師匠と弟子と決闘――14

 風の刃が大気を裂く。


 氷の棘が大地を砕く。


 風と氷の猛攻。


 わたし――セシリア=デュラムは、片時も動きを止めず、ときにフェイントを織り交ぜ、それらを凌いでいく。


「ちょこまかと……!」


 悪態あくたいをつくホークヴァン先輩は、わたしが風の刃を避けたタイミングを狙い、氷の棘を撃ち出した。


 けれど、わたしには剣がある。


「はあっ!!」


 軌道を見切り、セイバー・レイを一閃いっせん。氷の棘は真っ二つに割れ、わたしの背後にある岩に突き刺さった。


 苛烈かれつな戦闘のなか、わたしは思考を冷やす。


 苛烈な戦闘だからこそ、冷静さを失わないよう努める。


 ホークヴァン先輩と接敵せってきしたときから気になっていることがあった。ホークヴァン先輩の魔銃が、いつも扱っているものと異なっていたことだ。


 あの魔銃は見たことがないものです。わたしの知らない魔銃。おそらくは最新モデルなのでしょう。


 ならばこそ、警戒しなくてはならない。あの魔銃の性能をわたしは知らないのだから。不確定要素は敗北の要因になるのだから。


 しかし、守勢一択しゅせいいったくではいつまで経っても勝てない。リスクを負ってでも攻勢に出るべきだ。


 決断し、わたしはホークヴァン先輩へと駆けだした。


 彼我ひがの差は目測で三〇メトロほど。


 現状、優位なのは魔銃を――遠距離武器を用いているホークヴァン先輩だが、距離さえ詰めれば優劣は逆転する。接近戦に持ち込めれば、魔剣を――近距離武器を使用しているわたしにがある。


 相手も理解しているのだろう。ホークヴァン先輩はバック走で距離をとりながら、氷の棘でわたしを牽制けんせいしてきた。


 逃がさない。


 わたしはセイバー・レイの一振りで氷の棘を薙ぎ払い、体を前傾ぜんけいさせて速度を上げる。


 縮まる距離に苛立ったのか、ホークヴァン先輩が顔をしかめた。


 ホークヴァン先輩はバック走をやめ、わたしに背を向けて走り出した。バック走より前を向いて走るほうが、速度が出るからだろう。


 けれど、前を向いた状態では、氷の棘による牽制はできません!


 妨害ぼうがいがなくなったおかげで、相対的そうたいてきにわたしの速度は上がった。もともとの身体能力も、魔銃クラスのホークヴァン先輩より魔剣クラスのわたしのほうが上だ。


 これなら――


「追いつける。そう思っただろう?」


 ホークヴァン先輩が振り返り、ニヤリと口端をつり上げる。


 直後、わたしの斜め前にある岩陰からウイング・ウインドが現れ、風の刃を放ってきた。


 ホークヴァン先輩はわたしから逃げながら、ウイング・ウインドを先回りさせていたらしい。


 自分に意識を集め、ウイング・ウインドで不意打ちする。先ほどルカさんに行わせた奇襲を、ウイング・ウインドに代行させたのだ。

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