第2話「ロボット」

 Side ユウヒ・ステイン


 一体どれ程走っただろう。


 夜になり、時折遠くから銃声や断末魔、生物の雄叫びなどが聞こえる。


 やがて四つん這いになり、雑草が芝生のようになっていて木々が周囲を囲んでいる開けた空間に出た。


 体を動かそうとしても身動きがとれない。


 精神的にも肉体的にも限界だった。


 この任務に志願した時、自分は敵と戦う覚悟は出来ていたつもりだった。


 だが甘かった。


 想像の斜め上を行く地獄だ。


 このままでは死んでしまう。


『なんだオメェ。迷子か』 


「うわぁあああああああ!?」


 目の前に何かがいた事に気づき尻餅ついて全速力で後ずさる。


『そこまでビビらんでいいだろ』


「お、お前はいったい・・・・・・」


『初対面のロボットにお前呼ばわりはねえだろ』


 眼前に居たのは2mあるかどうかないぐらいの不細工で鈍重そうなロボットだった。

 逆さのバケツのような頭部に二つの黄色い目。

 横幅があるドラム缶のようなボディ。

 蛇腹の腕に脚。


 問題は持っている物だ。

 背中のバックパックはいい。

 だが両腕でミニガンを持っていた。

 ミニガンに繋がっている弾薬ベルトは弾が満載であろう背中に背負ったドラムに繋がっている。


「しゃ、しゃ、喋るロボット? こんなところに?」

 

 と言う事はAI搭載型のロボットだろう。

 AI搭載型のロボットは民間用、軍用と別れていて人の言語を喋る事が出来るモデルもある。

 この作戦でもそう言うモデルのロボットは実戦投入される手筈だったがこんな古臭い外見のAI搭載型のロボットなどユウヒはみたことがなかった。


『その口振りにその身なり、お前外の世界の住民か?』


「そ、外の世界?」


『この日本・・・・・・いや、日本が納めていた島の外、海を隔てた向こう側にある世界全部を指すんだ。まあどっかの国が核兵器をバカスカ撃ちまくったせいで化け物だらけになったんだけどな』


 そこまで聞いてユウヒは頭がこんがらがってきた。

 尋ねたいことは沢山ある。  

 だが多すぎて何て言えば良いのか分からなかった。


『そういやお前名前は?』


「ゆ、ユウヒ・ステイン。太平洋連邦の軍人だ。階級は軍曹――」


『俺はガンテツ。ガンちゃんとかテッちゃんとかまあ色々言われてるんだわ。よろしくな』


「よ、よろしく・・・・・・」


『さて。ここはまだ安全だけど一旦安全地帯まで戻るぞ』


「で、でも仲間が――」


 正気に戻ってふと仲間の心配を始めるユウヒ。

 とても仲間を見捨てて逃げまくった男の台詞とは思えない。


『そうか。じゃあがんばりな』


「え?」


『なんだ? 手伝ってくれると思ったか?』


「いや、それは――」


 内心そう思っていた自分に恥ずかしさを感じるユウヒ。


『この島では特別な事情がない限りは自分の面倒は自分で見る。自分の行動は自分で責任を持つ。もしも雇いたいなら何かしらの交換条件が最低限必要だ。それがルールだよ』


 と、ガンテツは突き放すように言う。

 ユウヒは何も言えなかった。


『俺も無駄に長生きしてるけど、スクラップになる理由ぐらいは選びたいんでな。どうするかは好きにしな。俺は帰る』


「お、おいてかないでくれ・・・・・・」


『正直でなによりだ』


 ユウヒは謎のロボットと一緒に一先ず安全地帯にまでついていくことにした。

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