第33話 限界突破
「それは……どういうことですか」
「このまま貴殿が戻ったところで、太食龍には敵わんのだ」
龍神の言葉は至極全うだった。勝ち目のない戦いに自ら飛び込んで命を落とすことを見過ごす神がどこにいると言うのか。
だがそれでも俺は戦わなければならない。王国には今メル達がいる。それにバーンの大事な人だっているんだ。例え勝てなくても、例え命を落とすことになっても戦わなければならないのだ。
「それでも、俺は戦わなければならないのです」
「まあ待て、話を最後まで聞くのだ。我も貴殿を無理やり引き留めるつもりは無い」
「それなら何故……」
「貴殿の能力を大幅に上昇させる方法があるのだ」
龍神は今の俺が必要とする情報を持っているようだった。王国の危機を救うことの出来る力を得られるのなら、俺は何だってする覚悟がある。
「貴殿は人の限界であるレベル200に達しているな」
レベル200……? そうか、イル・ネクロを倒した際にレベルが上がったのか。しかし人の限界がレベル200だと言うのなら、これ以上はどう足掻いても強くなれないのでは無かろうか。
「限界突破というものを行えば、貴殿はさらなる力を手に入れることが出来るだろう」
「限界……突破……?」
「人としてのレベル限界を超える方法である。簡単では無いがやってみる価値はあるだろう」
「はい。それでその方法とは……」
「その方法は、自分自身に勝つことだ」
龍神は限界突破をする方法を俺に伝えた。
それは能力をそっくりそのまま再現した再現体を倒すことで限界突破を行うことが出来るという、とても単純なものであった。だが言葉にすれば単純でも、自身と同じ能力の再現体と戦うのであれば苦戦を強いられるのは確実だろう。何しろ自分とそっくりそのまま同じ力を持っているのだから、与えるダメージも受けるダメージも同じなのだ。
「サザンよ、限界突破の試練を行うのか?」
「……やります。やらないといけないんです」
龍神は俺のその言葉を聞くと、再現体と戦うための結界を作り出した。
「この中でならどれだけ暴れても大丈夫だろう。存分に戦うと良い」
「ありがとうございます」
俺は意を決し結界の中に入った。龍神の言う通りに限界突破を行うための術式を発動させると、俺そっくりの見た目の再現体が現れる。戦いを始めようと俺が短刀を構えると、再現体も同様に構えた。
「ふぅ……始めるか」
身体能力強化や属性付与、戦いに必要なありとあらゆる付与魔法をエンチャントする。相手が同じレベルであるため即死魔法は効かない。ただそれは向こうも同じであるため即死耐性は必要が無い。また経験値を気にする必要が無いため、付与魔法の出し惜しみをする必要も無い。正真正銘、全能力を出し切り本気で戦う。
「くっ……やっぱり自分自身なだけあって向こうも考えることは同じか」
再現体は俺と同じように自身に付与魔法を大量にエンチャントしている。普段のように簡単に決着が付くことは無かった。わかってはいたが改めて戦うことになると、この強力な付与魔法というものは厄介だ。その厄介なことを俺は普段からしているわけだが。
どれだけ短刀で斬りつけようと決定打にはならない。しかし向こうの攻撃もそれは同じで、俺も致命傷を受けることは無かった。このままいつまでもだらだら戦っていては王国が壊滅してしまう。とは言え再現体を倒すための策は思いつかない。なんとか弱点を探さなければならないが、弱点を克服するために付与魔法を開発してきたために再現体に目立った弱点は無かった。
「俺、かなり厄介な相手だったんだな……」
思わず口に出る。こんなのを目の前にして自身を貫き通していた魔人ファレルロは勇敢だったのだなと改めて思う。
「うぐっ……!」
再現体の攻撃によって毒を食らってしまう。が、付与魔法で毒耐性を上げているためすぐに治癒する。
「これ、アイツを毒にしても同じなんだよな……」
耐久性の高い相手には状態異常攻撃を使うのが定石ではある。剣や魔法が通らなくても内側からジワジワとダメージを与え続ければ勝ち目があるからだ。
だがそれも状態異常の耐性魔法を開発した俺にはその限りでは無い。
「クソッ、こんなことになるんなら強すぎる付与魔法を作りすぎるんじゃなかった」
そんな事を言っても、それが無ければメル達を危険に晒してしまう以上はどちらにせよ作っていたのだろう。
「さて……どうするべきか」
爆発魔法を付与した石をぶつけたり閃光魔法を付与した道具で目くらましをしたり、とにかく色々とやってみたものの全て駄目だった。俺がどんな攻撃をしようとそれは無効化され、再現体がどんな攻撃をしようと俺はそれを無効化する。いつまで経っても戦況は変わらず鼬ごっこだ。
思えば俺は大器晩成スキルによってレベルが上がってから付与魔法の代償以外でまともなダメージを負っていない。
もしや俺は俺自身を倒せないのではないだろうか。そんなマイナスな考えが俺の脳内をめぐり始めてしまったのだった。
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