第13話 見せたかった景色
昼食を終えたわたしとリュード様は、再び町の中をゆっくりと歩いて行く。行き先は、前から一緒に行ってみたかった雑貨屋さんだ。
『ザッカヤ……言葉だけ聞いた限りではイメージ出来なかったけど、色々なものを置いているんだね』
「そうなんです。リュード様は、雑貨屋さんは初めてですか?」
『まあね。僕のいたじだ――ごほん、地元ではこういった類の店は無くてね。全く、今日一日だけで興味深いものに溢れていて、嬉しい悲鳴だよ』
雑貨屋さんって、他の町には無いんだろうか? わたしの知識では、それを知る事は出来ないけど、リュード様が楽しそうだからそれでいいよね。
『雰囲気もとても落ち着いていて良い店だ。セレーナは良い店を知っているんだね』
「ありがとうございます。早速中に行きましょう!」
リュード様と一緒に中に入ると、様々な雑貨達が、わたし達を出迎えてくれた。数が多くて目移りしちゃう。
『コップや皿や小物入れ……よく出来ているのに、随分と手ごろな価格だ』
「あ、あのー? その辺はかなりお高いものですよ?」
『おや、そうなのか?』
「はい。そっちはお金持ちの人とか、プレゼント用に買う欄ですね」
こっちのお皿やコップは、銅貨一枚とかで買えるのに対して、リュード様が見ていたのは、金貨が三枚とか必要な商品だ。
あんな高い商品が手ごろ価格って……リュード様の金銭感覚ってユニークなのね。
『この時計も良い感じだ。ユニークでとても良い』
「そ、そうですか」
リュード様が見ていたのは、威嚇しているように立ち上がるクマのお腹が時計になっているものだった。
う、うーん……この時計、どこに置くのを想定して作られたんだろう。クマのデザインもちょっと怖いし……。リュード様はセンスもユニークなのね。
『おや、これは……』
「どうかしましたか?」
『このポンチョ、セレーナに似合いそうと思ってね』
リュード様が差し出したものは、薄いピンク色のポンチョだった。この雑貨屋さんは、数は少ないけど、服も扱っているようだ。
「こ、これは……!」
触った感じ、凄くフカフカで……ずっと触っていられるぅ……あふぅ……フカフカぁ~~~~……。
『おーい、セレーナ?』
「ふにぇへへ……フカフカだぁ……はっ。すみません、ついフカフカの魔力にフカフカやられてました! わたしったら、ついフカフカして……恥ずかしい……フカフカァ〜」
ポンチョのフカフカに屈したわたしは、リュード様の前だというのに、だらしない顔で、だらしない声を出してしまった。よだれまで垂れかけたし……恥ずかしくてお嫁に行けないよ。
あ、別に誰もお嫁に貰ってくれるわけないし、関係ないか……。
「うん、これ気に入っちゃった。買ってきますね」
『ああ、わかった』
わたしはリュード様を置いて、手早く購入すると、ポンチョを持ってリュード様の元へと戻った。
「戻りました! わたし、凄く気に入りました」
ニコニコしながら、わたしはポンチョを触る。このフワフワは、いくら触っても飽きる気配がない。
『……すまない、本当なら僕が買ってあげないといけないのに……不甲斐ない』
「いいんですよ。リュード様のおかげで、こんな可愛いポンチョに出会えたので!」
『セレーナ……うん、今日の事は、必ず別の事で返すからね』
そんな、別に気にしなくてもいいのに。むしろ、今日はわたしの為に、リュード様がわざわざ分身を作って来てくれてるんだから、お礼をするのはわたしだよ。
『さて、次はどこに向かうんだい?』
「うーん、午前中にそれなりにお店は回りましたし、雑貨屋さんも行ったし、サーカスはもう間に合わないだろうし……一応最後に行きたい所はあるんですけど、まだ時間が早いし……ごめんなさい、ちょっと思いつかないです」
我ながら情けない。あんなに偉そうに案内すると言っておきながら、もう行く所が尽きてしまうだなんて。
『それなら、さっき昼食を取った公園でのんびりしないか?』
「あ、いいですね。そうしましょう」
