第十話 神傑剣士は忙しい

 ルミウの断りを入れる言葉にあった「殺されるか」という意味はそのまんまだ。決闘デフィートは何をしてもいいとされている場であるので、殺すことも殺されることも覚悟の上で挑まなければならない。


 しかし実際は神傑剣士がそんなことは望んでいないので今まで俺が知る中では殺された剣士は存在しない。殺していい気がするわけでもないから意味もない。よほど恨みを持たれない限り。


 「それじゃ行ってくるからぁ、もし12座が変わってたらぁごめんねぇ」


 「はっはっは!レントが負けたらさすがの俺もビビっちまうぞ!まぁ負けねぇと思うけどな!」


 「確かに。負けないと思うけど油断はするなよ?」


 「ありがとぉメンデェ、イオナァ」


 そして席を立ち扉の前に行く。抜刀し胸の前に掲げ気合を入れる。それと同時に空気も変化する。たった1人でもその場空気を一変させれる力を持つ神傑剣士、そんなやつらが負けることなんて考えられないな。


 「よし、お前ら」


 1言残して姿を消す。気合いが入ればレントは気怠げではなくなる。このギャップを見るために決闘デフィートを申し込みたいものだ。


 「また後で、だってよ。あいつ負ける気ねぇくせに保険作って行きやがったぞ!はっはっは!相変わらずだなぁ!」


 「うるさいなぁ。その歳になると自分の声量も把握できなくなるの?」


 「え?」


 高笑いを決め込むメンデを注意したのはシウム。ここにいるシウム以外の10人が揃って「え?」と言った。そりゃそうだろう、なんで注意できるほど自分が静かだと思っているのか、不思議で仕方なかった。


 一瞬で静寂が訪れる。気まずくはない。ただ何を話せばいいかわからないだけの無の空間ができた。シウム本人も俺らとは違う?が出てきたようでえ?え?と落ち着きのない態度をとる。


 「メンデはもう少し静かにすること。シウムは……もっと自分を知ること」


 静寂を破るのはテンラン。さすがは理事長を努めているだけあってこの場をどうにかして切り抜けなければならないと発言してくれた。


 シウムにはなんて言えばいいのかまとまっていなかったもののなんとか空気は戻ってきた。テンラン様様です。


 「ではそろそろ私は帰宅させてもらう。何か伝え忘れたことがあるならまだ残るだろうイオナに伝えてくれ」


 「もう帰んのかよ。模擬戦とかしていかねぇのか?」


 「遠慮しておくよ。また今度誘ってくれ、メンデ」


 「了解」


 そうして第10座から消えたかのように思えるほど一瞬で会議室を出る。まじで速いから目で追うと少しばかり目が痛くなる。


 「んじゃ誰かレントの試合見に行くやついないか?いたら行こうぜ」


 メンデの呼びかけには第3座、4座、5座、6座、8座、11座が賛成した。みんな国務を終わらせるのが早い真面目なメンバーだった。俺はまだ国務はないがよくルミウの国務を手伝わされるという5座、6座には頭が上がらない。


 「そんじゃ俺たちもここらで席を立つわ。またな1座、7座、9座」


 メンデたちはテンランとは違い急いで移動する必要もないので瞬間移動のように移動はしない。そもそもあれは体力を結構減らすのであまりやらない。体力が剣技に大きく関わるこの世界で体力を減らす行為は自殺行為と言われることもあるぐらいなので多用することもない。


 しかしテンランは唯一の例外で、俺らが使う体力の三分の一しか使わないので多用している。


 「では俺も帰るから、邪魔のないこの部屋を楽しんでくれ」


 「何それ。イオナと2人とか私も嫌なんですけど」


 「ホントかな?とりあえず、失礼するよ」


 「ちょっ!ハッシ!」


 「あらーハッシも帰ったね。しかも剣技使って」


 ということでこの場に残ったのは今回の任務にメインで当たる俺とルミウだけ。


 2人にしては広すぎる空間と、2人にしては重すぎる空気。いつまで耐えられることやら。


 「帰るんじゃないの?」


 「……せっかくだし任務について何か話そうかなって」


 「あー、そういうこと。しっかりしてるね。さすがは第1座」


 「自分の方が強いからって煽ってんの?」


 「別にー?」


 「めっちゃ!ムカつく!」


 クールな見た目とは裏腹に幼気な少女のような性格であるルミウ。こんな美少女が第1座なんて恵まれすぎてると思っていたが、そんなことは無かった。それまでの経緯を聞いた誰もが驚き尊敬し、今の性格からは考えられない努力が詰められていた。


 人智を超えた才。恐るべし。


 「それよりついていかないで良かったの?私はてっきりメンデについていくと思ってたけど」


 「別に見応えあるものにはならないでしょ。今までレントに挑戦して何人が神託剣士、守護剣士をやめたと思ってるんだよ」


 「……そうね。私もレントとは戦いたくないわ。それは神傑剣士みんなに言えることだけど」


 「嫌味か」


 「違うけど」


 さっきの俺に対するムカつきからこの流れなら嫌味と捉えることもあるだろうな。


 「ってか今もう決闘デフィートやってんのかな?」


 「ちょうど今始まったぐらいじゃない?」


 「ならもう終わるじゃん。ほら、行かなくて良かった」


 「……そうだね」


 レベル5とレベル6の差は天と地。レベル1とレベル5よりもさらに大きなものだ。それを分かっていても挑む勇気、褒め称えるべきだろう。中には分からないまま挑むやつもいるらしいが。命知らずもいるものだ。


 レントは基本徹底して1分ジャストで決闘デフィートを終わらせる。相手の心を折るためらしいが、その通りの結果になり、数々の剣士が魂を抜かれた状態で帰宅しているとこを見る。


 天才が故の遊びだ。

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