第31話 断罪
さっきの部屋に戻る最中に、わたしはなんとか涙を止めて大広間へと帰ってくると、それから間もなく新郎新婦は入場してきた。
「お集りの皆さま、本日はお忙しい中お越しくださり、誠にありがとうございます。これより、フィリップ・ドホナーニと、サンドラ・カーラーによる、神前の義を執り行います」
神前の儀……それは、新郎新婦が、神父の前で愛を誓いあう、大切な儀式だ。
わたしもいつかはリュード様とする事になるかもしれないし……ちゃんと見ておいて損はないよね? な、なんて……そんな事ないよね。
「ではこれより儀式を始めます。まず新郎新婦に問う。そなた達は健やかなる時も病める時も、互いを愛する事を誓いますか?」
「はい、誓いません。なぜなら俺は、結婚した後はサンドラを地下牢に閉じ込めて自分の好きなようにするからな!」
「誓いません。こいつに良いようにしっぽを振ってれば、そのうち隙を見せるだろうから、そこを突いて王家ぶんどる気なんで」
普通とはかけ離れて……いや、かけ離れすぎな発言に、場内は異様な静まり返り方をした。
それもそのはずだ。だって、本当なら愛を誓う場面なのに、誓わずに自分の欲求をさらけ出すなんて……!
「お、俺はなんて事を!? いや、俺は決してそんな事を思ってない!」
「なに言ってるのよ!お気に入りの少女を監禁しておもちゃにしてるの、私知ってるのよ!」
「なんだと!? お前だって、うちの城の金を使って欲しい物を買いまくってるそうじゃないか!」
「当然じゃない。王族になる人間たるもの、欲しいものは買って、美しく着飾るのよ」
「この……開き直りやがって! まあいい、それは後回しだ! 王族をってどういう事なんだ!」
「ほら。あんた超馬鹿じゃない? そんな馬鹿が国を治められるわけないから、代わりに治めてあげようと思って。だから結婚して、内側から崩すつもりだったんだけど。まあ……なぜか口走っちゃって、失敗に終わったけど」
本当なら愛を誓いあう場なのに、前代未聞の口論を始めるフィリップ様とサンドラ様。その異様な光景に、静まり返った会場も異変に気付き始めたようで、ザワザワとし始めた。
あっ……も、もしかして……わたしのちょっぴり幸せで素直になる魔法の効果で、内に秘めていた野望を素直に話しちゃったなんて事ないよね?
「フィリップ、貴様何を考えている! ワシの顔に泥を塗るつもりか!!」
「父上!? いえ、これは違うのです! なぜか正直に話したくなってしまって……! ぐほぉ!?」
「サンドラ……あなたって人は……どうして本当の事を言ってしまったの!?」
「お母様、申し訳ございません! こんな馬鹿男と愛を誓いあうのなんて馬鹿馬鹿しいと思ったら……気づいた時には……!」
フィリップ様の父である現国王様と、サンドラ様のお母様がやってくると、凄い形相で怒鳴り散らした。ついでに言うと、フィリップ様が国王様に殴られてた。
そんな中、先程わたしに声をかけてきた殿方が、
「やはりそうだったのか!!」
と、大きな声を出しながら、フィリップ様達を指差した。
「あの噂は本当だったんだな! いたいけな少女を幽閉し、王家や家臣ぐるみで虐げていたと! そして、カーラー家は怪しい連中と共に王家を牛耳ろうとしているというのも!」
「なっ……!? なぜそれを知っている! はっ……また俺は……!」
「ええい、この馬鹿息子め! このパーティーは中止だ! カーラー、お前の所との婚約は破棄させてもらう! それと、王家に逆らった罪も調べさせてもらう!」
「そんなのこっちから願い下げですわ!」
国王様とサンドラ様のお母様は、互いの恨みや憎しみをぶつけ合いながら、それぞれの子供の手を引っ張った。
「くそがぁ~!! どいつもこいつもふざけやがって……!!」
「計画の全てが破綻してしまった……どうしてこんな……そういえば、あの虫が作った服は、サービスで幸せで素直になる魔法がかけられているって話があったような……?」
「そうか! このタキシードを着たせいでおかしくなったのか!」
連れていかれる途中、フィリップ様とサンドラ様の視線が、わたしへと一斉に向いた。それに釣られるように、参加者の人達の視線もわたしに向いた。
「ええ!? わ、わたしはただ幸せで素直になれるようにって……」
「黙れ! てめえのせいで俺は終わりじゃねえか! 絶対に許さねえ! あの闇魔法の呪い以上のものをかけてやる!! 苦しんで死にさらせ!!!」
フィリップ様は国王様の手を振りほどくと、魔方陣を展開させながら、わたしに一直線に走ってきた。
当然の話だが、わたしには対抗する魔法も、身体能力もない。ただ、怖くて目を瞑る事しか出来なかった。
「……??」
……いくら待っても、わたしの体はどこも痛くない。恐る恐る目を開けると、わたしとフィリップ様の間に、淡く輝く白い壁が出現し、フィリップ様から守ってくれていた。
「これって……もしかして?」
自分の左手に目をやると、そこには同じ様に淡く輝く指輪があった。
やっぱり、これがリュード様が言っていた、わたしを守るお守りの力だ。リュード様が、わたしを守ってくれたんだ……!
「貴様、まだ恥の上塗りをするつもりか! 衛兵、その大馬鹿者を捉えよ!」
「な、何をする! 放せ、俺を誰だと思っている!!」
沢山の人が見ている中、フィリップ様は衛兵達に取り囲まれて、床に抑えつけられた。その傍らで、サンドラ様も衛兵に囲まれていた。
「もう勘弁ならん! フィリップ、サンドラ! 貴様らは国外の辺境の地へ追放する! そしてカーラー家からは爵位を剥奪する!」
「なっ!? 父上、考え直してください!」
「そうです! 私達、反省しておりますゆえ!」
「どの口が反省などと戯言を言っている! これは決定事項だ! 衛兵よ、この大馬鹿者達を地下牢に連れていけ!」
国王様の号令に従って、衛兵達がフィリップ様とサンドラ様を連れていこうとするが、当然のように二人は抵抗する。しかし、まさに多勢に無勢……逃げる事は叶わなかった。
「い、嫌です! お母様、助けてください!」
「このっ……あんたのせいで全てを無くしたじゃないの! もうあんたなんか娘じゃない! 二度と帰ってくるな!」
「そ、そんな……そもそもお母様が指示した事じゃないの!」
「じ、実の親を貶めるような事まで言うなんて……!!」
「それが事実だわ!」
……なんであの人達は、親子で罵り合っているんだろう。家族なんだから、ボニーさん達みたいに仲良くできないのかな。見てて悲しくなってきた。
「ふざけるな、俺はこの国の王子だぞ! 放せ無礼者!! くっそがぁぁぁぁ!! セレーナ!! 貴様だけは絶対に許さん!! 絶対に地獄に送ってやるからなぁぁぁぁ!!!!」
「うるさいわよこの馬鹿! お前みたいな馬鹿に関わったのが、そもそもの運の尽きだわ!!」
「な、なんだとこの性悪女が! 貴様のワガママにどれほど――」
最後の最後まで醜い言い争いをしながら、フィリップ様とサンドラ様は外に連れていかれた。
なんとも後味が悪いパーティーだったけど……とりあえずはなんとか乗り切ったって事でいいのかな……。
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