第5話「襲撃」
Side ユウヒ・ステイン
スティーブが住まう建物の中には怪我が酷い人間が優先していれられ、ユウヒを含む他の太平洋連邦の軍人達はみな外でテント暮らしだ。
周りは塀に囲まれて武装ロボットやタレットまで配置されているのだ。
少なくともどこかのジャングルの中でいるよりかは安全である。
外には五人ほどいた。
五人の人員全てが背格好からして戦闘職ではないようだ。
まあこれは当然だ。
軍隊と言うのは全員が銃を持って戦う組織ではない。
武器弾薬の管理や部隊との連携を強化する通信士、兵器を整備する人間、人を治療する衛生兵、軍用車が通れるようにする工兵部隊に胃袋を支えてくれる需品科などもいるのだ。
バラバラになるのは別におかしい話ではない。
「リタ・ギュンター。少尉だ。この中では一番階級が上みたいだ」
そう言って軍服をラフに着こなした格好の出で立ちのショートポニーの金髪美女がやってくる。体付きも女性兵士の軍人にありがちな勇ましい体格だ。
首元には銀色の四角い自分の名が刻まれているであろうドックタグをぶら下げている。
左手には大量のドックタグを持っており、右手にはアサルトライフル。腰のホルスターには拳銃が突き刺さっている。
こんな状況でも冷静を保っている様子でとても勇ましく感じた。
「どうも、ユウヒ・ステイン。軍曹です」
「そうか――丸腰でよく生き延びられたね」
「運が良かったですから」
「強かろうと弱かろうと、生き残れば正しいのさ――」
彼女はドライに言ってのけた。
「これからどうしますか少尉? 正直自分はもう――」
「確かにね。この作戦の意図がなんだったにせよ、もう連邦に尽くす義理なんてない。親への仕返しで軍隊に入ったのがバカみたいに思えてきた」
どうやら彼女も自分と似たような境遇らしいがそれを言う気にはなれなかった。
続けて彼女は「逆に味方に殺されるか、祖国で精神異常者扱いか、監禁されるかのどちらかと来た・・・・・・」と愚痴る。
それはユウヒも同じ考えだったので「そうですね・・・・・・」と同意した。
「だがこれからどう生きるにせよ、この土地で暫く厄介になる。まだ右も左も分からない状況だ。軍人である事を捨て去るにはまだ時期早々だと思う」
「凄いですね少尉は――自分は――自分自身の事しか考えられませんでした」
「・・・・・・軍曹、実戦は?」
「これが初めてです」
「そうか・・・・・・じゃあ命令だ。あまり自分を卑下するな。男の軍人がウジウジするのは正直見ていて気色悪い」
「うぐっ」
中々にキツい一言だった。
「後はそうだな――死ぬな、自暴自棄になるな、生きるのに全力を尽くせ。それぐらいだな」
「なかなか簡潔で困難な命令ですね」
「優しくしてもらいたかったか? 女性兵士はこんぐらいじゃないと舐められるからな」
リタの意見にユウヒも確かにと思った。
「タレットが動き出した!?」
リタがドックタグをしまい込み、銃を構える。
そしてガンテツが見張り台からサイレンを鳴らす。
『敵襲だ。死にたくなかったら戦闘準備しろ』
と、ガンテツが平静な口調で言いつつミニガンを構える。
「敵は!?」
リタは当然の疑問を投げかけた。
『リクザメと野盗連中が潰し合いしてる』
「リクザメ?」
夜盗は分かるがリクザメと言う単語が分からず俺は聞き返した。
しかしリタは「とにかく私達も迎撃に参加するよ!」と檄を飛ばす。
俺はリタに追従しながらバリケートに沿って作られている高台にまで上がる。
「なんだコレは・・・・・・」
それは装甲を継ぎ接ぎにしたパワーローダーと夜盗と思わしき蛮族のような格好をした連中と二足歩行で両手があるサメ、全長は3mはありそうだ――恐らくこのサメがリクザメだろう――そんな化け物が数匹と人間とが激しい死闘を演じていたのだ。
リクザメと人間、互いの血飛沫や断末魔が飛び交い、そこにここの居住地のタレットが容赦なく弾丸を浴びせている。
ちょっとした地獄絵図だ。
『ほら、ボサッとしてないでお前達も撃て』
「あ、ああ」
俺はガンテツにそう言われて射撃を開始。
リタも遅れて銃弾を浴びせた。
遅れてスティーブや逃げ込んできた非戦闘員の人間も銃を持ち、高台に並んで射撃を開始する。
リクザメの一体が弾幕を抜けて跳躍し、周囲を囲うバリケードに体当たりしてよじ登って俺の眼前に来た時は「ヒッ!?」と、ビビって漏らしそうになった。
正直死を覚悟した。
だけど自分もみんなも狂ったように銃弾を浴びせてくれた御蔭でリクザメを引き剥がすことが出来た。
それからも皆が必死になって戦い続け、精神面はズタボロだがどうにか損害なしで自分達は生き残れた。
☆
夜が開け、恐る恐る周辺を警戒しながら死体から物資を調達する。
襲撃してきた野盗の死体は原型をほぼ止めておらず、凄惨な戦闘の状況にリタも俺も他の軍人も吐き気が出た。そこからさらに死体漁りするのだから気分はとてもいい物ではない。
遺体は適当に埋葬された。
死んだリクザメは今日の飯にするつもりらしく、ガンテツは手慣れた手つきで回収していった。
リクザメを食料とすることに俺もリタも他の隊員も難色を示したがガンテツの「贅沢言うな。人肉食うよりマシだろ」と一蹴されてしまった。
俺達のこの島での生活は早くも絶望を感じ始めていた。
中には遺書を書き始めている人間もいて、その気持ちは分からなくもなかった。
だけども腹は減る。
スティーブさんの用意した朝食を食べて――生きるためにこれからを考えよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます