梅雨のサクラと冬瓜鍋 4
長野兄弟は客間に布団を敷いた。
すぐに寝られるよう、ラフなTシャツとジャージに着替えている。
「布団並べて寝るの、久々だな」
枕を置きながら、
「布団ふた組敷いても余裕だ。この和室、何畳だろう」
と、
「さっき数えた。床の間付き8畳だよ。
そう言って、利津は床の間に飾られた掛け軸を眺めた。桜と藤、百合の花が流れるような構図で描かれている。
「そうか。俺らの部屋、元々8畳間だったのを壁で区切ったんだったよな」
「そうそう。双子になっちまって、子ども部屋を区切る羽目になったって何度も言われたな。同じ部屋に二段ベッドとかで良かったのに」
「いや、別れてた方が良いけど」
世津に言われ、利津が口を尖らせて見せる。
「後片付け、手伝いに行くか」
「うん」
「利津と世津はゆっくりしてていいよ」
と、言っていた。
客間から玄関ホールに出ると、壁一面のコルクボードに貼られた家族写真に目が向いた。
小さいパネルに入れられていたり、厚みのあるボードに写真が直接印刷されていたり。造花や飾りのついたピンで彩られ、デザイン性もあふれる写真コーナーだ。
「すごいな……」
見上げて、世津が呟いた。
「栃木の母ちゃん、めっちゃ美人だな」
「うん」
「あれ?」
利津が、一枚の写真に目を止めている。
「なに?」
「なあ、世津。これ見てみろ」
利津が指差す写真にはスーツ姿の咲哉と並んで、ワンピース姿の少女が写っていた。少女は咲哉と瓜二つだ。
「栃木、一人っ子って言ってたよな」
と、利津が首を傾げる。世津は目を見張りながらも、
「なんか……なんて言うか、訳ありなのかな」
と、声をひそめて言った。
「聞いてみよう」
「いや、待てよ。突っ込んじゃまずいこともあるだろ」
「それなら、こんなとこに貼ってないだろ」
「そりゃ……でも――」
「おーい、栃木」
玄関ホールから、利津はダイニングルームの方へ声をかけた。
「待てよ、利津」
「んー?」
のんびりと欠伸をしながら、咲哉がダイニングから顔を出した。
「なあ、この写真って双子?」
と、利津が指さす写真に、咲哉も目を向けた。
「うわ、なにこの写真……母さんがこの前、帰って来た時に貼り替えたんだなぁ」
目をパチパチさせて咲哉は言った。慌てて世津が、
「ごめん、悪いこと聞いたなら」
と、言うが、咲哉は薄く笑う。
「いや、良いんだけどさ。それはサクラちゃんだ」
「双子の妹?」
「俺の女装だけど」
「へっ?」
利津と世津が声を揃えた。
固まっている世津の横で、利津も驚きの表情のまま、
「お前、そういう趣味だったか」
と、言った。
「俺の趣味じゃないよ。母さんの趣味」
そこへ、景都がタオルで手を拭きながらやって来た。
「洗い物できたよ」
「ありがとな」
「流石がココア淹れてくれてる。写真、見てたの?」
「ほら、富山。これ見てみろ」
と、利津は、双子のように並ぶふたりの写真を指差した。
景都も見上げて目を丸くした。
「咲哉がふたりいる!」
「合成写真だけど、なんか怖いよな」
「あぁ、合成写真なのか。世津なんか訳アリの妹がいると思ってたぜ」
「……だって、そう思うだろ」
世津が肩を落としているところへ、流石がトレーにホットココアのカップを乗せてやって来た。
「ココア淹れたぞ。寝るまで、客間で喋ろうぜ」
「うん。じゃあ、そっちで説明するから」
とりあえず、そういう事にした。
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