第30話 いざパーティーへ
ついに迎えてしまった、フィリップ様とサンドラ様の結婚パーティーの当日。わたしは小屋で身支度を整えながら、迎えの人が来るのを待っていた。
迎えが来るなんて意外かもしれないけど、基本的に王族のパーティーに呼ばれるのは、貴族や王族に所縁のある人だ。だから、大体が馬車に乗ってくる。
そんな中、わたしだけが徒歩で来たら目立ってしまうし、なんであんな人間を呼んだんだって、フィリップ様が問い詰められる可能性があるから、こうしたんだと思っている。
「セレーナちゃん、本当に気をつけて行くのよ。変な事をされそうになったら、すぐに逃げて」
「大丈夫ですよ。表舞台ですから、フィリップ様も変な事は出来ないでしょうし」
「あの馬鹿夫婦が、そんな事に気付ける知能があるようには見えないわねぇ」
さ、さすがにそれは言い過ぎな気がする。ボニーさん、相当フィリップ様やサンドラ様の事が嫌いなんだなぁ。
「それに比べて、セレーナちゃんは賢いから大丈夫よね。彼から貰ったお守りもある事だし」
「そうですね」
わたしは短く答えながら、自分の左手を上げる。その薬指には、髪色と同じ純白の宝石がキラリと光る指輪があった。
これは、数日前にリュード様から頂いたものだ。以前言っていた、わたしを守る為のお守りというやつだ。
リュード様曰く、わたしが危険な目にあったら、この指輪が助けてくれるとの事だ。どういう風になるのかはわからないけど、リュード様が守ってくれていると思うだけで、とても心強い。
ただ、左手の薬指じゃないと意味が無いと言っていた理由がよくわからない。指ならどこに付けても一緒だと思う。
そもそも、男性からもらった指輪を左手の薬指って……まさか、そんなわけないよね。きっとわたしがリュード様の事が好きだから、変に意識しすぎてるだけに決まっている。なにかわたしが知らない、魔法的な意味があるって事だろう。
「ごめんくださいませ。フィリップ様の使いでございます」
「あ、はーい」
玄関を叩く音と共に、とても落ち着いた男性の声が聞こえてきた。その方を出迎える為に玄関を開けると、そこにはとてもダンディな男の人が立っていた。
この人、わたしがいた頃にお城で見かけた事が無い。わたしがいなくなった後からお城に勤め始めたのかな?
「お迎えにあがりました」
「ありがとうございます。じゃあボニーさん、行ってきます」
「気をつけてねぇ」
心配そうに眉尻を下げるボニーさんに見送られながら、わたしは馬車に乗り込むと、すぐに馬車はお城に向かって動き出した。
当然の話だけど、お城に行くのは、追放されてから初めてだ。正直全く気乗りしないけど、わたしには行くしか道はない。
「リュード様……」
馬車に揺られながら、わたしは指輪に手を重ねる。
本当はリュード様の手を煩わせる事なく、わたしだけの力で解決しないといけないのに……まだまだわたしは半人前だなと痛感させられる。
……ううん、落ち込んでても仕方ないよね。なんとか乗り越えたら、もっと努力して成長すればいいよね。
****
馬車に揺られる事数時間。わたしは何事もなく、お城に到着する事ができた。
……当たり前だけど、わたしがいた頃から何も変わってないな。見てるだけで、あの頃のつらい思い出が蘇ってくる。
「どうかされましたか?」
「いえ……行きましょう」
ここまで連れてきてくれた男性に連れられて、お城の大広間へと入る。そこには、沢山の貴族や王族に縁のある人達が、楽しそうに談笑していた。
「時間になったら、新郎と新婦が入場いたしますので、それまでお食事やご歓談などをしてお楽しみくださいませ」
「あ、ありがとうございます」
深々とお辞儀して去っていく男性を見送ったわたしは、その場で立ち尽くしていた。食欲なんか無いし、おしゃべりする相手も当然いない。
「邪魔にならないように、隅っこにいようっと……」
「そこの美しい方、見かけない顔ですね」
隅っこに移動しようとした矢先、まさに貴族と呼んで差し支えないくらいキラキラした男性が、わたしに声をかけてきた。
「美しい方、良かったら私と楽しい語らいをしないか?」
「え、えっと……困ります」
わたしは咄嗟に両手を胸の前に持ってきて、彼と距離を取った。だって、名前も知らない人にいきなり声をかけられて、しかも語らおうなんて言われても、どうしたらいいかわからない。
「……その指輪……ちっ、つまらん」
「…………」
わたしの指輪に気づいたのか、さっきまでにこやかだった男性は、眉間にシワを寄せながら、舌打ちをして去っていった。
あー怖かった……思わぬ形でリュード様が守ってくれたなぁ。もしかして、リュード様はこうなる事を予見して、指輪型のお守りを、左手の薬指にはめるように言ったのかな?
