未来と孤独と救い――4

 男たちが乗るトロッコは、ほかのトロッコをジグザグに追い抜き、馬の三倍以上の速度で道を走る。


 トロッコを追う俺は、それ以上の速度で駆ける。


 爆走するトロッコと、猛然と駆ける俺を見て、道の両脇にいる人々が目を丸くしていた。


 トロッコと俺との距離は見る見るうちに縮まっていく。


 俺の存在に気づいた男たちが顔を引きつらせた。


「な、なんダ、あいつ!? 魔導車より速く走るなんてあり得るのカ!?」

「驚いてる場合じゃネェ!!」


 ギャリギャリと激しい音を立て、トロッコが右に曲がる。大通りから小道に入ったところで、今度は左に曲がった。


 トロッコは右へ左へと次々曲がり、より細く、より暗い道へ進んでいった。俺をきたいのだろう。


 だが、そうはさせん。


 曲がりくねる軌道に一切いっさいまどわされず、俺はトロッコを追跡し、着実に距離を縮めていった。


 いつまでも追いかけてくる俺に苛立いらだったのか、男たちが舌打ちする。


「くそっ!! もういい! レ!!」


 トロッコ前方の男の指示で、後方の男がふところからなにかを取り出した。


 筒に取っ手をくっつけたような、かいな形状の物体だ。筒と取っ手のあいだには、虹色の光沢こうたくをした玉が埋め込まれている。


 あの玉は『魔石ませき』。魔力マナとの親和性しんわせいが高い特殊な鉱石で、魔法装備の素材として重宝ちょうほうされるものだ。


 みょうなかたちだが、あの物体はなんだ? アイテムの一種か?


 眉をひそめていると、男が筒の先を俺に向けた。


 男の唇が醜悪しゅうあくに歪む。


「焼け死ネ!!」


 同時、筒の先から火炎球が放たれた。


 俺は目を見開く。その火炎球が、炎魔法『ファイアボール』だったからだ。


 魔法の発動には詠唱えいしょうが必要だ。しかし、詠唱はとなえられていない。


 魔法を放つアイテムなど存在しない。しかし、あの筒はファイアボールを放った。


 どうなっている? 未知の術式か? 新たに発明されたアイテムか?


 様々な疑問が浮かぶ。


 俺はそのすべてを無視した。


 疑問は尽きないが、いまはどうでもいい。肝心かんじんなのは、男たちが敵意を向けたことだ。俺をあやめようとしたことだ。


「ならば、容赦ようしゃはいらないな」


 迫りくる火炎球を見据みすえ、俺は腰にいた刀を抜き放つ。


ぁっ!!」


 裂帛れっぱく。一刀。両断。


 火炎球が真っ二つに割れ、大気に散っていった。


 男のニヤニヤ笑いが引っ込む。


「魔法を……打ち消しタ……!?」


 代わりに浮かぶのは、化け物を目にしたようなおびえだった。


 体を前傾ぜんけいさせ、俺はさらに速度を上げる。


「ひっ!?」と男が声を引きつらせた。


「く、来るナァ――――――――ッ!!」


 男が錯乱さくらんしたように火炎球を乱射する。


 俺は火炎球をひとつ残らず斬っていく。


 火炎球をことごとく打ち消され、男がカチカチと歯を鳴らした。前方の男も異常に気づいたのか、顔を青ざめさせている。


 もはやトロッコは目前。


 俺は刀を左脇に構え――


っ!!」


 追い抜きながら振るった。


 トロッコと車輪に斬痕ざんこんが走り、上と下とが分断される。


「ひゃっ!?」


 拘束された女性が宙に投げ出された。俺は刀を持っていないほうの腕で、女性をふわりと受け止める。


 ブーツで地面を削りながら速度を殺し、無事停止。


 男たちは両断されたトロッコとともに壁に激突し、潰れたヒキガエルみたいな声を上げた。


「「ぐ……ぅ……っ」」


 破片と瓦礫がれきのなかから、男たちが血塗まみれでい出てくる。


 俺は男たちに刀の切っ先を向けた。


 月明かりが刀身をギラリと光らせ、男たちの顔が蒼白そうはくになる。


「貴様たちは知っているか? かつて、世界を救うために命をけた者たちがいたことを。いまの平和は人々の悲願であり、希望であり、我が友たちの誇りだ」


 俺は猛禽もうきんごとく鋭い眼差まなざしで、男たちを射貫いぬいた。


「友の誇りを汚す者は、この俺がたたる」

「「ひぃ……っ!!」」


 男たちが這々ほうほうていで逃げ出す。


 追いかけたいのはやまやまだが、奴らに拘束されていた女性がこちらにいる。彼女を置いてはいけない。いま気にかけるべきは彼女だ。

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