第十一話 初の国務

 「それで?任務についてとは?」


 1座と7座は座席が離れすぎている。そのためルミウのために近づいてやる。そうだな……メンデのとこでいいか。


 腰を下ろすと案の定嫌な顔をする。が、すぐに元通りの顔になった。1回1回俺を嫌がってる素振りを見せないと、なにかの病に罹ってしまうのだろうか。それなら俺は全然近づかないんだが。


 「国王はまだ柔らかく言ってたけど、私と君が任務に当たるんだ、難しい任務になるかもしれない。だから協力はする。でもそれは私の指揮によってだ。単独行動は指示がない限りしないで」


 「もともとできないに等しいからしないよ」


 思ったより真面目な提案だ。焦ってるのは国王だけではないようだ。


 「普通なら私と君じゃなくても神傑剣士なら誰でもランダムで選ばれるのに、今回ばかりは指名だからね……」


 「怖じ気付いてるのか?」


 「……はぁ、君はホントにやりにくい」


 「それはどうも」


 「褒めてない」


 自分でもやりにくいようにしてきるのでそう思われることはむしろ手のひらの上で踊ってくれてるようなものなので嬉しい。


 この態度はルミウをいじる時だけ。それ以外はこんなドSは出さない。ドSかドMか、どちらか聞かれればドSなのは間違いない。刀を握れば戦う衝動に駆られるほどだ。


 そんな俺だが俺よりもルミウのほうがドSだと思う。ルミウは決闘デフィートでボコボコにするのが大好きで、そんなとこを国民に見られるものだから神託剣士や守護剣士から申込みがこなくなってしまった。


 レベル3の俺なら絶対に申込みなんてしない。


 「そうだイオナ、君を襲った短刀をもう1度見せてくれない?」


 「いいけど、なにか思い当たる節でもあるのか?」


 「少しね」


 内ポケットから短刀を取り出して渡す。ホルダーに入れないのは入れれるほど短刀の質が高くないから。ホルダーに戻せば刃こぼれが修復されるが、それはホルダーに設定されたデストと呼ばれる精錬基準値を越えた刀だけ。


 ちなみに折れた刀はホルダーでは修復されない。なので1人ずつ剣士には刀鍛冶と言われる専属の付き人がいる。その刀鍛冶に修復してもらうか新しく刀を作ってもらうかのどちらかになる。


 ルミウはじっくり短刀を見る。刃こぼれはしてない形状の違う初めて見る短刀。ルミウに心当たりがあるのならそれは大きなアドバンテージになるのだが。


 「どうだ?」


 「君は10年前の事件について知ってる?」


 「10年前?」


 理解するには言葉足らずだが、聞き返したときにピンと思い出した。


 「アズバン伯爵家による大量殺人のことか?」


 「うん、それ」


 アズバン伯爵家による大量殺人の事件とは、当時剣技によって全てが決められるとされたこの世界のことわり通り、剣技の腕によって序列を決めていたヒュースウィット王国に対してアズバン伯爵が起こした殺人のこと。


 アズバン伯爵は貴族として、生まれながらにその地位を確立させていたのだがそんな裕福な生まれにも関わらず強欲であり、剣技関係なく地位を確立するべきだと王国に対して反感を持っていた。


 しかしたった1人、たった1家の貴族の発言では王国を動かすことができず、ついにアズバン伯爵は同じ考えを持つ人間を集め始め洗脳をした。この王国を変えるため国王を殺せと。


 それからというもの夜になると適当に選んだ国民を殺しては姿をくらますことを繰り返し、王国を徐々に追い詰めていった。最終的には平民から始まった殺人も上位貴族までエスカレートした。しかしそんなことが続けれるわけもなく当時の神傑剣士第1座によって全てが突き止められ、アズバン伯爵は家族とともに処刑されたという。


 「その時に使っていた短刀に似ている気がするんだよ」


 「ホントにか?そもそも10年前ってルミウ10歳だろ?覚えてるのか?」


 「書庫を漁ってたらたまたま見つけてね。そこで目にしたのを思い出したんだよ」


 「ふーん。偶然ってすげぇな」


 書庫、それは神傑剣士だけが入ることを許される過去の事件や歴史など王国について様々なことが記された本がずらーっと並べられた場所。あまり入らないが興味深い本が多々見られる。


 「でも、見た感じヒュースウィット製じゃないぞ」


 「アズバン伯爵は足がつかないように他国の刀鍛冶に作らせてたらしい。でもどこの国かは分からない」


 ヒュースウィット製の短刀は一切クネクネすることはない。真っ直ぐ、まさにこれが一直線だと言えるほど完璧なものだ。


 刀身は黒に染められるのが基本。しかしこの短刀は赤黒い。


 「とにかく少し掴めたかもしれないから私は戻ってもっと調べてみる。君は私が情報を持ってくるまで行動はしないこと」


 「どうやって伝えに来る?テンランに伝言頼むか?」


 「いや、フリードに直接出向こう。注目されるのは好きだから久しぶりにね」


 ルミウは女性剣士、しかも美人で神傑剣士第1座という完璧さから人気が凄い。学園に来たのなら男どもは目を離さないし女どもは憧れから触れようと一生懸命になる。


 年下にヨイショされてなにが嬉しいのか俺にはさっぱり。


 「了解」


 「それじゃ、君も1人で寂しくしないでテンランのもとに帰るといいよ」


 「そうだな」


 そうしてルミウは歩いて出ていった。その歩く速さは先に出ていった10人の誰よりも遅かった。


 続いて俺も、ルミウが1番なのは気に食わない部分が少々。だから2倍は遅く会議室を出る。負けず嫌いが変なとこで発動するこの癖治さないとな……。

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