第十二話 実力の証明と信頼

 翌日午後、俺は相変わらずボコボコにされていた。退屈な毎日から昨日ようやく任務として任されることにより解放されると思っていたがこの世界は甘くなかった。


 家を出る前にテンランに近いうちにルミウがフリードに来るとは伝えたが俺とほとんど同じ反応をしていた。血は繋がってなくとも似ることはあるようだ。


 「ほらぁ!いぐぞぉ!!」


 脳天からつま先まで連撃を食らわせてくる。その際に見えるリュートの隙はリュートの連撃よりも多くあった。脳天からつま先までな。


 剣士として心得るべき事は多くあるが今で言うなら、攻撃中が1番隙ができるということだ。たとえば脳天を打つのなら腕を微かにでも振り上げる必要があるのだが、その際には脇と下半身が隙だらけになる。特に、決まる!と思った時、基本その時が敗北の瞬間だ。


 リュート、お前脇と下半身だけじゃなくて、頭部も隙だらけじゃないか。これならもしかしたらレベル4にだって負けるかもしれないぞ。


 と、忠告してやってる中でも楽しそうな連撃は止まらない。ついにはトールとシドウまで参加し始めた。いやお前らの存在忘れかけてたわ。


 「い……痛い」


 なんとか恥ずかしさからくる体の震えがいい感じになっており、リュートたちは俺がビビって震えてると勘違いしてくれている。まじ俺天才。


 「聞こえねぇって言ってん――」


 途中でセリフを止めたリュート。うんこでも漏れたのか?打ち込まれないなら別にそっちが楽だから嬉しいが……。しかしそんなことはなく、リュートが止まった理由は他にあった。


 「え、あれ!」


 1人の女子生徒が見る先には観客席があり、そこに座っていたのは――女神ルミウだった。この退屈なイジメを無意識だろうが救ってくれたことに心の底から感謝する。ありがとう!!


 そして俺が感謝した次の瞬間、もうやばくて言葉にも表せないほど女子生徒が怖く思えた。


 「ルミウ様!!?」


 「キャァ!!ルミウ様よ!!」


 悲しみでも絶望でもない悲鳴が鼓膜に届く。だが一瞬で鼓膜が音波を否定する。信じられないほどうるさいのだ。なぜこんなに叫ぶのか理解できない俺はムカついていたまである。


 「ルミウ様……まじかよ第1座がここにいる……」


 驚きすぎたのか、リュートはルミウがいることに口を開けっ放しにされる。この顔しっかりと記憶しておこう。夢の中に出てきてボコボコにできるかもしれない。


 こいつの思考はだいたい読める。どうせここから俺をイジメるのはやめて、真面目な一般生徒を演じるんだろう。そしてレベル5という実力を難なく発揮して少しでも認めてもらおうと足掻くんだろうな。


 こいつほど醜い生き物いるか?もう笑えてくる領域だぞ。


 その通り、リュートは俺に構うのはやめてトールとシドウと模擬戦を開始した。


 まじで覚えてろよ!いい子ちゃんの化けの皮剥がしてやる!


 リュートに舌を出してバレないように挑発をする。スッキリしたとこで本題に目を向ける。その視線に気づいたルミウは俺に一瞬目を合わせる。


 はいはい、今日も会議室に来いってことですね。了解です。


 内容を理解し今度は殺意を俺から送る。これでお互いの意思疎通は完了となる。これ地味にカッコよくて好きなんだよな。暗躍してる感じ出るし。


 ルミウは特定の人間に対して念話ができる。しかし相手が念話を受けれるほど実力があるのならだが。もちろん俺はそんなことは朝飯前だ。


 こうしてルミウから伝えられることはなくなったので、ルミウも帰るだろう……と思われたが、観客席を立つと同時に闘技場に降りてきた。降りてきたと言うよりかは瞬間移動のようなものだ。速すぎて生徒では見分けられないだけで。


 「君はレベル5みたいだね。少し剣技を私に披露してくれないかな?」


 ルミウはリュートの目の前に行き打ち込んでこいと、そう言った。


 「よ、よろしいのですか?」


 敬語なんか使っちゃって、俺をボコすときはライオンのくせに今じゃチワワ以下まで怯えちゃってるよ。


 神傑剣士が学園の生徒に剣技を見せろなんて言うことは異例だ。国務ならありえるのだが今は国務ではないと誰もが分かっている。


 「うん。好きなように打ち込んでいいよ」


 「分かりました……」


 ちょっと自信なさそうだが、それはここで満足させられるような剣技を見せなければ人生終わったと考えているからだろう。


 レベル5として認められなければ肩書きの意味がない。


 「ふぅぅ、では!」


 覚悟を決めたようだ。息を吐いても何も変わらないだろ、カッコつけんな。なんて思ってしまうのは俺の悪いとこだ。


 まぁ俺よりももっと悪いことする人が目の前にいるんだがな。


 「極心技ごくしんぎ!業火の太刀!!」


 声を荒げて技を使う。


 極心技か……レベル5だから使える技を使ったのはいいがそれだと……。


 3mの間合いを瞬時に詰める。と同時に肩に軽く載せられた刀が炎を纏う。触れると火傷では済まないだろう。そして1mを超える刀身がルミウの肩を目がけて高速に振り下ろされる。瞬きをすれば絶対に見逃すほどの速さに周りは圧倒される。これがレベル5なのかと。


 しかし――。


 「ヌルいよ」


 ルミウの1言が聞こえた。風が吹き瞬きをした次の瞬間、さらに周りは圧倒される。


 なんとリュートの刀が折れ、ルミウの体に触れることもなかった。折れた刀は刃こぼれなんて一切ない。もともと折れる仕様に作られてもない。つまり、これはルミウが刹那で終わらせたということを証明していた。


 「ど、どうやって……」


 渾身の一撃だっただろう。それを正面からあっさり凌がれたのだから絶望する寸前なのも理解できる。


 そんな落ち込み真っ最中のリュートの胸ぐらをルミウがいきなり激しく掴む。


 あぁ、始まる。


 「君はあの少年をイジメていたように見えた。そんな君に私は期待したんだよ。あの少年をイジメれるほど力があるのかと。だが違った。想像の100倍は下を行く弱さだった」


 憤りを表情に出して続ける。リュートは泣きそうで失神しそうだった。


 「この世は剣技が全てだ。だから剣技の才があるならイジメだってしていいと私は思う。だがそれは、弱者のすることでありこの王国には必要のない人間だ。それをよく理解した上でイジメることだ。もし気に食わないことがあるなら卒業後私に決闘デフィートを申し込むんだ。その時は――殺してあげるから」


 最後に殺意を込めたことでリュートは失神する。無理もない。


 「すまない学園の生徒たち。少々取り乱してしまった。しかし君たちもよく覚えているんだ、この王国では強者が弱者を支配することは決して許されない」


 そう言い残し闘技場を出ていってしまった。


 まったくお人好しはこれだから嫌いになれないんだよな。

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