不思議屋 3

 北小学校の生徒会室は、西日が差し込んで橙色に照らされていた。

 生徒会メンバーもすでに代替わりし、元生徒会長の青森流石あおもり さすがは窓から校庭を眺めていた。

 元生徒会書記の富山景都とやま けいとも窓の近くのパイプ椅子に座り、ぼんやりと生徒会室の天井を眺めている。

 西日を眩しそうに元生徒会副会長の栃木咲哉とちぎ さくやは、奥まった位置でパイプ椅子に座り、落書きだらけのホワイトボードを眺めていた。

 なんだかわからない書類やファイルの詰まった棚が壁際に並び、ささくれ立った長机にパイプ椅子を並べている。形ばかりの小さな生徒会室だ。

「短かったな。生徒会」

 流石がぽつりと呟いた。

「うん」

 景都も頷きながら、流石と並んで窓の外を眺めた。

 咲哉は長机に頬杖をつきながら、夕日を浴びるふたりを眺め、

「あっという間だったな」

 と、言った。

「生徒会で、俺たちまだ知り合ったばっかじゃんか」

「うん。もっと一緒に遊びたい」

 流石と景都が窓の外を見下ろすと、校庭で高学年の生徒たちのサッカー教室が行われていた。

 鉄棒や、うんていなどの固定遊具で遊ぶ生徒たちの姿も見える。

「でも、中学は1年生だけで9クラスもあるマンモス校だ」

 西日の当たらない棚の陰に座る咲哉が、流石と景都を眺めながら言った。

「北小なんか3クラスしかないのに、僕たちバラバラのクラスだもんね」

 と、景都も呟いた。

「……」

「……」

「だけど、なんでも願いが叶うって噂の不思議屋も本当にあったんだ。俺たちの願いは叶うって信じようぜ」

 流石が力強く言うと、景都と咲哉はしっかりと頷いた。



 街の駅には新幹線もとまり、私鉄が走り路線バスも幾重いくえに広がっている。

 しかし、街の駅から離れるほど、昔ながらの田舎の町並みになっていく。

 過疎化かそかをまぬがれるため、小さな村や町を合併した『四季深しきふか』が誕生したのは約二十年前。村や町を隔てる山や森は開発され、道路や施設も整備された。

 合併都市開発の一環として、閉校に追いやられそうだった学校をまとめて、大きな中学校が建てられたのだ。



 緊張の時が来た。

 本日は、四季深市立中央ちゅうおう中学校の入学式だ。

 小学校を無事に卒業した流石、景都、咲哉の3人は、おろしたての学ランに身を包み、中学校の入学式へやって来た。

 北小学校と違い、真新しい大きな校舎に広々とした校庭。

 校門横に植えられた桜もまだ若木だ。細枝に残る桜の花びらが、風にひらひらと舞っていた。

 白く艶やかな校舎中央の昇降口に、人だかりが出来ている。

 昇降口前の広場に、新入生のクラス分けが貼り出されていた。

 大きな紙に担任名と生徒の名前がずらりと印字され、9台のホワイトボードに貼り出されている。

「この中から探すのかよ。アナログだなぁ」

 と、溜め息をつく咲哉に、

「名前の順になってるから、そんなに大変じゃないだろ」

 と、流石が言う。

「1組には僕たちの名前、無いみたい」

 早々に1組の生徒名に目を通した景都が、流石と咲哉の袖を引っ張った。

「あ、俺2組だ」

 相沢、青島の次に青森流石の名前があった。

「……俺も」

「僕も!」

 男子の名前の中ほどに、栃木咲哉と富山景都の名前も並んでいた。

「不思議屋、噂通りだったな!」

 力強く言い、流石が景都と咲哉の手を握った。

「マジか……すごいな」

「担任の先生が女の先生って言うのも、たぶん当たってるよ。香川茉莉かがわ まり先生だって」

 丸い目をキラキラさせ、景都が言う。

「あとは、Eカップかどうかか」

 などと、咲哉も言っている。

『まもなく入学式が始まります。新入生の皆さんは、クラスを確認したら体育館へ集合してください』

 校庭のスピーカーから、女性教師の声が言った。

「やったな。楽しくなってきた」

「うん」

「びっくりだ」

 流石、景都、咲哉の3人は、もう一度クラス発表に目を向けてから、体育館へ足を進めた。


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