龍神界と限界突破
第32話 龍神界
「サザン!! 起きるのだ!!」
見事サザンはイル・ネクロを倒し王国を救うことに成功した。しかしその直後、血を吐き倒れ込んでしまったのだった。ファルはそんなサザンに駆け寄り抱き上げる。
「我に生きろと約束しておいて、サザンの方が死んでしまうのは許さんぞ!」
どれだけ揺さぶろうが声をかけようが起きる気配が無いサザン。ファルはそんなサザンのそばで涙を流しながら声をかけ続けるのだった。
「サザン……頼む、起きてくれ……」
◇
「……ここはどこだ?」
俺は確かイル・ネクロを倒すために龍転身を使って……そうか、その代償で倒れたのか。
視界に広がるのは澄んだ青い空に、生い茂る色とりどりな草花。あまりにも美し過ぎる景色に、ここは死後の世界か何かなのでは無いかと思ってしまう。
そんな時、背後から気配を感じた。
「誰だ」
「貴方がサザン様ですね?」
振り向くとそこには竜人の少女が立っていた。短い青髪に青い目をしたどこか不思議な雰囲気を感じる少女。竜人には人に近いタイプと龍に近いタイプがいるが、彼女は人に近いタイプの様だった。体の随所に鱗が見え、龍の角や尻尾も確認出来る。
ただそれ以上に気になるのは、彼女が何故か俺の名前を知っていたことだ。もしかしたら鑑定能力や俺の知らない何らかの能力を持っている可能性がある。油断は出来ない。
「どうぞこちらへ」
「……?」
竜人の少女は自身についてくるように促した。このまま付いて行ってしまって良いのだろうか。どちらにせよ今の俺に出来ることは少ないため、何か情報を得るためにも彼女に付いて行く以外の選択肢は無いだろう。
それにしてもこの場所は妙だ。一切の風を感じないにも関わらず雲は動いている。もしかしたら別の世界や別の空間の類なのかもしれない。
そう考えながら歩いていると、豪華な装飾が施された宮殿が見えてきた。この辺り一帯を支配する貴族か何かの宮殿だろうか。
「どうぞ中へ」
宮殿の中へと案内される。俺何か貴族に呼び出されるようなことしたかな。不当な罪を押し付けられて処刑されたりしたらどうしよう。
そんな心配をしていたが何か違和感を覚えた。外から見えた宮殿の大きさに対して廊下が長すぎる気がしたのだ。同じく部屋の数も明らかに多い。これだけの部屋数だと一部屋の大きさは大きめの木箱二つ分くらいしか無いのではないだろうか。
さてはあまり金の無い貴族が、どうにか豪華に見せるために部屋のかさ増しをしているのでは無いかと勘繰ってしまう。
しかしそんな考えは簡単に打ち砕かれた。
最終的に行きついた部屋はどう考えたって宮殿より大きかったのだ。物理的にありえない状況だった。
「貴殿がサザンであるな?」
「え、ええそうです……」
部屋の中心にいたのは大きな龍。しかし魔物の持つような殺意は感じられない。むしろ神々しさというべきか、何か手の届かない存在という印象を受けた。
「貴方は?」
「我は龍神である。この龍神界を統べる者だ」
龍神……伝承やおとぎ話で語られる最強の龍か。そんな存在が今目の前にいるなど、簡単に信じることは出来ない。しかしここに来るまでに感じたこの場所の妙な感じや、目の前の龍が放つ圧倒的な威圧感。恐らく本物なのだろう。そう思わざるを得ない状況だ。
とにかく今はこの龍神から情報を得るしかないな。
「龍神様。龍神界というのは何なのでしょうか。そして俺は、死んでしまったのですか……?」
「そうだな、まずはそこから説明しなければならんな。それと貴様は死んではおらん。安心するが良い」
どうやら死んでいないことは確からしい。ひとまずは安心だ。
龍神は俺にこの龍神界について説明してくれた。
この龍神界には様々な龍種が住んでおり、俺の居た世界とは別の空間にあるのだと言う。ただすべての龍がここに住んでいるわけでも無いらしい。実際俺の居た世界にも龍や竜人はいる。
そして俺がここに呼ばれたのは、龍転身によって俺が龍の特性を持ったかららしい。龍種は生まれるとまずこの龍神界に呼ばれるらしく、それは俺のように後天的に龍になった者も例外では無いようだ。
「さてサザンよ。他に聞きたいことはあるだろうか」
「来たばかりでこれを聞くのは申し訳ないのですが、元の世界に戻るにはどうすれば良いのでしょうか」
「なに、気にする必要は無い。基本的にはここに残ろうが貴殿の世界で暮らそうが自由であるからな。それで戻る方法だが、念じれば戻れることが出来る。同じように念じればいつでもこの龍神界に来ることも出来る。これが龍種の能力の一つでもあるからな。ただ、自身の生命力が一定量より低い場合はその限りでは無いから気を付けるのだぞ。死にそうだからと世界を移動しようとしても、それは出来んのだ」
便利ではあるが、それを使って命の危機を脱することは出来ないか。それでも生命力さえあれば使い放題移動し放題なのはとても良い。
「それと、後天的に龍になった貴殿はこちらの世界にいる内は肉体が無防備になる。人が混ざっている貴殿は精神しかここに来ることが出来ないためだ。このことには十分注意せよ」
「ご心配ありがとうございます。肝に銘じておきますね」
俺の場合は肉体が残ってしまうデメリットがあるのか。安全が確保された場合にのみこっちに来る方が良さそうだ。
「うむ。それでは本題に入ろう」
今までの話しは本題では無かったのかと口走りそうになったが、寸前のところで引っ込める。
「貴殿は
「そんな……。どうか、今すぐ戻ることを許してはいただけないでしょうか」
そんなことを聞いてしまえば、ここでゆっくりとしている場合では無い。さらに情報が欲しいところだが、いち早く元の世界に戻り戦う準備を進めなければ……。
「……すまないがそれは許可できない」
そんな俺の考えは、龍神の一言によって否定された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます