第4話「第1201小隊」
Side 木之元 セイ
サクラギと言う町。
辿り着いた頃には夕日が出ていた。
戦前、木之元 セイが眠っていたシェルターがあった駐屯地の名前は桜木駐屯地。
そして桜木駐屯地の一番近くにある町の名前は桜木町だった。
そして今居る旧桜木町跡地に再建されたサクラギは昔の建造物は多少残っているが新築されたと思われる建造物も多々ある。
このサクラギと言う町はヒノモトと言う国が統治して性能はどれぐらいかは分からないが新たなパワーローダーを製造できる程までに文明は再興しているのだから当然なのだろうが。
そこにどれだけ自分達の仲間が携わわったのか気になるところだったが――
『綺麗だ――』
緑が生い茂り、水が流れ、廃墟と外国の西洋風な建造物の町に田畑。
それが夕日に照らされることでまた違った魅力があり、とても核兵器が落ちたとは思えない。
AIも『想像以上の光景ですね』と賞賛する。
最初、仲間達が見たのは絶望の光景だった筈だ。
廃墟しかない。
人間だったのもそこら中に転がっているかもしれない。
草木も川も荒れ果てた地獄絵図があった筈だ。
なのに自分は一人、のうのうとこの光景を眺めている。
こんな気持ちになるぐらいならいっそ自分も一緒に再建へと尽力していればと思った。
「あの、どうかしたんですか?」
桜木駐屯地――今は戦士の墓と言われているらしい場所で助けた女の子、アンドウ ミソノに心配そうな眼差しで呼びかけられる。
ミソノの上官であるカレンと言う女性はパワーローダーを脱ぎ、彼女の上官と思われる長い金髪の女性に平手打ちをされて泣きながら抱きしめられていた。
身なりがある程度整った町の人達も銃器などを持ってザワザワしており、此方にも視線を向けてきていた。
一先ずセイは心配そうなミソノに『ごめん――』と謝っておいた。
「正直――私、あなたのことまだ恐いと思ってますけど、けど優しい人だって言うのは何となく分かるから。だからもしも言いたい事があったら言ってくださいね」
『うん』
ミソノは良い子だと思った。
そして素直だ。
とても軍人とは思えない。
「遅れてすいません」
ふと女性二人がやってくる。
長い金髪の日本人的な顔立ちの軍人らしからぬ大人の女性がビシッと敬礼する。先ほどカレンに平手打ちした女性だ。
緑色の軍服を身に纏い、側には赤い髪が特徴の勝ち気そうな雰囲気を漂わせている軍服の女性が左の頬を赤くして敬礼していた。
「サオトメ アンリ。階級は二尉。第1201小隊の隊長です」
「改めて自己紹介を――ニイジマ カレン。階級は三尉です」
長い金髪の女性が隊長のアンリ。
そしてここに来るまでパワーローダーを身に纏っていて容姿は分からなかった赤髪の勝ち気そうな女性がカレンである。
『パワーローダー・・・・・・この世界では機械鎧でしたか? それ越しに失礼します。木之元 セイ。自衛隊の一尉でした』
それを聞いて隊長のサオトメ アンリは表情を変える。
「失礼ながらカレン二尉の無線機越しにあなたの事は聞いていましたが未だ理解が追いついてない部分が多くあります」
移動中の会話は全部聞いていたようだ。
客観的に観ればセイは正体不明の人物なので特にセイも問題視することはなかった。
「ですが――私達の部隊を助けて頂いたことに関しては感謝してもしきれません。本当にありがとうございました」
そしてカレン三尉と一緒にアンリ二尉も頭を下げる。
「ともかくここでは人目が多過ぎますので基地にきてください」
「分かりました」
アンリのお願いを聞き入れてセイは一先ず基地に向かうことにした。
☆
(学校をそのまま再利用しているのか)
桜木町にあった学校をそのまま再利用しているらしい。
確かに基地として再利用することを考えた場合は打って付けだろう。
体育館を改造して格納庫にしているらしく、スクラップを山積みにした車両やこの世界のパワーローダーなどを搬入し、セイも月光を脱ぐ。
「意外と若いんですね」
アンリ二尉がセイの姿を見ての第一声がそれだった。
「子供だからと言ってられない戦況でしたから」
東側諸国との戦争では日本は屁理屈こねて遠回しな徴兵制度を導入していた。
