未来と孤独と救い――2

 二〇〇年経ったラミアは非常に興味深く、俺は街を散策さんさくすることにした。


 最初に訪れた場所の建造物は大きなものばかりだったが、めぐれば、二階建て、三階建ての建物も見つかった。


 おそらく、最初に訪れた場所は目抜めぬき通りだったのだろう。二〇〇年前も、さかえた場所には規模の大きい施設が集まっていたからな。


「それにしても、あのトロッコはなんなのだろう?」


 黒い道を走るトロッコに目をやりながら、俺は立ち止まって首をかしげる。


 二〇〇年前は乗り物といえば馬車だった。それがいまは、謎のトロッコがビュンビュンと行き交っている。速度も台数も二〇〇年前とは比べものにならない。


「うむむ……」とうなり、やがて俺は笑みをこぼした。


「考えても詮無せんないことか」


 仕組みはわからないが、交通の便がよくなったのはたしかだ。喜びこそすれど、なげくことはない。


 これは進歩だ。発展のあかしだ。


 再び歩き出し、俺は感慨かんがいにふける。


「ロランたちが命がけで魔王を討伐したから、いまの世界があるのだ」


 ラミアの街は活気に溢れ、道行く人々の顔も明るい。


 手を繋いだ親子が前から歩いてきた。どうやら夕飯の話をしているらしい。母親も娘も笑顔を浮かべている。


 親子とすれ違いながら、俺は口端くちはしを上げた。


 あの笑顔こそ平和の証だ。我が友たちが守ったものだ。


 誇らしい気分で歩いていると、斜め上にかけられた標識に気づく。標識には、ここが『牛追い通り』であることがしるされていた。


 牛追い通りには、勇者パーティーを結成した酒場がある。


「久しぶりに一杯やるか。ロランたちの功績をさかなにして」


 高揚こうようしながら通りを進み、酒場のある地点にやってきた。


 俺は立ち尽くす。


「酒場が……ない」


 そこに建っていたのが、誰のものとも知れぬ邸宅ていたくだったからだ。


 しばし呆然としたあと、俺はフラリと歩き出す。


 俺の脚は、自然と思い出の場所を巡っていた。


 ロランと出会った石橋。


 アレックスともども世話になった鍛冶屋かじや


 フィーアに連れていかれた大図書館。


 リトと食べ歩きした市場。


 マリーとふたりで育った孤児院。


 ない。


 ひとつもない。


 仲間との思い出の場所。そのすべてが、なかった。


 孤児院だった場所に建つ、大勢の客でにぎわう食堂を眺め、俺はポツリとつぶやく。


「……二〇〇年、経ったのだからな」


 そうだ。ここは俺が生きた時代ではないのだ。


 なにものも、時が経てば移ろいゆくのは道理。


 変わらないものなどない。


 終わらないものなどない。


 なくらないものなど、ないのだ。

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