第二十二話 神傑剣士の権限

 とりあえずこの2人が善人のままで良かった。心もプロム側なら戦闘は免れなかったからな、ヒュースウィット王国民としての誇りを持った2人に感謝を。


 「では、本題に入らせてもらいます」


 「ああ。今度こそなんでも聞いてくれ」


 「まず、フィート男爵が外出を禁止してると嘘を付いた理由はなんですか?」


 「それはフィート男爵が新たに習得した剣技を悪用して殺人をしているのを隠すためだよ。夜になると魔人が出るから19時以降は外出をしないようにと、フィート男爵が自分が殺人をするところを目撃されないように嘘をついてる。魔人って言われたら権限がなくても男爵って身分だけでみんな信じるからね」


 なるほどな。別に統治権を行使しなくても国民は動かせるか。頭使ったのか?やるじゃないかクズ貴族。


 聞く限り5人の守護剣士と他に国民も何人か殺してるな。もうサクッと殺すか?いや、情報を聞き出すまでは我慢か。


 「それで、もし19時以降外を歩いている人が訪ねてきたら毒殺しろとも言われてる。これはプロムだけじゃなくてここに居るルーフの民全員がそうするように言われてるから、私たちだけじゃないよ」


 そうだよな、魔人が訪問してくるって思うから毒殺できればそれ以上を望むことないし。


 ってか魔人って毒でやられないだろ。なんで気づかないんだよ。毒殺できたらみんな魔人に怯えないだろ。国民しっかりしてくれよぉぉ!


 「プロムのトップは誰か知ってますか?名前でも特徴でもなんでもいいので」


 「それは教えられないんだよ。フィート男爵は知ってるみたいだったけど、私たち弱者には教えないのかもしれない」


 「そうですか」


 これも収穫なし。でもフィート男爵を捕まえればワンチャンあるな。殺さないように捕まえるとか難しすぎるがやるしかない。


 レベルが高くなればなるほど相手と競るため、うっかり殺してしまうことがある。俺はギリギリないが第8座なんてしょっちゅうらしい。まったく、怖いお姉さんだこと。


 「1ついいかい?フィート男爵はとても強い。以前レベル5のプロム5人と戦ったらしいが圧勝だったと聞いた。1人で戦いに行くのはやめたほうが良い。神託剣士か神傑剣士に任せないと」


 「ご忠告ありがとうございます。でも心配しないでください、俺は何も戦いに行くわけではないので」


 一方的に殺しに行くだけだ。戦い?そんな余興に付き合ってやるほど俺は善人ではない。人殺しに手を染めた人間に1秒でも早い死を届けるのが当たり前だ。


 「そうかい。それなら私たちも安心して送り出せるよ」


 「はい」


 こうやって意味は違うが安心されると嬉しいものだ。信頼されてる気がして勝手に力が漲ってくる。ワクワク感がそうさせているのか、きっと最近飢えていたからだろう。


 レベル5を圧倒するフィート男爵……か、どこまで生きていられるかな。


 「お2人はどうされますか?誰にも危害を加えてないのでしたら見逃すこともできますが」


 「いいや、しっかりプロムに加担した罪を償うよ」


 おいおい、こんな善人をプロムに引き入れるとか絶対に許さないからな。どんな顔か拝んでやるわフィート!


 「では、自首する際に自首理由と共にこうお伝え下さい『18歳のイジメられてる少年に言われて自首しにきた』と」


 王国内で大罪を犯した者、特に国務に関係することでの重要人物や関係者は例外なく神傑剣士に裁かれる。その際自首した者でも罪の理由を伝えられる。今回は俺の伝えた言葉とともに報告されるため、神傑剣士たちは意図を察して俺が裁きに来るまで待つだろう。


 「なぜだい?」


 「後々罪が軽くなるおまじないです。俺、それなりに高い地位に就いているので」


 薄々気づいたりするかもな。気づいたとしても誰にも言わないだろうし、広められても名前も知らないから誰も信じない。だから別に2人にバレても問題はない。


 「分かった。何から何までありがとう」


 「いいえ」


 少量の荷物を持つ。


 「では、俺はここで」


 「こんな時間に1人で行くのかい?それは危険じゃ?」


 「大丈夫です。先程も言いましたが俺はそれなりに地位があって力もあるので」


 「……分かった。君からは不安を感じない。つまりはそういうことなんだろう」


 おお、気派きはを感じれるのか。おじいさん現役は神託剣士の上位20には入ってたな。


 気派とは俺が相手のレベルを見抜くときに使う、誰もが生まれたときから持つ能力。鍛錬によって殺意を感じたり、感情を読み取れたりと成長できる。最大値まで伸ばすとルミウの念話を感じ取れるまでになり、物に移された殺意や圧を感じ取れるようになる。


 俺は体力と同じで気派も限界がない。だからレベルを見抜くことができる。普通ならありえないが、他にも神傑剣士に限界のない気派を扱う天才はいる。


 「それでは、いろいろとありがとうございました」


 「気をつけて。また会えることを信じてるよ」


 振り向かず手を上げることで応える。


 高確率で会うんだよな。裁くときか一騎討ち後にな。


 「よっしゃ!今頃この街をフィートは歩き回っては人殺しをしてるんだろうなぁ!」


 気合いを入れる。外を歩くのは俺だけだが、それがなんだか気持ちよく感じる。涼しいからかもしれない。まだ冷える時期じゃないのに。


 結局、ルミウとの予想通りこの国務はめちゃくちゃプロムと関連していた。なんなら暗殺対象がプロムだから笑ってしまう。


 しかしこの国務を任せられて良かった。


 フィート、練習台になってくれ。

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