リュード様の助け舟に感謝しながら、わたしは先程も来た公園へとやってきた。もう少ししたら暗くなり始めるからか、さっきと比べて子供の数は少し減ってる気がする。
『ふぅ、一日でこんなに動いたのは久しぶりだ。とても充実した日だったよ。おっと、まだ終わってないのに、つい終わった気になってしまった。あはは』
「そうですね。わたしもこんなに動いて、楽しかった日は無いです」
『それならよかった。ところで、この後行きたい所ってどこなんだい?』
「それは……内緒です」
リュード様には驚いてもらいたいから、ここで明かす事はしない。まあ、全然興味が無くて、驚かない可能性も否定しきれないけど……。
『それは尚更楽しみだ。さっき時間が早いと言っていたけど、具体的には何時頃なんだい?』
「周りが暗くなってれば、いつでも大丈夫です」
『それなら、もう少し時間を潰さないといけないか。それじゃ、それまでまた僕の童話でもどうかな?』
「あ、是非! 今日はどんなお話ですか?」
『そうだね……それじゃ、悪い魔法使いの呪いを解こうとした、一国の王子の話をしようか』
****
『おや、いつの間にか随分と暗くなってしまったな』
リュード様の童話を夢中で聞いていたら、いつの間にか本当に暗くなっていた。さっきまで公園にいたと思っていた人達も、ほとんどいなくなっている。
「はぁ……リュード様の童話は本当に面白くて、時間を忘れてちゃいます」
『こんなのでよければ、いつでも話すよ』
「本当ですか!? それじゃ、次の話を――」
いや、ちょっと待ってわたし。リュード様の童話は、あくまで暗くなるまでの時間を過ごす為にしてもらった事だ。本来の目的を忘れていたら、本末転倒だ。
「こほん。名残惜しいですけど、童話はまた次の機会という事で……行きましょう」
『ああ。一体どこに連れていってくれるんだい?』
「時期にわかりますよ」
わたしはリュード様と手を繋ぎながら、とある場所を目指して歩いていく。暗くなった町を歩くのには慣れてなくて、ちょっと怖いけど……リュード様がいると思うと安心できる。
『町から離れているけど、こっちで合ってるのかい?』
「大丈夫ですよ」
少し不安そうにわたしを見るリュード様に答えながら、更に歩く事十分。わたし達は、町の外に出て丘の上に立った。
ここは、わたしがあの森から、初めてこの町に来た時に通った丘だ。そしてこの丘は、町を一望できる場所でもある。
『ここは……』
「わたしが初めてこの町を見た場所です」
丘から一望できる町並みは、明かりに照らされていて、とても幻想的な風景になっていた。そう、この風景を、リュード様に見せてあげたかったの。
『……綺麗な場所だね』
「ですよね。わたしも夜にここに来るのは初めてだったんですけど……本当に綺麗ですね……」
『そうだったんだね。とはいえ、セレーナの笑顔に比べたら、ここの夜景も裸足で逃げ出すだろうけど』
「な、なに言ってるんですかっ!?」
『素直に思った事を言っているだけだよ?』
「う~……わたしよりも、リュード様の笑顔の方がもっと綺麗で素敵です!」
『っ……急にそういうのは反則じゃないか?』
「リュード様が先に言ってきたんじゃないですか!」
『まあ確かにそうだが……!』
互いにジトーっと睨み合いながらも、気付いたらどちらからともなく噴き出してしまい、そのまま大声で笑ってしまった。
あーおかしい……なんで二人でお互いの事を褒め合いながら、言い争いみたいな事をしてるんだろう? おかしくって、涙が出てきちゃったよ。
『あははは……! せっかく素晴らしい景色を前にしてるんだから、変な言い争いをするのはやめようか』
「そうですね」
『ふぅ……一通り笑った事だし、丁度良い案を思いついたよ』
「良い案?」
『今日のお礼の案さ』
そう言うと、リュード様はおもむろに右手を天高く上げると、その場でパチンっと指を鳴らした。
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