第十四話 国務の一歩前進
「今度こそ本題に入るからしっかり聞いててね」
「了解」
しっかりもなにもこの場に俺の意識を持っていきそうなものはなにもないので自然と話に耳が傾く。あ、あとルミウの顔にも惹かれるな。美人ってやっぱりいいわ。
軽い気持ちでいるのはここまで、さすがに真面目に聞いたほうがいいとスイッチを切り替える。俺もどこぞのバカではない。しっかりとメリハリはつけている。
そして切り替えたタイミングで説明が始まる。ナイスタイミングだ。
「まず短刀についてだけど、あの短刀はやっぱりアズバン伯爵が手に入れていた短刀とほとんど同じものだった。少し最新技術に基づいて改造されてるけど多分間違いないよ」
「それならアズバン伯爵家の大量殺人と確定で繋がってるな」
「うん。だけど違うとこがあって、アズバン伯爵は隣国のサントゥアル王国から仕入れた物だったけど、この短刀はこのヒュースウィット王国で作られたものってとこ」
「……ってことはサントゥアルからわざわざ素材を取って来て刀鍛冶に頼んで作ってもらってるのか?」
「いいや、これは君も持ってる【
【
「ここまで言えばもう分かってるだろうけど、この短刀は素材もヒュースウィット製。だけど赤黒いということはヒュースウィット王国の刀鍛冶が作成したものでもない。つまりこの短刀は他国の刀鍛冶によって作られた短刀ということだよ」
1つの結論が出された。それは任務を遂行するに当たり大きな一歩となること間違い無しで、王国にとっても有益な情報だった。
「他国の刀鍛冶……か」
自国の刀鍛冶であれば罰することは簡単。捕らえて死ぬ寸前まで苦痛を味わわせて全てを吐いてもらうか、処刑するかで済む。しかし他国ともなれば正式な段取りで王国内にいるのなら罰することは不可能。
こればかりは不正入国を願うしかないな。それならば俺たちの好きにできるんだが。
「もう1ついい?」
「ああ。なんでも言ってくれ」
正直これだけだと思っていたのでもう1つと言われたときはえ?と出かけていた。ここまで任務に深くまでのめり込むルミウは初めてだ。何か変化があったのか、はたまたただの焦りなのか。
なんにせよ今調べてくれたことを教えてくれることはメリットしかない。何もできていない分ホントに頭が上がらない。
「アズバン伯爵家の大量殺人が記された書物を読んでいるとこんな言葉を見つけたんだ『デズモンド・バートはヒートブレーカーによってレベルを強制的に上げた』ってね」
「デズモンド・バート?ヒートブレーカー?……」
どちらも聞いたことがある。しかしハッキリと思い出せない。学園にいる際に聞いたような気がするが……。
「思い出せない?」
「無理だな」
昔の記憶だからなのか、薄い記憶なのか。脳裏に焼き付かないほどのことなのだがそれが思っているより重要な気がして落ち着かない。喉に骨が引っかかる感覚を体験しているようだ。
そんな俺をスッキリさせてくれるのはやはりルミウだった。
「デズモンド・バートは私の2つ前の第1座で、ヒートブレーカーは自分の体に負荷をかける代わりに強制的にレベルを上げるというデズモンドが生まれたときから持つ固有の能力のことだよ」
「……あっ!思い出した!」
そういえば2年前ぐらいに学園で学んだことがある。デズモンド・バート、10年前アズバン伯爵家の大量殺人を阻止した当時の第1座だ。その際の戦闘で左目を失明し、自ら第1座を降りた英雄として知られる元神傑剣士。
そんな彼の固有能力、ヒートブレーカー。レベル1の人間ですらレベル5まで引き上げることのできる最強のサポート能力。
「国王の言うこととデズモンドの能力、似ていない?それに10年前の事件にも関わっているんだ、偶然とは思えない」
「色々と可能性は高い。でも元神傑剣士だぞ?こんなイカれたことに加担しているとは考えにくいが……」
「いいや、デズモンドは
ここまで調べたんだ。自信があるのだろう。
「だから私は黒だと思っている」
「分かった。それならまずこの話しの辻褄を合わせよう」
この事件ではデズモンドがアズバン伯爵を捕まえることで解決したことになっている。しかし今王国で起こっている事件はその英雄デズモンドが原因かもしれない。
おかしな話だ。自分で救った街を自分で破壊するなんてそれが趣味なら別だがあり得る話では到底ない。
他にもまだ知るべきことは多くある。刀鍛冶とデズモンドの居場所など、やることは山積み。これは誰かの手を借りるしかないかもな。しかし俺の初任務だ、できれば2人で解決したいと思うのが本音である。
短刀に関してはおそらく他国に罪を擦り付けようとしているか、腐っても短刀で殺すというやり方を貫いているかのどっちかかな。
デズモンドに関しては、まだなんとも言えない。段階を踏んでいくしかなさそうだ。飛び級は得意なつもりだったんだけどな。
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