第15話 #マキ




 お盆休みが終わると、須藤君のお母さんが戻ってくるから解放されると思っていたら、ダメだった。


 須藤君のお母さんは平日の昼間はパートに出ているらしく、結局お盆休みが終わっても昼間は須藤君の家には他に誰も居なかった。



 この頃になると、行為をしていても泣かなくなっていたけど、慣れ始めているのか投遣りになっているのか自分でも分からなかった。




 そして、お盆休みが終わりお店が落ち着いてから最初の定休日を、私は忘れていた。


 朝起きてカレンダーを見て初めて気付いて、急いで須藤君に「今日はどうしても無理」と連絡したけど、「だったらお金」とだけ返事が返って来て、取りつく島がなかった。


 バイト代は貰っていたけど、7月は後半遊んでばかりでシフトも減らしていたから、いつもよりも少なくてスマホ料金を払ったらほとんど残らなかった。

 ハル君にお金を借りることも一瞬だけ考えてしまったけど、お金を借りるとなると納得させるだけの理由が必要だし、何より嘘をついてハル君を騙すのは、私には無理だと思った。



 そろそろ出かける準備をしないといけない時間になってしまい、それでもどうしたらいいのか悩んでいると、ハル君から電話が掛かってきた。



『今日、どうする?』


『友達と約束しちゃってた。ごめん』


『え?』


『・・・・・』


 何か言い訳しないと、と思っても、罪悪感で何も言えなかった。


 私が黙っていると、ハル君は『そっか』と一言だけ言って許してくれた。


 ハル君の優しさに私の罪悪感は更に膨れ上がり、『ホントにごめんね!次はちゃんと空けとくから』と必死に謝った。





 須藤君の家に行くと、「どうしても無理って言ってたくせに、来てるじゃん」と言われ、須藤君にも自分に対しても嫌悪と侮蔑の気持ちが増幅して「ははは」と私は笑っていた。







 次の週の定休日の前日、今度は前もって須藤君に必死にお願いすると、条件を出してきた。



「じゃあ、明日の分も今日してよ。 そうだ、口でしてよ。カレシにしたことくらいあるでしょ?」


「そんなことしたこと無いよ・・・」


「マジ?なら丁度いいじゃん! 俺で練習するつもりで!」



 今迄何度抵抗しても無駄だったことが身に染みていた私は、(明日のハル君との約束を守る為だ)と自分に言い聞かせて、言う通りにした。








 翌日の朝、ハル君と会うためにシャワーを浴びていると、自分の体や口に須藤君の臭いが染みついている様に思えて(ハル君に会う前に綺麗にしないと)と何度も体を洗い何度も歯を磨いた。

 でも、いざハル君と顔を会わせると、臭いが残っててバレるんじゃないかと怖くなり「今朝、生理来ちゃったの。今日はエッチ出来ない」と言っていた。


 それでもハル君は怒ったりすることなく、私の体を気遣ってくれて、出掛けずにハル君の部屋でゆっくりしようと言ってくれた。


 でも、狭い部屋に二人きりで居ることで、臭いがバレる恐怖が治まらず、キスどころかハグすることさえ怖くて、ハル君が近寄って来ない様に必死に機嫌が悪いフリをした。


 結局、それも辛くなって、お昼過ぎには「体調悪いから今日は帰るね」と逃げ出した。





 自分の部屋に帰ると、布団を頭から被って声を出して泣いた。


 昨日必死にお願いして、ハル君にもしたことが無いことに応じて屈辱に耐えたのに、ハル君と会ってもハル君にいっぱい我慢させて、自分も辛い思いしただけだった。






 この日から何もしたくなくなった。

 出かける時はメイクをしなくなり、食事も朝しか食べなくなった。

 

 須藤君との行為中も何も考えない様になっていて、自分でも気が付かない内に声を出すようになっていた。


 バイトにも行く気になれず、サボるようになった。

 アパートの部屋に居るとママにバイトに行くように言われてしまう為、学校の宿題を持ってファーストフードへ行き、ドリンク1つだけ買って遅くまで一人で宿題をして時間を潰した。




 昼間は毎日須藤君の相手をして精神的に疲弊して、夜は遅くに帰るから寝不足の日々が続き、2学期初日の朝はハル君が呼びに来るまで起きられなかった。








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