第36話 幸せで甘い同居生活
「これがわたし達の新しいお家……!」
「ふふっ、おしゃれで素敵な家になったね」
「リュード様のセンスが光ってますね!」
店の移転をすると決めてからしばらくの時が経ったある日、わたしは滝のすぐ近くに建てられた、少し小さめの家を見て、思わず両手を上げて喜んだ。
――あれから、ロイ様の妹様のドレスを無事に仕立てたわたしは、ロイ様にそれを渡すと、大層気に入ってもらえた。それから間も無く、結婚式を幸せな気持ちで、素直に両親に感謝が言えたという、妹様からの感謝の言葉をもらえた。
この功績のおかげで、ロイ様がわたしを認めてくれた。実力を買われて、レイラ様の所で働かないかと誘われて、お断りするのに大変だったけどね。
なんにせよ、ロイ様にお願いして、新しい地にも定期的に裁縫の道具や材料が届くようにしてくれたの。しかも家もかなり速いスピードで建ててくれて……ロイ様や職人さんには感謝だよ。あと、貯金しておいてよかった。
「建て終わった後に聞いてなんですけど……この家にリュード様って入れますよね? これで滝から離れすぎて入れないーなんて笑えませんよ?」
「大丈夫、その辺はしっかり計算して建ててもらったよ。安全性やその他諸々も完璧さ」
「さすがリュード様です! 早速中を見てみましょう!」
リュード様と一緒に家の中に入る。最初に出迎えてくれたのはリビングだ。全体的に明るい色合いで揃えられていて、とても温かみのある印象だ。暖炉もあるから、寒い時期もこれで安心ね。
次にキッチン。新居祝いにボニーさんから貰ったピカピカの食器に、レイラ様とエレノア様から貰った調理器具が存在感を放っている。
改めて思うと、家族三代揃って料理関連のものをくれる辺り、流石親子って感じがする。
「リュード様の体って魔力体だって言ってましたけど、ごはんは普通に食べますよね」
「ああ。前も言った通り、食事で微量の魔力を回復できるから、気が向いた時は食事していたんだ。あまりにも少量だから、途中から食べなくなったけどね。だから、セレーナとデートをした時の食事は、本当に久しぶりだったんだ」
「そうだったんですね……これからは毎日おいしいものを作ってあげますね!」
「ふふっ、ありがとう。それじゃ次の部屋を見に行こうか」
キッチンを出て短い廊下を歩いた先にある部屋に入ると、大きめのベッドが一つ置かれた部屋が、わたし達を出迎えてくれた。見ての通り、ここはわたし達の寝室だ。
「……当たり前ですけど、ダブルベッドだから大きいですね」
「そうかい? ベッドなんていつ見たか覚えてないくらいだから、イマイチよくわからないな。あはは」
「あっ……ご、ごめんなさい」
「冗談だから気にしないでくれ」
「でも……」
「全くセレーナは……ほら、こっちおいで」
「ひゃんっ」
顔を俯かせていると、リュード様に手を引っ張られて、そのまま二人でベッドに倒れこんだ。
す、すごい……新しいベッドってこんなにフカフカなんだ! わたし、フカフカしたものが好きだから、こういうのは凄く気持ちいい。
「ああ、ベッドってこんな感じだったな。なにもかもが懐かしい」
「気持ちいいですよね。これからは毎日ここで寝られますよ」
「そうだね。気持ちいいベッドで、愛らしいセレーナの寝顔を見れるなんて、最高の贅沢だ」
「そ、そんなの見てないでちゃんと寝てください!」
「そうしたいのは山々だけど、この魔力体は睡眠が必要ないのさ。ほら、セレーナが夜中に滝に来ても、僕はずっと起きていただろう」
確かに……リュード様がいない隙を見計らって滝に行っても、必ずリュード様がいた時は、本当に驚いたよ。まだ長い時は経ってないはずなのに、凄く昔の事に感じる。
「それに、誰かが滝に来たら止めないといけないからね」
「では、わたしも起きてます! それで、来てしまった人を一緒に助けます! それと、来なかった時はリュード様の綺麗な顔をジッと見つめ返します!」
「……そ、そうやって急に褒めてくるのは卑怯じゃないか?」
リュード様は頬を赤らめながら、わたしに背中を向けた。
前々から少し思ってたけど、リュード様ってわたしを褒めるのには抵抗がない割に、褒められるとすぐに照れてる気がする。可愛い。
「照れてるリュード様、ギャップがあって可愛いですっ」
「~~~~っ。そんな悪い事を言う口はこの口か!」
「んにゅ~!!」
わたしの方に向き直してくれたリュード様は、わたしの唇を指でムニュムニュしてきた。声も表情も怒ってる感じがしないからか、自然と笑みが零れちゃう。
「ふっ……うふふっ……」
「あははははっ!」
「もう、リュード様ってば……ふふふっ……!」
気づいた時には互いに笑いながら、わたし達はおでこをコツンとぶつけた。
これから待っている、リュード様との平和で幸せな時間に期待を膨らませて――
****
同日の夜、お風呂を済ませたわたしは、脱衣所に置いてある鏡を見ながら、表情を強張らせていた。
だって、今日はリュード様と一緒に暮らすようになっての初めての夜だ。結婚してない――というより、リュード様の都合で結婚できないとはいえ、わたしだってそういうのに緊張するし、期待もする。
「髪も体も五回は洗ったし、臭い所も……くんくん……うん、大丈夫」
念入りにチェックを終わらせてから、わたしは寝室に向かうと、そこにはベッドに腰を下ろすリュード様の姿があった。
……補足しておくと、凄く沈んだ表情をしてるけど。
「やあ、おかえり……」
「もう、まだ落ち込んでるんですか? 元気出してください!」
「しかしだな……僕は自分の家事能力がこんなにも低いと思ってなくてね……情けない」
わたしが隣に座っても、リュード様の表情は脹れない。
リュード様が落ち込んでいる原因は、先程夕食の準備していた時に起こった事が原因だ。わたしが料理をする中で、リュード様も一緒に作ると言ってくれたんだけど……お鍋を焦がしちゃったり、包丁で指を切っちゃったり、お皿を割っちゃったりと、散々な結果に終わってしまったの。
別にわたしは全然怒ってないから、気にしなくてもいいのにな。元王族のリュード様が、自ら家事や料理をする事なんてしなかっただろうし、お城を離れてからは、ずっと滝にいたんだし。
「最初から出来る人なんていませんよ。練習すれば、いつか出来るようになります」
「……そうだね。セレーナ、僕は決めたよ。僕は家事の練習をする。不幸中の幸いだが、時間はたっぷりあるからね。いつかちゃんと鍋の中身をかきまぜれるようになるし、野菜もちゃんと切れるようになる。皿の犠牲も極力減らす」
「では、一緒に練習しましょう。そういうのも、一緒にやればきっと楽しいです!」
「セレーナ……ありがとう」
やっと顔を上げてくれたリュード様は、わたしの手にそっと手を重ねる。そしてそのまま、わたし達は唇も重ねて……ベッドに倒れこんだ。
「セレーナ、明日の仕事の予定は?」
「えっと……依頼が入ってる品の作業を進めるだけなので……何時に起きなきゃいけないとかないです」
「そうか。それなら……時間を気にせずゆっくりできるね」
「そうですね。その……優しくしてくださいね」
リュード様の言いたい事を察したわたしは、体中に熱を感じながら唇を重ねる。
……今日は、一生忘れられない夜になった。リュード様の愛情をたっぷり感じられて……わたし、幸せです……えへへっ。
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