第二十一話 プロムの関与
「……え?」
おじいさんは俺の発言が意外だったのか、それとも図星だったのか、おそらくどちらも当てはまる反応を示した。
それもそのはず、初対面の若い男にほとんど見抜かれてしまったのだから。俺がおじいさんの立場なら動揺を体全面に出してるぐらいだ。おじいさんの方がまだましだな。
「理由を聞いているんです。俺が求めているのは疑問でも聞き返しでもないですよ」
「……あ、あぁ。すまない。いきなりのことで意味が分からなかったよ」
笑顔を見せるが、心は笑っていない。瞳孔の揺れ幅が異常だ。焦りを隠そうとしても不可能なところは人間何箇所もある。その1つを目で捉えた俺は確信する。
こいつらはプロムだ。
「落ち着かれましたか?ではもう1度――なぜ毒を?」
「毒なんて仕込んでないさ。失礼なことを言う子だな」
敢えてしらを切るつもりか……。
「ではまず、ルーフの統治権を持つのはジェルド公爵だ。だからフィート男爵には領地統制権限がない。なのに民の外出を禁ずることはできないはず。そこが1点」
領地統制権限とは土地を治める貴族が、同じ貴族に統治権を渡すことのできる権利だ。しかし条件があり統治権を持つ貴族が治める土地に居ない場合か、1つ下の位に属する貴族に渡すかのどちらかだ。
つまり公爵から男爵には渡すことは不可能。
「次に王国では45歳を過ぎた剣士は王国から
優刀を玄関に飾ることで職に就かずともお金が貰えるようになる。それはその歳まで命を懸けて剣士として戦ったことを王国が褒め称えているためだ。
その他もその人のレベルによって優遇度も変化する。もちろんレベル1よりレベル5がより上だ。
「最後に、おじいさんたちレベル5でしょ?レベル5はどこに居ても何歳だとしてもホルダーを所持してなければならない義務がある。だけど2人ともホルダーはそこの棚の上に置いてある。あれ?大丈夫なの?」
レベル5は緊急時の際招集がかけられることがある。神託剣士、守護剣士の人数を以っても対応できない事態に即座に対応するためだ。
――まさか俺が相手のレベルを見抜けるとも、ホルダーを持っていないことに気づくとも、神傑剣士だとも思ってなかっただろう。
残念!相手が悪かったな!
「……それで、知ったところで私たちをどうするんだい?」
ホルダーには手は届かない距離。少しでも動けば刀を抜かれると悟っているから無駄なことはしない。なかなかのやり手のようだ。
「情報を話してくれれば罪を軽くすることはできます。そして安全も保証します」
嘘ではない。
「……分かった。全てを話す」
「いい選択です。ありがとうございます」
戦闘にならないで良かったと心底思う。戦えば勝ちはしても有名になってしまう。有名にはなりたいが今はまだなりたくない。
「それにしても君は一体なんなんだい?私たちのことを見抜いて、それでも動じないその芯の強さ。並みの剣士じゃないと思うが」
「知らないほうが良いことはたくさんあります。その1つですよ」
「はっはっは、そうかい。それなら聞かなかったことにしてくれ」
殺意も圧も感じられない。ホントにこんな人がプロムなのかと信じられない。よく、いい人に見える人が罪を犯すとか聞くが、まんまそうなってる目の前に思わず鼻を鳴らす。
あー良かった。めんどくさいことにならなくて。一安心だ。
「本題の前に1つ、おじいさんたちはなぜプロムに?」
「命に代えれるものはないでしょう?だから脅されたら嫌でも首を縦に振るしかできないのよ」
始めておばあさんが口を開いた。そのトーンは落ち着いていたが、寂しさを感じる。
心にグッと来るものがあるんだよな、こういうのって。泣けるな。
「私たちの歳になるとレベル5でも若い人には勝てないのよ。だからフィート男爵の言いなりになるしか道はなかったの」
確かにそうだ。しかし歳を重ねても強い例外もいるが。
「では今まで剣士を襲ったことは?」
「私たちは誰も殺していないし、誰もこちら側に引き寄せてもいないよ」
「そうですか。なら罪は軽くできます。もし殺人をしていたならこの瞬間お2人には未来はありませんでしたが」
2人同時に首を両断することは簡単だ。レベル5であれ、ホルダーを持っていなければレベル1と変わりないのだから。
それにしてもたまたま選んだ家がプロムなんてやっぱり俺運悪いよな。暗殺なのにプロムにまで関与し始めたらどうしようもないぞこれ。
レベル5なら歳関係なく誰でも勧誘するのか。無理矢理引き込んだってことは、アズバン伯爵の思想と違うレベル5でもそれを超える力で抑え込んでいるのだろう。つまりこれはレベル5だけを集めた一種のテロのようなもの。
国に対して不満を募らせる者や、力で制御できるレベル5を集めて国を陥れるつもりか……。この段階ではまだまだ10%も解析できたとは言えないな。
分かることはアズバン伯爵のように『剣技が全て』という世界が気に食わないから、という理由ではないということ。そしてヒートブレーカーの能力なしでもレベル5を集めているということ。これならデズモンドとの関係性も低くなるが、以前捕まえた男たちのように引き上げられてるプロムもいるのでなくなったとは言えない。きっと関係してるはずだ、ルミウが確信するほどだしな。
んー、話が大きく変わってきてるな。首謀者を突き止めなければ前には進めないか?
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