梅雨のサクラと冬瓜鍋 5

 5人は温かいココアを片手に、客間の布団の上に座り込んだ。

「で、なに話してたんだ? 面白い家族写真でもあったのか?」

 と、流石さすがが聞いた。

「栃木が女装趣味って話だ」

「違うから。これがサクラちゃんだ」

 スマホを操作し、咲哉さくやは写真を表示して見せた。

 母の百合恵ゆりえとお揃いの、白いワンピースを着こなす少女が写っている。胸には小さな丘があり、セミロングの黒髪で薄くメイクもしているが、顔は咲哉そのものだ。

「わー、可愛いね」

 素直に感想を言うのは景都けいとだ。

「……」

 流石はココアを吹き出しそうになっている。

「買い物に連れ回すなら女の子がいいとか言って、母さんに着せられてんの。子ども服とか選ぶのも、野郎の服より女の子の服の方が可愛いっつって、いまだに着せて来るんだよ」

 と、咲哉は真顔でココアのカップを口に運ぶ。

 世津せつは、スマホの写真を見下ろしてポカンとしてしまっている。利津りつが、

「世津? 一目惚れとかすんなよ?」

 などと言っている。

「しないよ」

「似合うな、お前。あきさんの血、引いてるな」

 と、流石が言う。

「うん」

「アキさん?」

「いつも俺に飯食わせてくれてる親戚。父さんの弟でオネエなんだけど、めちゃくちゃきれいな和服美人だよ。一緒に撮った写真が……あった。この人」

 店に出ている着物姿の秋と、着流しに前掛け姿の咲哉が並んでいる。

「わー、咲哉も着物だ」

 と、覗き込む景都の横で、利津も、

「えっ、めっちゃ美人。オネエなの? 女装の人?」

 と、聞いた。

「うん。俺もその格好で手伝うことあるんだけどさ。今は忙しいらしくて、秋さんのオネエ仲間をバイトに雇って手伝ってもらってるよ」

「なんの店?」

「女心と秋の空、だっけ」

 布団に寝そべりながら、流石が言う。

「なに?」

「お店の名前。小料理屋って言うか居酒屋みたいな店だけど、普通に定食とか美味いからさ。新生活でこの辺に住み始めた人とかが、お袋の味的な晩飯求めて来るんだよ」

「へー。秋さん、すごいね」

「うん」

 利津は世津にもスマホ画面を見せながら、

「案外、街中ですれ違う美人とかも、女装の人だったりするのかもな」

 と、言っている。

「お店、手伝ったりもしてるのか」

 と、世津が聞いた。

「うん。バイトさんは忙しい時期だけだから。飲み会の予約とか入ると手伝ったりしてる」

 咲哉も足を伸ばしながら答えた。

「あんまり忙しくない時期になったら、行ってみるか」

 と、利津が言うと、世津も頷いている。

「じゃあ、店の場所メールしとく」

「うん」

「なあ、他にサクラちゃんの写真は?」

 と、流石が聞いた。

「いや、もう忘れてくれよ」

 咲哉は苦笑しているが、景都は目をキラキラさせ、

きょうちゃんがふざけて僕にスカート履かせてきたりするけど、僕よりぜんぜんサクラちゃんの方が似合うよ」

 と、言っている。

「ん? キョウちゃんってのは?」

「うちの妹。あ、本物の妹だよ」

「富山は妹がいるのか」

「うん。でも似てないの。利津と世津がうらやましい」

「まあ、俺らは双子だからな。そうか、似てないのか」

 残念そうに言う利津に、咲哉は、

京香きょうかちゃんも可愛い子だと思うけどな。柔道と水泳やってて、景都より先に伸長が伸びちゃってるんだよな」

 と、話した。

「マジか」

「技かけてきたりするんだよ。軽いから投げやすいとか言って練習台に――」

 突然、客間の扉から、ゴンゴンッと硬い音が響いた。

 5人が一斉に扉へ目を向けた。

「……いまの、なに?」

「誰か来た?」

 ゴツンっと、今度は壁から音がする。

 景都が流石の背中にしがみ付ついた。

「あー、言い忘れてたな。たぶんタンゴだ」

 と、咲哉が溜め息をついた。

「タンゴ?」

「あー、ぶつかって来るお掃除ロボットか」

「ぶつかって来るの?」

「うん。なんかうちのお掃除ロボット、みんなセンサーとかスピードとか変になっちゃっててさ。けっこうなスピードでぶつかって来ることあるから気を付けてくれって、言うの忘れてた」

 と、咲哉が話す内にも、廊下のお掃除ロボットはゴンゴンと客間の壁に体当たりしている。

「それは危ないな」

「うん。うるさいから、ちょっと止めて来る」

 と、咲哉は客間から廊下へ出て行った。

「うちにも懸賞で当たったのがあるけど、壁にもぶつからないし動きは遅いよな」

 と、利津が言う。

「でもAIはハイテクなんだよ。壊れてるとか悪口言うと追いかけて来るの」

 景都が言うと、世津は首を傾げ、

「そこまでの言語理解力は無いんじゃないかな」

 と、言っている。

「高機能AIなら、まず追いかけて来たりぶつかって来たりしないだろ」

 利津も言っていると、咲哉が戻って来た。

「修理に出しても何ともないんだってさ」

 と、咲哉は首を傾げている。

「何台もあるんだろ?」

「うん。全部どっかおかしい。電源オフしても勝手について動き出すから、引っくり返してきた」

 平然と言う咲哉に、4人は顔を見合わせる。

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