梅雨のサクラと冬瓜鍋 6

咲哉さくや、それ怖くねぇ?」

 と、流石さすがが聞いた。

「掃除はちゃんとしてくれるんだけどな」

「テレビとかラジオが勝手につくとか、ひとりでにシャワーから水がバーッて出てくるとか、ホラーでよくあるやつじゃねぇの?」

 利津りつが楽しげに言った。咲哉は小さく笑い、

「それは思い付かなかったな」

 と、答えた。「うちに色んな家電とか、父さんの仕事関連のコンピューターとか山ほどあるから、家の中で変な影響が出てるんだと思ってた」

「あぁ、そういうのは考えられるか」

 と、世津せつは頷くが、咲哉は、

「でも父さんが電波探知で調べて、家電に影響が出るような状態にはなってないって言ってたんだよな。もしセンサーとかリモコンとか、電源に影響が出たとしても、どこに置いてあるのも全部がおかしくなるって事は考えにくいってさ」

 と、話した。すぐに景都けいとが怯えた表情になる。流石も、

「メーカーとか型番みたいの、全部違ってたよな。それで修理に出しても不具合は無くて、どれも電源オフしても勝手についたり、ぶつかってきたりするんだよな」

 と、言っている。「普通に使うの、怖くねえか」

「なんかに取り憑かれてるな」

 軽く笑いながら利津が言っていると、

『お掃除を始めます』

 廊下から、電子音声が聞こえた。

「えっ」

「あれ?」

『お掃除を始めます』

『お掃除を始めます』

「これ、動き出す前に言うやつ……」

 と、世津が呟く。

 ゴツゴツと、先ほどと同じような音が壁にぶつかり始めた。今度は数台分の音だ。

 廊下側の壁を眺め、咲哉が首を傾げている。

「引っくり返して物置部屋に入れて来たんだけどな。物置部屋のドア、ちゃんと閉まってなかったのかな」

「……ドアが半開きだったとしても、あの形状で引っくり返ってて元に戻れるのか?」

「じゃあ、2階のが降りて来ちゃったとか」

「あっ、きっとそれだよ」

 景都が言うが、

「これでドア開けたら、廊下に何も無かったりしてな」

 などと利津が言うので、景都は目を潤ませてしまった。

「怖い……」

 慌てて世津が景都の頭を撫でてくれた。

「利津、変なこと言うなよ」

「じゃあ世津、見て来てみ」

「……別にいいけど」

 世津が立ち上がると、廊下から、

『お掃除を始めます』

『お掃除の時間です』

『お掃除を始めます』

 徐々に大きくなる電子音声が繰り返される。

「近所迷惑なんだけど」

 と、咲哉も世津と一緒にドアを開けた。

 目の前の廊下を、一台のお掃除ロボットがスーッと横切って行った。電子音声は聞こえなくなった。

「1階のやつだ。いつもはこんなに酷くないんだけどな」

「物置部屋のドア、開いてないか」

「本当だ。半開きのままだったかな」

 ドアを閉めに行く咲哉の後を、世津もついて来た。

 物置部屋に、お掃除ロボットの姿は無かった。

「いつもデカい家に栃木がひとりだから、タンゴが賑やかにしてくれてたりしてな」

 ぽつりと、世津が呟いた。

「じゃあ、みんなが来てくれて俺は楽しんでるって、タンゴたちにわかってもらわないとな」

 笑って咲哉が言うと、廊下の向こうから、

『お掃除を終了しました』 

 という、電子音声が聞こえた。

 家中を走り回っていたお掃除ロボットたちの音が、一斉に静かになった。

「案外、世津の大当たりだったりしてな」

「……だとしたら、普通にホラーじゃないか?」

 咲哉は笑いながら、世津の背を客間へ促した。

 ふたりが客間へ戻ると、景都が泣きべそをかきながら欠伸するという可愛い瞬間だった。

「そろそろ寝ようか」

「タンゴは?」

 利津が聞くと、世津が、

「なんか、わかってくれたみたいだ」

 と、真面目な顔で答えた。

「景都、流石。もう寝よう」

「おう」

 流石は、トレーに乗せた空のカップを持って立ち上がった。

「タンゴ、もういない?」

 景都も立ち上がり、咲哉と手をつなぐ。

「定位置に戻ったよ。じゃあ、俺らは2階の俺の部屋で寝てるから。なんか用があったら呼んでくれ」

「うん。おやすみ」

「おやすみー」

 空のカップは流し台に置いた。洗い物は明日だ。

 3人は以前のお泊りと同様、咲哉のクイーンサイズベッドに川の字で眠った。

 お掃除ロボットの動作は謎のままだが、家主の咲哉にも驚きの多いお泊り会になった。

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