第十三話 信頼を超えた関係

 何度も言うがルミウは俺に敵対心を持っている。悪く言えば嫌いだということ。だが、その線引はされており、あくまで仲の良い友人と冗談で関わり合うような、そんな敵対心だ。つまり、本気ではないということ。


 いや、本気なんだろうがそれはライバルとしての敵対心なので完全悪とは言えない。


 そんなルミウの嫌いなこと、それは尊敬している人間を侮辱されることと強者が弱者を嬲ることだ。


 その逆鱗とも言われるとこにリュートは思いっきり触れてしまったのだ。それもどちらか片方ではなく両方。尊敬している人間と嬲ること、どちらかならまだ抑えられた衝動もさすがに両方なら無理だったようだ。


 とはいえ俺は弱者ではないのだが。


 「今日の模擬戦はここまで、皆、速やかに戻ること」


 テンランの呼びかけにより、呆然としていた生徒が息を吹き返したように動き出す。圧倒的な実力に、ただの学生が何も思わず立っていられるわけがない。仕方がないことだ。


 目の前で倒れるリュートを俺もボコボコにしたいが、今はまだやめておこう。そんなリュートをテンランは抱えて運ぶ。


 あー、スッキリした。トールとシドウもやられれば良かったのに。


 なるべく早く教室に戻らないと会議室にいるだろうルミウを待たせてしまう。少しの時間も惜しまれる今は刹那を大切にしなければ。


 それにしても速すぎる仕事だったな。3日は調べる時間が必要と思ったがたったの半日で調べ上げるとは……ルミウも仕事に本気で取り組めば有能なんだが。


 ルミウに対する評価を変えながら俺はリュート以外のクラスメートが待つ教室へ戻った。誰も待ってないかもしれないが。


 ってかリュートたちのせいで他の生徒の俺に対する評価がガタ落ちしてるんだから責任取ってほしいわ!なんで俺がこんなに1人寂しく学校生活送ってるんだよ!確かに地位のために学校生活は捨てたけどさこれはまた違うでしょ!


 教室に戻ると皆、いじめを見逃していたことを悪く思っているのか俺に申し訳ないと目で伝えてきた。


 いや、遅いわ!神傑剣士に言われないと何もしようとしないくせに!


 っとまぁ、実はそんなに気にしてなかったりする。他の生徒が注意できない理由もこの『剣技が全て』の世界のせいだ。リュートに刀を向けられて勝てるやつはレベル4にはいなさそうだからな。それを分かっているから止めないことに怒りを覚えたりはしない。ただ申し訳ないと思うのが遅すぎたというだけ。


 でもトールとシドウからはそんな目は伺えないけどな!こいつらに反省って言葉を教える教師を募集したいものだ。


 そしてなんだかんだありながらもその日の学校生活は静かに、過去1番の静けさで幕を閉じた。


 お通夜レベルに静かだった。神傑剣士偉大すぎだろ。たった1言であれほどクラスを虚無にできるなんて。あとで感謝をしないとな。


 学校生活が終わっても正直これからが神傑剣士のやるべきことが始まるのでスタートラインに立っただけだ。1日はこれから始まるようなものだ。退屈な学校生活から充実した国務任務へ。


 神傑剣士の制服に着替え、屋根からダッシュで向かう。


 刀は基本腰に1本だけ下げており、それ以外はホルダーに収めている。これは奇襲に備えてのものであり、二刀流剣士ならバレないように1本だけ下げている場合がある。


 今は特に警戒しなければ。いつ奇襲されてもおかしくない状況なのだから。


 しかしそうそう奇襲されることはなく、俺は会議室へとたどり着いた。今日も今日とて国民の安堵の顔を見れたのは良かったな。あの顔が無にならぬよう急いでこの問題を解決しなければならない、と覚悟も改めて。


 会議室をノックするとすぐに反対側からどうぞと聞こえる。とてもいい声をしている。大人の女性という感じだ。俺は結構好き。


 「ごめん、遅れた」


 「時間は指定していないから大丈夫」


 先程のルミウはどこからも感じ取れない。時間は経過しているとはいえ切り替えも人間離れしている。あれだけの圧を出しておいて。


 第2座に座る。自分の座に座らなければならないのは12名での会議のときか、国王がいるときだけ。


 「本題に入る前に。さっきはありがとうルミウ。少しは俺もスッキリしたよ」


 「あれは君のためじゃない。だから感謝される云われはないよ」


 「素直じゃないなツンデレ1座」


 言われた瞬間刀に触れる。しっかり殺意も込められてる。


 「あー嘘嘘!冗談です冗談です!だからそんな睨みながら抜刀しようとしないで」


 こんな茶番でもしっかり付き合ってくれるツンデレぶりには癒やされるものだ。


 それからすぐ殺意も刀に触れる手も収まった。


 これを言い過ぎるといつかホントに抜刀から俺の首を横切って納刀までいくんじゃないかと思う。


 でもやめられないんだよなぁ。あの好きな人にいじわるしたくなるやつじゃないけど、ルミウはいじりがいがあるからつい口が勝手に声帯と連動してしまって殺されかける。


 殺されることはほとんどありえないが、なんであれやりすぎには注意をしなければ。俺まだ18だし、生を謳歌できてない。死ぬには早い。


 「それじゃ本題に入ろうか」


 「君にそう言われると無性にムカつく」


 「おいおい、やめてくれよ。学校でも友達はニアしかいない悲しい男子生徒だぞ?ここでも居場所なくなったらどうしてくれるんだよ」


 「大丈夫、その時は私がいいとこを紹介してあげるよ」


 「え、まじ?優しいじゃん。やっぱりツンデ――」


 「牢屋だけどね」


 「……優しいの前言撤回で」


 緊張感0のコントをして少しこの場の空気を和ませれたのは2人からしてとても良かった。

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