第18話 #ハル
次の日、朝起きてから母さんに学校を休むことを伝えると、「学校には母さんから連絡入れとくから、大人しく休んどくんだよ」と言ってくれた。
マキには昨夜の内に「体調不良で明日学校に行けないから、一人で登校して」とメッセージを送っておいた。
11時頃まで自室のベッドでウトウトしながら横になって過ごし、12時過ぎには家を出た。
約束の時間に片岡との待ち合わせ場所へ行くと、片岡は既に来ていた。
この日の片岡は、上下地味なスウェットに髪はツインテールにしておらず降ろしたままで、顔もノーメイクだった。
「待たせて悪い」
「だいじょーぶ、そんなに待ってないし。じゃあ直ぐ移動しよっか」
「うん」
待ち合わせ場所から片岡の家は直ぐ近くらしく、片岡は徒歩で来ていたので、俺も乗っていた自転車を手で押しながら歩いた。
歩いていると「ココが須藤の家」と教えてくれた。
家の正面に車が2台停められる駐車場があったが車は無く、今は留守のように思えた。
そのまま歩いていくと、須藤という男の家から5分もかからずに片岡の自宅に到着した。
片岡の家には片岡のお母さんが在宅だった。
玄関で「お邪魔します」と頭を下げて挨拶すると、事前に片岡が説明していたらしく、「いらっしゃいね。体調悪いなら無理しないでゆっくりしてくれていいからね」と俺の体調を気遣ってくれた。
「ありがとうございます」ともう一度頭を下げてから上がらせて貰った。
片岡の部屋に案内されて入ると、部屋の中は家具や小物なんかが女の子らしい物ばかりだったけど、机の上や本棚には参考書やテキストなんかが色々置いてあって、熱心に勉強している様子が分かった。
「そこに座ってて。しんどくなったら横になってくれてもいいからね」
「気使わせてわるい。しんどくなったらそうさせて貰うね」
「うん。 あ、それと中学の卒アルあるけど見とく? 須藤の顔、確認出来るよ」
「見せてほしい」
「おっけ、ちょっと待ってね」
須藤という男の中学の頃の顔は、いかにも生意気そうで調子にのってそうないけ好かない顔をしていた。
「私、コイツのこと小学校から一緒で色々知ってるんだけど、すっごい嫌いなんだよね」
「そうなのか?」
「うん。いっつもエラソーで恰好つけて見栄ばっか張って、小学校の頃なんか嘘ばっか付いて、実は気がちっさいビビリだし、小中ずっと女子には嫌われてたヤツなんだよね。今思えば、真面目でしっかり者の松山っちと正反対のタイプかも」
俺はそんなヤツに男として負けたんだろうか。
マキは俺よりもそんなヤツのが良いと思ったんだろうか。
俺が黙りこくっていると心配になったのか、片岡が俺の顔を覗き込んできた。
「だいじょーぶ?」
「すまん、少し考えごと」
「うーん、時間まだあるし、気分転換に違う話しよっか」
そう言って片岡は、将来自分がやりたい事を話してくれた。
語学系へ進み、大学に在学している間に数年海外へ語学留学に行きたいことや、いずれは通訳の仕事に就きたいと話してくれた。
俺もその話に応えるように、実は料理人になって中華料理屋を継ぎたいけど、親に反対されてて、親を納得させる目的で大学への進学を目指していることを話した。
前から分かってはいたけど片岡は、見た目に反して考えていることに1本のしっかりした柱が立っているような子で、将来の話をする片岡の表情はスッピンでまゆげ無いのにキラキラと輝いて見えた。
それに俺の話を聞いても全然笑ったりしないで「松山っちなら絶対大丈夫だね。一流の料理人に絶対なれるよ」と応援してくれた。
「まぁ俺は一流になりたい訳じゃないんだけどね」と言うと、「町一番の腕前でも一流は一流だよ」となんだか奥の深そうな言い方をしていた。
そんな話をしていると、そろそろ予定の時間になっていたので、須藤の家の近くまで行って、物陰から張り込みを開始した。
張り込みを開始してから15分程でマキと須藤という男がそれぞれ自転車に乗って現れ、須藤の家の前で自転車を降りた。
二人は駐車場の中に自転車を停めると、須藤が馴れ馴れしくマキの肩に手を回して抱き寄せ、強引にマキの唇にキスをした。
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