第十五話 国務の話し合い

 「デズモンドについてだが、黒として話を進めるならまずは存在を確かめる必要がある。もうとっくに死んでたり他国に住んでいるのなら黒からは遠くなるからな。生存していてなおかつこの王国にいるか調べないといけない」


 あの日、デズモンドが神傑剣士ではなくなった日から10年。これだけの期間があれば戦闘狂と言われる人間なら心変わりが起きててもおかしくはない。たとえ神傑剣士だろうと人間だ。自分の好きなことを抑えてこの国のために行動することに耐えかねてに行った可能性もある。


 はぁぁ……ったく1から探るのは苦手だな。


 ただ敵と戦うだけと思って就いたこの座も、思ったよりそんなことはなかった。国務から学園生活まで幅広くやることはあり、今となっては暗躍を1から始めるという重要任務を任されている。


 こうして思えば俺も一種の戦闘狂なのかもな。


 「それについては私が引き受けるよ。君は私が得た情報を聞くまで動かないでいてくれればそれでいい」


 「いや、さすがにそれはルミウが激務過ぎないか?」


 俺とルミウに任務を任された。だから俺からすればルミウ1人に何もかもさせるわけにはいかない。ルミウはどんなことがあろうと問題がないと信じているが、これは俺の性格の問題だ。納得できない。


 「君はまだフリードに通う学生。そんな君に何を調べろと言える?たとえ神傑剣士だろうと学生は学生らしく生活を送るべきだ」


 テンランのようなことを言う。それを聞く俺は親に説教されている気分だ。


 「だから、手伝うときは放課後か時間に余裕がある時だけでいいよ」


 「その時はもう調べ終わる直前だろ」


 「さぁね、今回はそうはいかなさそうだよ」


 考え事をしているのか、指を顎に起きじっと短刀を見つめる。珍しく上手くはいかないと言うルミウ。そんなルミウを見るのは久しぶりだ。


 ルミウは主に国務で王国の裏を調べている。密売や違法入国、殺人といった、この国における危険分子を排除するために。


 そのためこの国の味方と敵両方の情報屋と繋がっており、その多くを掌の上で操ることができる。それに加えてルミウの正体は誰にもバレていないので足がつくこともない。さすがは第1座。こればかりは足元にも及ばない俺はルミウのことをとても尊敬している。


 「情報屋の宛がないのか?」


 「いいや、それはあるけれどデズモンドのことを聞いたらタイミング的にバレるかもしれないから」


 ということは味方の情報屋ではない。ここに来て運が悪いことだ。


 俺たち神傑剣士が敵の情報屋を黙認している理由は言うまでもなく、利用価値があるから。バレたのならすぐに拘束してしまえばいいし、バレないのならそのまま俺たちの掌の上でタップダンスでもなんでも踊ってもらえばいい。


 バレることはほとんどない。あるとすれば誰かがヘマをしたときか、ちらほらいる神傑剣士のポンコツが担当国務のようにやらかすかのどちらか。基本ポンコツ剣士はそういった国務には就かないのでないに等しいが。


 そもそもポンコツ剣士が暗躍の国務に就くほどこの王国もそこまで人員に困っていない。


 「それなら別ルートか……」


 考えることはしないがそれでもめんどくさいことは分かる。ルミウの言うように学園で授業を受ける際には何もないので調べるつもりはないが、デズモンドについては休み時間や放課後といった空き時間で調べる必要がありそうだ。


 ルミウも思わぬ情報が手に入れば少しは嬉しいだろうからな。


 「今日はとりあえずここまでにしようか」


 「そうだな。時間が惜しいもんな」


 1分1秒でも書庫で調べ物をしたり、情報屋に出向きたいだろう。この王国を守るために必死な俺たちだからそう思う。俺が死にたくないから守るんじゃない。国民を守りたいから守るんだ。


 神傑剣士になった以上は自分の命よりも国民の命を優先。もちろん自分の命も大切だがそれは優先順位では2番目だ。だからこそどんな国務であれ完璧に遂行する。そうしなければいけない。


 「ありがとなルミウ。何回もお礼を言うが、結構助けてもらってるし楽もさせてもらってホントに感謝してる」


 「君が学園に通う間、私は暇だからね。君の学校生活が国務に変わったようなものだから気にしないで」


 「そうか、じゃ気にしない」


 「…………」


 「いや、冗談だぞ?そんなまじで捉えなくてもいいじゃないか。しっかり気にしてる。気にしすぎて夜も寝れないぐらいだ」


 「はぁぁ……疲れる」


 ルミウの顔を思い出すから寝られないなんて言えなかった。言ったら確実に抜刀から納刀まで0.1秒コースだっただろう。冗談はほどほどに、だな。


 「何か情報集まったら今度こそテンランに伝言するだろ?」


 「うん。そうするよ」


 さすがにあれほどの騒ぎを起こしてまたキャーキャー言われるためにフリードに来ることはないだろう。ってかあれはそもそもリュートに対して言いたいことがあったから来ただけだ。だからもう目立つようなことはそうそうしないだろう。


 「俺もなにかあったら知らせる。どうせ書庫か家に引きこもってるだろ?」


 「引きこもってはないけど、そうだね」


 情報屋に出向くのは必ず夜中。陽が出てるときに行動すれば人目につくし、ルミウとバレてしまう。避けるべきことが多すぎる。なので選択肢は2つだけ。


 「了解。それじゃ俺は先に帰る。ルミウも気をつけて帰れよ」


 「言われずとも分かってるって。心配どうも」


 会議室を出ると外はすっかり暗くなっていた。こんな遅くに帰宅するのは久しぶりだな。グレた生徒って思われそうだ。

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