてました?」


 「確信は無かったけどそうなんじゃないかなとは……」


 「ははっ、俺もまだまだですね」


 気派の扱いに長けているのも多少バレる要因になるのだが、それより俺があれほど洞察力が鋭かったら薄々気付くだろう。だからほとんど自業自得。


 「では、お2人について説明……というか簡単に今後についてどうなるかを説明しますね。まず俺が神傑剣士と知ってしまったので最低でも今日から2ヶ月は牢屋に閉じ込められます」


 これに関しては理不尽極まりない。俺が勝手にバラしただけで閉じ込められることが確定するのだ。冤罪なら神傑剣士として失格だ。


 それにしてもこの2人、どんな罰でも受け入れる覚悟をしているのが分かる。静かに文句1つ零さず俺の口を見つめている。


 断罪しにくいんだけど……。


 「ですがそれまでです」


 「……え?」


 「重要人物はどう云った理由であれ死ぬまで監獄の中ですが、今回は特別処置として俺が神傑剣士として正体をバラす2ヶ月後までの期間だけ閉じ込められてください」


 異例のことに2人して口がポカーンとしている。


 例外なんて1度も無かった。しかしこうして神傑剣士が正式に言い渡したことなので信じるしかない。信頼度100%の神傑剣士、それも序列無視として知れた王国最強の神傑剣士だからこそ、よりこの状況が信じられないのだろう。


 「そ、そんなことで良いのかい?」


 「罪なき人を死ぬまで閉じ込めることは俺にはできませんよ」


 老夫婦を痛めつける趣味は俺にはない。あのゴミ野郎、別名リュートですらないだろう。


 あっ、リュートが名前でゴミ野郎が別名か。たまにどっちか分からなくなるんだよな。似過ぎて。


 「なんとお礼を言ったらいいか……」


 「必要ありません。むしろ無罪の人を2ヶ月も閉じ込めるんです。申し訳ない」


 「いいえ、加担したのなら当然です。謹んでお受けいたします」


 「はい」


 心が痛むのは断罪で初めて。しかも初の断罪だから印象に残る。なるべくガチで罪を犯したやつを捕まえて裁きたいものだ。

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