第22話 つい本音が!?
「辞めるって……!?」
レイラ様とエレノア様の言葉は、今のわたしにはあまりにも唐突過ぎた。
実力を見せるって、具体的にどうすればいいの? 仮に認められなかったら、わたしはどうなるの? ここを追い出されたら、またわたしは行く所が無くなってしまうし、このお店を運営する人がいなくなれば、お店を閉める事になる。
それに、わたしはリュード様の為にも、一人前にならないといけないのに……!
「別に無責任に追い出すつもりは無いわ。ギルドに連絡して、新しい就職先や家はこちらで探すし、店の事に関しても何とかする」
「…………」
「作ってもらいたいものだけど、私の友人が最近子供を産んだの。それの服を作ってもらいたい」
「要望はこの紙にまとめてあるから、じっくり目を通しておいてね」
エレノア様が差し出してきた紙を、震える手で受け取る。紙には着る人間の特徴や、納品までの日時、こうしてほしいという要望が、簡潔にまとめてあった。
「それじゃ、私達は失礼します。品が出来た際には、ここに連絡をください」
「それじゃあね!」
「あ、ちょっとお待ち! ごめんねぇセレーナちゃん。あたし、二人に話をつけてくるわ。あんまり深く考えこんじゃ駄目よ。あたしはあなたの腕と人柄を見込んで店を託したのだから」
わたしを励ます言葉を残して、ボニーさんは帰っていった二人を追って家を出た。残されたわたしは……力なく椅子に座る事しか出来なかった。
相手は一流の職人だ。そんな二人を満足させて、お店を任せてもらえるような品が、今のわたしに作れるとは思えない。
「……わたし、どうすれば……リュード様……」
すがるような思いで、わたしは通話石を叩く。すると、いつもの様に石からリュード様の声が聞こえてきた。
『こんにちは。こんな早い時間に連絡してくるなんて、随分珍しいね』
「こんにちは……その、わたし……」
『……ふむ、どうやら何かあったようだね。僕に話してごらん?』
「え、なんでわかるんですか?」
『大切なセレーナの事なら、何でもお見通しさ』
リュード様の言葉を聞いて、わたしは思わず顔を一気に熱くさせてしまった。だって、大切だなんて言われたら……そんなの、変な意味で捉えちゃう!
え、もしかしてわたしの考え方が変? ただの友人としての大切なの? それとも、異性という意味で大切なの? どっち!?
って、今はそんな事はどうでもいいよね。通話石の時間は五分。もたもたしていると、話しきる前に終わっちゃう――そう思ったわたしは、先程あった事を端的に話した。
『ふむ、そんな事があったのか。それは随分と大変だね、あはは』
「な、なんで笑ってるんですか。わたしは真剣に悩んでるんですよ!」
『だって、僕はセレーナの事を信じてるから、全く困難には聞こえないのさ』
ふふっと笑うリュード様の言葉に、わたしは驚きと嬉しさが入り混じり、真っ赤になった顔を手で覆い隠す事しか出来なかった。
『以前君が話していた事を思い出してごらん。どうして裁縫が好きなのか、どうして裁縫をしているのかを話した時の事を』
「えっと、お裁縫をするのが好きで……喜ぶ顔を見るのが好きで……」
『そう、それが大事だ。君のその真っ直ぐな想いを詰め込めば、きっと認めてもらえるさ。だってそれは、職人として……人として大切なものだからね』
リュード様がそう言うと、コツンッという音が聞こえてきた。きっとリュード様が自分の通話石を叩いて、音を出したのだろう。
あ……これ、わたしもした方が良いかな? なら……わたしもコンっと……。
『ふふ、僕の意図を汲んでくれてありがとう』
「その、今のは?」
『まあハイタッチの代わりという事で一つ』
きっと通話石の向こうでは、ニヘラと笑うリュード様が、楽しそうに通話石を小突いているのだろう。そう思うと、なんだか可愛いく思える。
「リュード様……ありがとうございます。わたし、頑張ってみます!」
『ああ、その意気だ。君なら出来る。何故なら。僕が信じた素晴らしい女性だからだ』
「リュード様は本当に優しい方ですね……本当好き……」
『……え?』
「…………はっ!?」
話を聞いてもらえて心が軽くなったわたしは、思わず心にあった事を喋ってしまった。
完全にやらかした。早く釈明をしないと!
「あ、えっと! 今のは人間的に好きって事で! 決して変な意味じゃ……あれ?」
必死に言い訳をしようとしていたら、いつの間にか通話石の光が消えてしまっていた。当然、リュード様の声も全く聞こえない。
もしかして……あ、もう五分過ぎてたの!? 最悪すぎる! 絶対今の発言で変な風に思われちゃったよ!
「は、恥ずかしすぎる……明日ちゃんと説明しないと……!」
「やれやれ、足が速くて追いつくのに一苦労だよ……おやセレーナちゃん。どうかしたのかい?」
「い、いえ! あの、ボニーさん! わたし、頑張りますから!」
「ほう、随分と威勢が良くなったねぇ。もしや、彼と話をしてたのかしら?」
「むぐっ……!」
あまりにも図星すぎて、変な声を出す事しかできなかったわたしを見ながら、ボニーさんは楽しそうに笑う。
「丁度良いわ。あなたに新しい事を教えようかしら?」
「新しい事?」
「そう。今まであなたは作るとき、言われた通りの物を作ってたわよね? そこに魔法が少しトッピングされて、幸せな服が出来ると」
「そうですね」
「でも、それだけじゃ駄目。あたし達は、あくまで依頼人の満足度が百パーセントとして、あたし達は百二十パーセント……いえ、もっと上を目指すべきなの」
いつにもまして真剣なボニーさんは、わたしの頭をワシャワシャと撫でながら、更に言葉を続ける。
「例えばだけど、帽子に通気性や耐久性、見た目の良さを全て乗せるの。そうすれば、依頼主はニッコニコだろうねぇ」
「なるほど……でもそれだと、予算を超えちゃったりしませんか?」
「そこはプロの手腕を見せる時よ。絶対に費用は超えず、どうやっね満足度の高いものを出すか……これはあくまでアタシのポリシーってだけなんだけどねぇ」
「いえ、素晴らしい良い考え方だと思います!」
今出来るもので、より満足してもらえる服作り……相手は乳児用の服。確か紙には、色はピンクを基調にってあったから、多分女の子だよね。
よし、それじゃこの女の子が快適で、とても楽しくなれるお洋服を作ってみよう! それに加えて、可愛いって思えるデザインも採用しよう! 大丈夫、わたしはまだまだ半人前だけど、成長はしてるはず! その成長を、ここで発揮させる!
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