第15話 家族の危機
「ぼ、ボニーさん!? どうしたんですか!?」
わたしはボニーさんの元に駆けよると、声をかけながら揺すってみた。しかし、ボニーさんから何の返事も返ってこない。
ど、どうしよう……! こんなに血が出て……ボニーさん、このままじゃ死んじゃうよ!!
『セレーナ! どうかしたのか!?』
「りゅ、リュード様……! ボニーさんが……!」
『これは……!』
わたしの悲鳴を聞いて来てくれたんだろう。リュード様は血相を変えて家の中に飛び込んできた。
「やだ、ボニーさん……死んじゃやだ……!」
『落ち着くんだ。大丈夫、まだ息はある……出血しているが、そこまで出血量は多くない。倒れている体勢からして、転んだ拍子に頭を打って、気を失ったんだろう』
「ほ、本当ですか……!?」
『とはいえ、お歳を召しているし、このまま放っておくのは危ない。セレーナ、落ち着いて聞いて。僕は残りの魔力を全部使って、彼女の治療にあたる。その間、君は町に戻って、医者を呼んでくるんだ』
とても真剣なまなざしを向けるリュード様は、驚くほど落ち着いていた。それを見ていたら、不思議と何とかなると思えた。
『この分身は、恐らくセレーナが帰ってくる前に、魔力が枯渇して消えてしまうだろう。本体があの滝を離れられない以上、君が一人で何とかする必要がある。けど大丈夫、医者が来れば、どうすればいいか助言してくれるはずだ』
「わ、わたしに出来るでしょうか」
『ああ、僕が保証する。なによりも、彼女を救いたいだろう?』
リュード様と共に、倒れているボニーさんに目を向ける。
素性不明のわたしを受け入れてくれて、ずっとお世話をしてくれて、本当の家族のように接してくれたボニーさん。今こそ、その多大な恩を返す時。今頑張らないで、いつ頑張るの!?
「……はい! リュード様、ボニーさんをお願いします!」
『任せろ!』
リュード様にボニーさんを一旦任せたわたしは、町に向かって走り出す。町にいるお医者様は、何度かお世話になってるから、居場所はわかる。
「はぁ! はぁ……! ひゃう!?」
一日遊び倒していたせいで、思った以上に息が切れるのが早いし、足も重いせいか、わたしはその場で転んでしまった。
せっかく用意した服も、借りた帽子も、ポンチョも落ちて汚れてしまった。でも、そんなの気にしていられない。今は一刻も早くお医者様を呼んできて、ボニーさんを見てもらわないと!
「ぜぇ……ぜぇ……つ、着いた……」
町の中も全速力で走り、なんとか病院にたどり着いた。しかし、もう暗くなっているという事もあって、病院は閉まっていた。
「すみませーん! 誰かいませんかー!!」
……返事は無い。でも、ここで諦めて帰るわけにはいかない。もっと大声を出すしかない!
「すみませぇぇぇぇん!!!!」
「なんだ騒々しい……せっかく気分良く酒を飲んでたっていうのに。って、セレーナじゃないか」
喉を潰す勢いで大声を出しながら、病院の扉を叩きまくると、中からボサボサの頭をかきながら、一人の男性が出てきた。
彼はマルティン様。見た目はヨレヨレの白衣に、ボサボサの髪と無精髭で、あまりお医者様に見えない風貌だ。話し方もお医者様らしくないし、お酒が大好きという一面もあるけど、医療の腕はピカイチで、町の人に信頼されている人だ。
「そんな血相を変えてどうした?」
「ぼ、ボニーさんが……家で血を流して倒れてて……!」
「あん? ボニーの婆さんが? そいつは一大事じゃねえか。診察時間外でかったりぃけど、ボニーの婆さんには昔世話になったしな。ちょっと待ってろ」
「あ、ありがとうございます!」
明らかに表情が真面目なものに変わったマルティン様は、わたしの前から一旦離れる。
一体どこに行ったんだろう? 診察道具でも取りに行ったのだろうか――そんな事を思っていると、マルティン様は真っ黒な馬に乗って戻ってきた。
「え、その馬は?」
「うちで飼ってる。職業柄、移動の時間を省ける方が都合がいいからな。ほら乗りな!」
「でも、わたし馬に乗った事なんてないです!」
「それなら手を貸してやっから、とりあえず乗れ!」
やや乱暴ではあったけど、わたしをウマに乗せたマルティン様は、軽やかに馬に乗った。
「思ってる以上に速いから、舌噛むんじゃねーぞ。あとちゃんと捕まってろ」
「わ、わわっ!?」
言われた通りマルティン様にしがみついたのを合図にするように、馬は小屋を目指して走りだした。そのスピードは本当に速くて、振り落とされそうになった。
す、凄い……! 馬ってこんなに速く走れるんだ! フィリップ様が乗っているのを見させられた事はあるけど、その時はゆったり歩いてたから、全然知らなかった!
「ほれ、着いたぞ」
「も、もうですか?」
「馬の脚力を舐めるなってやつだ。それで、ボニーの婆さんはどこだ?」
「こっちです!」
マルティン様と一緒に小屋の中に入ると、さっきまでと同じように、ボニーさんは倒れたままだった。
「おい婆さん、大丈夫か? 息は……してるな。ちょっくら診てくるから、セレーナはここで待ってろ」
「はい。よろしくお願いします」
マルティン様は、ボニーさんをおぶって寝室の中に消えていった。残されたわたしにする事など無い。仕方なく、わたしは椅子に腰を下ろした。
「大丈夫かな……そうだ、リュード様は……」
部屋を見渡してみても、リュード様の姿は無かった。小さいから見落としてるのかと思ったけど、いくら探しても見つからない。
リュード様の言っていた通り、魔力を使い果たして消えてしまったんだろう。そこまでして、ボニーさんに回復魔法を使ってくれたリュード様には、感謝しかない。
「うぅ……お願いします神様……どうかボニーさんを……わたしの家族を助けてください……!」
わたしは手を合わせながら、神様に強く祈り続けた。全てはわたしの大切な家族が助かってほしいという願いの為に。
――それからどれだけの時が過ぎただろう。ずっと座って祈っていたわたしの元に、マルティン様が帰ってきた。
「マルティン様! ボニーさんは……!?」
必死なわたしとは対照的に、マルティン様の態度は全く違っていた。よく言えば冷静、悪く言えば適当な感じで、煙草に火をつけている。
「とりあえず命に別状はねえ。ケガも誰かが先に治療したのか、俺がする事があまり無かったくらいだ」
「そ、そうですか。よかった……」
「ただ……良い機会だから言っておく。もうボニーの婆さんは仕事は出来ねえ」
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