第17話 #ハル



 いつの間にか眠っていた様で、体を起こすとイスに座ったままベッドに突っ伏した片岡が目に入った。


 俺が起きたことに気が付いた養護教諭の先生が「気分はどう? もうすぐご家族が迎えに来るからね」と話してくれた。

 少し寝たお陰か頭がクリアーになってる気がしたので「さっきよりは大丈夫です」と答えた。


 先生と2~3会話を交わしていると、片岡が起きた。


「松山っち、大丈夫? ホントごめんね」


「いや、片岡さんのせいじゃないから。俺こそ迷惑かけてごめん」


 お互いこれ以上何も言えなくなり、沈黙が続いていると、扉が開いてウチの母が入ってきた。

 先生が母に説明した後、母は片岡に頭を下げてお礼を言ってくれていた。




 ワゴン車で来てくれていたので、通学用の自転車を車まで持ってきて後ろに積んでから帰った。


 帰りの車の中で母から「夏休みの間ずっと勉強とお店と頑張ってたからだね。頑張ってくれるハルに甘えちゃって無理させてたんだね」と謝られた。


 体調崩した理由はそんなことじゃない。勉強もお店も関係ない。と言いたかったけど、マキのことを話せる訳も無く、母に何も返事が出来なかった。




 家に帰ると「大人しく寝てろ」と言われ、素直にベッドで横になっていた。



 でも、どうしても片岡から聞いた話が頭から離れてくれなくて、気分は全く良くならなかった。


 考えれば考えるほど、夏休み中のマキに感じた違和感や不自然な行動を思い出してしまい、なんでその時に気づけなかったのか、どうすれば良かったのか、という後悔が止まらなかった。





 いつの間にか帰ってから何時間も経っていて、ふとスマホで時間を確認すると、夜の9時過ぎだった。



 スマホを手にしたまま、写真のアイコンをタップした。


 中にはマキを写した画像が沢山入っていた。


 ずっと古い方に遡って、スマホを買った時に写した1年と少し前の画像を開いた。



 マキが俺の左腕に抱き着いていて、二人でスマホに顔を向けた自撮り写真。

 写真のマキは凄く楽しそうに笑っていた。

 多分、念願のスマホを買うことが出来て嬉しかったんだろう。



 自然と涙がボロボロ零れて、止まらなくなった。






 声を出さずに泣き続けていると、スマホがバイブして片岡からメッセージが来ている通知が表示された。




 それを見た途端、急に「泣いている場合じゃない」と思った。


 まだ俺は自分の目で確かめていない。

 最近のマキの様子から、俺に隠して何かしでかしているのは間違いないと思う。


 でも、それが浮気なのかどうなのかは、自分の目で確かめるべきだと思えた。




 片岡のメッセージを確認すると、俺の体調を心配する内容だった。


 直ぐに、通話アイコンをタップした。



『片岡さん、色々迷惑かけて悪かった』


『ううん、迷惑なんて掛かってないから。私が無神経だったのがいけなかったんだよ』


『俺はそんなこと思ってないから。 凄くショックだったけど、知らないままの方のがもっと嫌だし』


『そっか、そうかもしれないね』


『それで、片岡さんにしか頼めない相談があるんだけど』


『うん?なんでも言って。出来る限り協力するから』


『カノジョの浮気、自分の目で確かめたい。 その相手の男の家の場所を教えて欲しい』


『それは・・・今の松山っちの体調だと無茶だよ』


『いや、もう大丈夫。明日にでも確かめに行きたい』


『だったら、私も一緒に付添う。 一人だと心配だし』


『ごめん、そうしてくれると俺も助かる。 それで実際に目撃したのは何時頃だった?』


『3時半頃だったと思う。 明日、松山っちは体調不良で学校休むの?』


『そうだね。それで休んで先回りして見張ってた方のが良いか』


『だったら私も休むね。お昼過ぎくらいに待ち合わせて、一旦私んち来てもらって時間まで待機しよっか』


『わかった。何から何までありがとうね』


『ううん。全然大丈夫だから。 それに松山っちに早く元気になってもらって、またチャーハン作って貰いたいし!』



 精神的に弱っているのか、片岡の励ましの言葉で、また泣きそうになった。


 泣きそうになるのを必死に我慢して 

『わかった。お礼に美味しいチャーハンご馳走するって約束するよ』と返事をした。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る