第11話 #マキ



 夏休みに入ってからも友達から遊びに誘われる度に出かけていた。

 どうせハル君は勉強とバイトばかりで、定休日くらいしかゆっくり二人きりで会えないし。


 ただ、友達付き合いが増えてくると、バイト代からスマホ代を支払ってるから、遊ぶのにもオシャレするのにもお金が全然足りなくて、本当はバイトのシフトをもっと増やすべきだったんだけど、友達と遊ぶ時間も優先したくて結局遊んじゃうから常にギリギリだった。


 だから、毎週定休日のハル君とのデートはいつもお金出して貰ってたし、買い物に連れて行くと服とかコスメとかもお金を払ってくれることに思いっきり甘えていた。

 最初はそのことに申し訳ない気持ちがあったけど、「どうせ使わないで貯金しちゃうし、これくらいいいよ」と言ってくれてたから、その内私も気にしない様になった。 むしろ「私ってハル君に愛されてるんだなぁ」と都合のいい様に考えるようになっていた。



 遊び回ってた夏休みも7月が終わり8月に入ると、みんなで集まることよりも個人的な遊びの誘いが男の子から来るようになった。


 最初は断っていたんだけど、グループの女の子たちからも「1度くらい遊びに行ってあげたら?」とか「どうせカレシは勉強ばっかなんでしょ?」と言われ、(友達としてだったら大丈夫かな)と考えるようになり、結局押し切られる様に男の子と二人きりで遊びに行くことになった。



 相手の男の子は、須藤君。


「お金出すから」と言ってくれて、隣の県の有名な遊園地まで遊びに行くことに。 実際に、電車賃とか入園料、乗り物チケットに食事代も全部須藤君が出してくれた。 ハル君もいつもお金出してくれてたから、そういうのに深く考えずに甘えてしまっていた。


 遊園地なんて、ママとパパが離婚するずっと前に行ったきりだったから凄く楽しくて、ハル君のことも忘れて沢山はしゃいだ。


 夕方近くになると須藤君が「帰る前に最後に観覧車乗ろうぜ」と言うので、二人で観覧車に乗った。

 窓から見える遊園地の景色を眺めながら「あぁ、楽しかったなぁ、来て良かったなぁ」と考えていると、いきなり須藤君に肩を抱かれて、キスされそうになった。


 必死に抵抗して「止めて、お願い」と言うと、諦めて離れてくれた。



 さっきまでの浮かれてた気分が、急速に冷めて恐怖と後悔の気持ちでいっぱいになった。


 須藤君は怯える私を見て

「すまん。2年で一緒のクラスになってから、ずっと好きだった。 ホントは無理矢理キスするつもりなんて無かったけど、マキちゃん見てたら気持ち押さえられなくなって我慢出来んかった」


「急にそんなこと言われても・・・」


 私が怯えながらも戸惑って、怒った態度を見せなかったせいなのか、須藤君は開き直り始めた。


「カレシ居るくせに二人きりで俺と遊んでくれたらワンチャンあるって思うじゃん! 期待させといてコレは酷くない? お金だって今日だけでも結構出してんだよ?」


 何も言い返せずに泣きそうになった所で、地上に戻って来て観覧車から出られた。



 帰りの電車は、キップ代は自分で出した。

 お互いずっと無言で、須藤君はあからさまに機嫌が悪くなっていた。


 誘いに乗って遊びに来てしまったことへの後悔と、須藤君に対する罪悪感で、もうどうして良いのか分からなくなっていた。




 地元の駅に着いて別れ際に「今日はごめんなさい」と一言謝って頭を下げたけど、須藤君は舌打ちして許してくれそうになかった。


 どうすれば良いのか全然分からなくて「今日は帰るね。ごめんね」と言って、その場から逃げるように離れて一人で家に帰った。




 家に帰ってシャワーを浴びて出ると、スマホのグループチャットにグループの女の子たちからメッセージが来ていた。


『須藤君から聞いたけど、ちょっと酷いと思うよ』

『お金全部出させて、最後冷たくあしらうとか無いわ』

『キスくらいいーじゃん。それで気持ちよくお金払ってくれるんなら』


 須藤君はグループのみんなに今日の事を言いふらしていた。

 そしてそれを理解した私は、須藤君の不機嫌な態度よりも、友達からのメッセージに「仲良くしていたグループからハブられるかもしれない」という恐怖に襲われた。


 慌てて『そんなつもりじゃなかったの。謝ったけど須藤君全然機嫌直してくれなくて。どうしよ』と返信した。











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