第5話「戦闘に備えて」

 Side 木之元 セイ


 体育館に戻り、セイは再びパワーローダー月光を身に纏い、スクラップからガードナー二体を引っ張り出す。


 とにかく中の洗浄作業や無駄に悪役っぽい外装などを何とかしないといけない。


 そんなセイの元に一人の少女がよってくる。


 眼鏡をかけた水色髪の少女だ。

 

 緑色の軍服を着ている。


 この第1201小隊の人間だろう。

 

 確かこの格納庫に最初に着た時、見覚えがある。


『君の名前は?』


「ワタライ・チカ。階級は三尉」


『三尉?』


「技術士官で三尉」


 短い言葉でそう伝えてきた。

 つまり彼女は技術者として特別に秀でたスキルを持っているらしい。

 ミソノやリオと同じぐらいの歳に見えるのに少尉なのはそう言う理由なのだろう。

 

 AIが『嘘ではないようです』と補足してくる。

 嘘発見器の機能を使ったのだろう。


『それがどうしてこの基地に?』


 それぐらいの役職ならヒノモトと言う国のもっと重要そうな部署にいそうなもんだと思ったのだが。


「ここなら好きな事を好きなだけやれると思ったから」


『その~僕がこう言うのもなんだけど、あんまりそう言う事は言わない方がいいと思うよ。一応軍隊ってイザッて時は戦うお仕事だから・・・・・・』


 ちょっと困った子供を諭す感じでセイはチカに語りかけた。


「うん。そのために大量に人を殺したから」


『え? あ――うん。ごめんなさい』


「いいの。それが私の罪だから」


 どうやら深い事情があるらしい。

 隊長曰く、正論説いて全て丸く収まるとは限らないと言う言葉がある。

 その教え通りにあまり踏み込むべきではないとセイは思った。


「色々とパワーローダー見てきたけど、そのパワーローダーは珍しい」


『このパワーローダー見た事あるの?』


 今木之元 セイが身に纏っている月光は核を撃ち込まれる直前までは最新鋭機だった。

 セイは(まだ現存する機体があるのか?)と驚く。


「ヒノモトの科学技術では再現は難しい。せいぜい修復程度。最新鋭機のオオタチ三型でようやく第三世代機相当。NUSAは高い技術力を持っていて厄災の時代以前の第三世代機を実戦投入出来るらしい」


 この町に来る道中、カレンからある程度この世界の説明を受けていた。

 NUSAとはこの世界に存在する国家の一つでヒノモトの隣国だ。

 軍事力がとても高いとは聞いているが嘗ての第三世代のパワーローダーを再現、実戦投入しているのは想像以上だ。


『先も言いましたが大変興味深い情報ですね』とAIが喋る。


 セイが留守の間、このAIは色々とこの少女から話を聞いていたようだ。


『詳しいんだね』


「首都に居た時に、色々と特例で資料を見たから」


『へえ~』


 パワーローダーをカレン少尉やアンリ隊長みたいに機械鎧と言わないのもそう言う経緯が関係しているかもしれない。


『もっとお話ししたいけど今ちょっと急いでいるんだ』


「戦う準備?」


『うん』


「分かった。手伝う」


『水洗いしたいんだけど――グロイよ?』

 

 セイは突き放すように言った。


『私も木之元大尉の意見と同じです。死体が入っていたパワーローダーの清掃は誰もがいやがる仕事の一つです』


 AIもセイの意見に賛同した。


「分かった。ただ洗浄に必要な水の場所までは案内する。それと道具が必要』


 との事だった。

 セイは『ありがとう』と返す。


☆ 


 清掃が一段落し、ガードナーを再使用できるようにする作業が始まった。

 これからどう言う行動を取るにせよ、このサクラギの町が自分が居ない間に焼け野原になると言う最悪な状況は避けたかった。

 

(とにかく今は戦力が必要だ)


 他にも自警団とかもいるらしいが今はガードナーを必要最低限動かせるようにすることを考える。


 内部システム面は月光とケーブルで繋げて修復、アップデートを行った。

 セイの仕事は専ら外装の修復作業、無駄に世紀末な外観をそうなる以前の状態へと戻す作業をしていた。


「装甲取り外すのか?」

 

 隊長の命令で罰則の一環らしく、ニイジマ カレン少尉が作業を手伝ってくれる。

 

 ワタライ チカも興味深げに眺めながら作業を手伝ってくれていた。


「最悪ガードナー二機を一つの機体・・・・・・ニコイチにして運用します。余った方は外装外しても作業用スーツとして運用できる筈です」


 戦時中を思い出しながらセイは熱心に語る。

 例え物資が豊富な大国であろうと何だろうと最前線は敵味方ともに物資の消耗が激しいゆえに身についた知恵だ。こうでもしないと戦闘がままならなかった。 


「なあ。この機体、できたら自警団の方に回してくれないか?」 


「自警団に?」


「正直いざ戦闘の事を考えると、頼れるのは私かアンリぐらいだろう。後は自警団だ。機械鎧はあっても使える人間がいなかったら宝の持ち腐れになるだろ? だから自警団に回した方がいい」


 それを聞いてセイは「なら簡単な運用方法を教える必要がありますね」と言ってこう続けた。


「ガードナーは拠点防衛型のパワーローダーですがクセがある機体ですから」


『木之元大尉の言う通りです。ガードナーは悪い機体ではありませんが側面の弱点があります。後継機のガードナーⅡはその弱点は改善されてるんですが・・・・・・』


 セイの意見にAIが補足する。

 ガードナーは信頼性は高いのだが機体構造の関係で側面に弱い。

 そのため単独での運用は禁止するか、AIを搭載して半固定砲台として使用するなどの工夫をして投入されていた。

 使わせる場合はその点を注意しておく必要がある。


「分かった。アンリにもそう伝えておく」


 カレンはそう決断し、セイは「助かります」と礼を言う。

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