それぐらいに戦況は酷い物だった。
「あの人、イチイってことは隊長よりも偉いの?」
ふと遠巻きにミソノがそんな事を言っていて黒髪のポニーテールの少女、リオに小突かれていた。
「一尉と言っても、もう既に消滅した防衛組織の階級ですから気にしないでください」
と、セイは苦笑しつつ説明する。
「そうね。そこら辺もどうするか話さないといけないわね」
アンリはそう言ってこれからどうするべきか話し合った。
ふと水色髪のショートヘアーの少女がジーと眼鏡のレンズ越しに月光を見詰めていたのがセイの眼に入った。
(この子もこの基地に所属している子なんだろうか?)とセイは首を捻る。
「ともかく長い話になりそうだから案内するわね」
「はい」
アンリに言われてセイは案内される。
☆
Side サオトメ アンリ
応接室。
そこでアンリはお茶を出して膝丈ぐらいのサイズの机を挟んでソファーに座る少年軍人を眺めた。
体を凍り漬けにして世界が滅びる前の世界から来た少年。
謎の赤い機械鎧を身に纏い、野盗の一段をあっという間に叩きのめしてしまった。
見た目はミソノやリオ、チカ(月光を眺めていた水色髪のショートヘアーの少女。技術担当)より少し上ぐらいの年齢に見えるが田舎基地に所属している自分達はともかく戦場に慣れている男の職業軍人よりも何故だか歴戦の雰囲気を漂わせている。
同時に何故だかとても悲しそうに見えた。
泣いていたのか瞳が赤く充血している。
「これからどうするおつもりで?」
アンリはある程度の話を聞いた段階でそう尋ねてみた。
「分かりません――僕は――この世界で目覚めました。ここまで文明は再興されていて嬉しくもあり――それの手助けをしていた仲間達の事を思うと、一緒に苦楽を共にしておけば良かったと今は後悔しています」
「ですけどその選択の御陰で私達の部下は助かりました」
「そう――ですね――」
セイはそう応えて、こう続けた。
「まだ最後の任務は始まったばかりなのに――」
「でもセイ一尉の――」
カレンのセイの呼び方に少年はクスッと笑い「セイと呼び捨てで、階級はもういりませんよ?」と返された。
カレンは「ご、ごめんなさい」と返した。
こう言うカレンを見るのは貴重だなとかアンリは思ったりした。
「言い方がおかしかったですね。任務と言うより仲間から託された頼み事です」
「それは聞いていいのかしら?」
「・・・・・・ええ」
木之元 セイは一呼吸置いてこういった。
「この世界を確かめたいんです。仲間達が――生きた証を、この世界を見て回りたいんです。それはまだ始まったばかりです。ですのでしばらくこの町に滞在して色々と学ばないといけないんです」
瞳、表情、声、雰囲気が歴戦の戦士のソレに変わりアンリやカレンの二人は圧倒された。
只者では無いとは分かっていた。
しかし認識が甘かった。
一体どれ程の経験を積めば身に纏えるのか、アンリには想像ができなかった。
「分かったわ。しばらくウチの基地でやっかいにならない? また野盗の襲撃とかあるかもしれないから」
「いいのかアンリ?」
カレンの問いにアンリは眼を閉じて笑みを浮かべて「かまわないわ」と返した。
「襲撃がアレで終わるとは思えない。私も迂闊だったわ・・・・・・こういう言い方は悪いけど、こんな田舎にまで野盗が出るなんて」
「普通は出ないんですか?」
「町の話によれば最後に出たのは何十年も前の話よ・・・・・・町の人達は皆不安になってるわ」
「それだけ平和だったんですね・・・・・・」
アンリの言葉にセイは複雑な気持ちになった。
「ええ。正直実戦になったら戦えるかどうか――」
「分かりました。ともかく格納庫に戻ります。敵の再襲撃は何時あるか分かりませんから戦闘態勢は何時でも――詰めた話は終わってからにしましょう」
アンリの不安に対してセイはそう言い残して去って行った。
本当に場慣れしている。
それは頼もしくもあり、そしてアンリは自分自身が何故だかとても不甲斐なく感じた。
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