「皆さま、お待たせいたしました。新郎新婦の入場です!」
司会の方の言葉一つで、わたしの体は、凍りついたように固まった。そして、その視線の先には、タキシードをバッチリ着こなしたフィリップ様と、ウェディングドレスを着込んだサンドラ様の姿あった。
って、あれ? わたしの作った奴じゃない。この後で着るのかな?
「皆の衆。今日というめでたい日に、こうして共にパーティーを出来る事、とても嬉しくおもうぞ。そうだ、今回のゲストの中に、俺達の服を作った職人がいる。彼女だ!」
フィリップ様が指差してしまったせいで、周りにの人達の注目が、一歳に集まってしまった。
こんなに注目される事なんて無いから、どうすればいいかわからない。
「実は知人でな。みすぼらしい見た目だが、腕は確かだ。本当にありがとうセレーナ!」
「あ、はい……」
大げさに身振り手振りをしながら、リュード様はわたしの元に来ると、手をを取りながら、
「余計な発言はするなゴミムシが。お前は服に何かあった時に動けるようにしておけばいいんだ」
と、小声で言い残して離れていった。
わたしだって放したくないし、関わりたくないけど、ドレスには罪は無いんだから、職人として見てるようにしておかないと。
「ではサンドラ、何か言う事はあるか?」
「特にないわ。こんなパーティー、もっと派手なのが良かったわ」
「おいおい、今更ケチつけないでくれ。とにかく、パーティーは始まりだ! 皆大いに楽しんでくれ」
こうして結婚パーティーが始まった。流れとしては、さっきの新郎新婦の挨拶、神前の誓いの義、パーティー開始って感じだったはず。
さて、始まる前に服が大丈夫そうかの確認をしたいんだよね。関係者に言えば通してくれるかな?
「すみません、新郎新婦の服の制作をしたものです。最終チェックをしたいので、案内してもらうのは可能でしょうか?」
「はい。ですが、不審物を仕掛けないように、見張りがつきますがよろしいでしょうか?」
「はい」
許可をもらったわたしは、パーティーの責任者の方に化粧室へと案内してもらった。そこには、フィリップ様とサンドラ様が、偉そうにふんぞり返りながら、話している姿だった。
こんな姿を国民が見たら、どんな気持ちになるんだろう……?
「あ? 虫かと思ったらお前か……」
「便所バエは素直に便所に帰りなさいな」
「タキシードとドレスの最終チェックに伺いました」
「おお、それは良い心掛けだな。小鳥ぐらいに昇格してやろう」
「なに言っているの。いいところアリよ」
くだらない会話に付き合ってる暇はないわたしは、クローゼットに入っている服の確認を行う。
うん、どこか壊れたり、ほつれたりとか……そういう問題は無さそう。魔法の方も……大丈夫。
「それにしても。存在が面白ければ、魔法も面白いんだなお前」
「え?」
「服にかけられていた魔法、少し笑顔で幸せになる魔法って……しょぼすぎんだろ! 腹抱えて笑ったぞ!」
「……職人である以上、お客様に素直に幸せになってほしいので、わたしは自分の魔法に誇りを持ってますので」
「くすくす……本当に笑っちゃうわ! やっぱりこいつ、城に戻しておもちゃにした方が面白いんじゃない?」
「服も職人と豪語するわりに、平凡の域も出ないしな。それでも腕の立つ中で一番御しやすかったんだから仕方ない。またうちに来ないか?」
「……失礼します!!」
まるで飛び出すような勢いで、わたしは部屋を後にした。
あそこまで変わってないと、もはや懐かしさすら感じてしまうのは何故だろう? 何故……涙が零れるんだろう。
せっかく頑張っても、酷い言われ方しかされないから?
作った渾身のドレスやタキシードをあまり褒めてくれないから?
今ではお仕事で使う半身のような魔法を馬鹿にされたから?
他にも理由はあるとおもう。それが積み重なって……わたしは悔しくて泣いた。
悲しくて、嬉しくて泣くのはよくある事だけど、悔しくて泣くなんて初めてだ。悔しいけど、ここで終わってたまるもんか。このパーティーが終わったら、もっと凄いの作れる職人になるんだから!
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