梅雨のサクラと冬瓜鍋 5
5人は温かいココアを片手に、客間の布団の上に座り込んだ。
「で、なに話してたんだ? 面白い家族写真でもあったのか?」
と、
「栃木が女装趣味って話だ」
「違うから。これがサクラちゃんだ」
スマホを操作し、
母の
「わー、可愛いね」
素直に感想を言うのは
「……」
流石はココアを吹き出しそうになっている。
「買い物に連れ回すなら女の子がいいとか言って、母さんに着せられてんの。子ども服とか選ぶのも、野郎の服より女の子の服の方が可愛いっつって、いまだに着せて来るんだよ」
と、咲哉は真顔でココアのカップを口に運ぶ。
「世津? 一目惚れとかすんなよ?」
などと言っている。
「しないよ」
「似合うな、お前。
と、流石が言う。
「うん」
「アキさん?」
「いつも俺に飯食わせてくれてる親戚。父さんの弟でオネエなんだけど、めちゃくちゃきれいな和服美人だよ。一緒に撮った写真が……あった。この人」
店に出ている着物姿の秋と、着流しに前掛け姿の咲哉が並んでいる。
「わー、咲哉も着物だ」
と、覗き込む景都の横で、利津も、
「えっ、めっちゃ美人。オネエなの? 女装の人?」
と、聞いた。
「うん。俺もその格好で手伝うことあるんだけどさ。今は忙しいらしくて、秋さんのオネエ仲間をバイトに雇って手伝ってもらってるよ」
「なんの店?」
「女心と秋の空、だっけ」
布団に寝そべりながら、流石が言う。
「なに?」
「お店の名前。小料理屋って言うか居酒屋みたいな店だけど、普通に定食とか美味いからさ。新生活でこの辺に住み始めた人とかが、お袋の味的な晩飯求めて来るんだよ」
「へー。秋さん、すごいね」
「うん」
利津は世津にもスマホ画面を見せながら、
「案外、街中ですれ違う美人とかも、女装の人だったりするのかもな」
と、言っている。
「お店、手伝ったりもしてるのか」
と、世津が聞いた。
「うん。バイトさんは忙しい時期だけだから。飲み会の予約とか入ると手伝ったりしてる」
咲哉も足を伸ばしながら答えた。
「あんまり忙しくない時期になったら、行ってみるか」
と、利津が言うと、世津も頷いている。
「じゃあ、店の場所メールしとく」
「うん」
「なあ、他にサクラちゃんの写真は?」
と、流石が聞いた。
「いや、もう忘れてくれよ」
咲哉は苦笑しているが、景都は目をキラキラさせ、
「
と、言っている。
「ん? キョウちゃんってのは?」
「うちの妹。あ、本物の妹だよ」
「富山は妹がいるのか」
「うん。でも似てないの。利津と世津がうらやましい」
「まあ、俺らは双子だからな。そうか、似てないのか」
残念そうに言う利津に、咲哉は、
「
と、話した。
「マジか」
「技かけてきたりするんだよ。軽いから投げやすいとか言って練習台に――」
突然、客間の扉から、ゴンゴンッと硬い音が響いた。
5人が一斉に扉へ目を向けた。
「……いまの、なに?」
「誰か来た?」
ゴツンっと、今度は壁から音がする。
景都が流石の背中にしがみ付ついた。
「あー、言い忘れてたな。たぶんタンゴだ」
と、咲哉が溜め息をついた。
「タンゴ?」
「あー、ぶつかって来るお掃除ロボットか」
「ぶつかって来るの?」
「うん。なんかうちのお掃除ロボット、みんなセンサーとかスピードとか変になっちゃっててさ。けっこうなスピードでぶつかって来ることあるから気を付けてくれって、言うの忘れてた」
と、咲哉が話す内にも、廊下のお掃除ロボットはゴンゴンと客間の壁に体当たりしている。
「それは危ないな」
「うん。うるさいから、ちょっと止めて来る」
と、咲哉は客間から廊下へ出て行った。
「うちにも懸賞で当たったのがあるけど、壁にもぶつからないし動きは遅いよな」
と、利津が言う。
「でもAIはハイテクなんだよ。壊れてるとか悪口言うと追いかけて来るの」
景都が言うと、世津は首を傾げ、
「そこまでの言語理解力は無いんじゃないかな」
と、言っている。
「高機能AIなら、まず追いかけて来たりぶつかって来たりしないだろ」
利津も言っていると、咲哉が戻って来た。
「修理に出しても何ともないんだってさ」
と、咲哉は首を傾げている。
「何台もあるんだろ?」
「うん。全部どっかおかしい。電源オフしても勝手について動き出すから、引っくり返してきた」
平然と言う咲哉に、4人は顔を見合わせる。
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