第二十三話 奇襲には隙が有効
まさにこの場にはメンデ、闇夜の剣士に相応しい。街灯はあれど、月の光は届かない。いや無いのかもしれない。そう思えるほど静かで暗くて、まるで昔の俺の心の中にいるようだ。
そんな中を1人ボッチで走る。誰にも気取られない俊敏な動きで。きっとレベル5であり、剣技を悪用してるだろうフィートは俺が身を隠そうと気づく。ならば逆にそれを利用すればいいのだ。
俺は屋根の上から降り、コンクリートで硬くキレイに整備された道に降りる。路地裏ではなく、市街地のど真ん中、それも広場に。そして広場を歩く。今は目で見れば誰とは分からなくとも人がいることは分かる。
さっさと来てくれれば俺もそれだけ早く帰れるんだけどなぁ。付き合ってやるんだからフィートから出てこいよ。俺、自分から待つのは好きだが誰かに待たされるのは嫌いなんだよね。
とはいえ勝手に約束をして勝手に待ってるようなものなのでこの件において悪いのは圧倒的に俺。
しばらく歩こうが、一向に出てくる気配はない。相変わらずありえない静けさと、家の中から溢れ出る光が矛盾していた。音を遮断されているみたいだ。そんなことできるわけもないと分かっていても考えてしまうほど俺は暇をしている。
仕方ないな……。
時間は有限だ。無駄にできる時間なんてないので俺は周りへの警戒度を皆無にする。つまり隙だらけということだ。
意図的に警戒を解いたので怪しまれるかもしれないが、それが逆にいい。フィートはきっとやってくる。これをするだけで実力は計れるからな。猛者に自分の剣技を試してみたいと思わない男ではないだろう。
金具に錆無し、板にも腐りなしのベンチに腰掛ける。両手はホルダーと鞘から完全に離れた背もたれに置く。堂々としながら襲ってこいとアピールしているのだ。
これ、カッコよくね?あ、俺だけ?それは失礼。8歳から普通じゃない生活をしてると普通のカッコいいはもちろん、普通がなんなのか分からなくなってるんだよな。
足も組んで隙をさらに見せてやろうと余裕を見せた瞬間、風見鶏が1mmそれどころか毛玉すら動かないほどの微風が頬を刺激した。殺意と狙いの視線だ。
来る!
瞬時に察知した俺は外見では何にも感づいてないふりをしながらも、心の中で、頭の中では戦闘態勢をとっていた。位置は北東に25mほどの屋根の上、ほぼ正面にいるのがどれだけ自信を持っているのかの証明にあたる。
そしてそのまま足を組んだ瞬間。右足が左足に重なったタイミングを見てその気配は俺に向かって一直線で飛んできた。相当な力を込めて飛んできたのだろう、25mもの距離を僅か0.3秒で詰めてきた。
思ったよりも速すぎな!もっと手加減して最初は切り込みに来いよ!死ぬかもしれないんだぞ!
一瞬だったものの、俺は右手でしっかりと己の刀を握っていた。そしてすぐキンッ!と、耳で捉えれば高音で嫌な音を刀が交わることで立てる。
「おいおい、いきなりは嫌われるぞ」
身長は180cmの俺と変わりない。歳は30後半といったところか、先に聞いていたフィート男爵の情報と一致しているな。
「…………」
「無言キャラか?さてはお前、友達居ない人生を今まで過ごして来たな!」
俺の問いかけや煽りにも反応しない男はそこでわざと刀を弾き一旦後退した。
「……私の刀を良く受けきったな」
「あぁ?殺意丸出しのくせによく言うわ」
殺意は完全に無にすることはできない。人を殺そうと思わない人間ですら殺意はある。それは生きるためなら死をも選択するべきことがあるかもしれないと生まれた瞬間から本能で理解するからだ。
「君は何位の剣士かな?」
何位と聞くなら神託剣士と確信して飛び込んできたということ。いや、今刀を交えて分かったのか。なんにせよその度胸は俺を殺せれば褒められるもの、俺から殺されれば蛮勇ということになるだろうな。
「俺はだな、んー、何位にしようかな。じゃ適当に7で」
7位の神託剣士さんすみません。
「君は神託剣士ではないのかい?」
「んだよ、今7位って言っただろ」
「そうか、そうだね。まぁ気にしたとこで君はここで死ぬ。これは決められた未来だ。神託剣士なのか何位なのか聞けないのは記憶しておきたい私にとって残念だが別に構わないだろう」
こういう慢心してるやつが1番嫌い。俺お前より実力あるからぁ、とか余裕ぶっこいてるやつを見るとリュートを思い出す。あぁ!思い出したらリュートにもこいつにもムカつくだろ!
心の乱れは剣技に影響する。常に心は揺らさぬようにしなければいけないのに。
「そんじゃどっちが死ぬか試して見るか?」
ここで激しい戦闘をしても誰も目にすることはない。それはルーフの民全員そうだ。理由は2つあり1つ目はフィート自身のせいだ。フィートが殺人のために魔人がいると嘘を付いたおかげで誰も出てこない。
2つ目は俺が国民の耳に入るほどの音を立てて刀を振らないからだ。1番近い家でも20mは離れている。それだけあれば談笑していれば気付かないほど。
ってことは思いっきり遊んでいいってことですかぁ!?
「君が死ぬと言っているのに……聞き分けが悪いですね」
「おじさんの予言なんて誰が聞くかよ!」
おじさんはどこのラインからそう呼ぶのか、俺の中では30後半だった。
「では瀕死の状態にして無理矢理聞かせてあげましょう!極心技・
男は両手で刀を握り、重心を低くしたまま刀身を突き刺すように距離を詰める。ノーガードなら間違いなく死ぬ。それを悟った俺は鞘から僅かに刀身を見せ、その部位でガードする。
「まだまだ鍛錬が必要だねーおじさん」
「ふんっ、これぐらい止められないで何が神託剣士ですか。まだまだですよ!」
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