第10話 #ハル



 ウチの店は、普段はお昼時が一番客入りが多いけど、お盆休みとか世間が連休になるとお昼よりも夕方から夜にかけてのが混む。


 今年のお盆も例年と同じくとても繁盛して、夜は俺も父もフル回転で鍋を振るい、一線を退いている祖父も揚げ物や洗い物などの手伝いに入る。

 接客の方も母や祖母だけでは追いつかないので、この時期は4つ年上の既に社会人でお盆休み中の姉も毎回駆り出される。

 夕方は17時頃から客入りが増え始め18時を過ぎると店の前に列が出来始める。


 そんなお盆だったが、マキが毎回の様に遅刻してきていた。

 シフトは17時からになっていたが、連日の様に19時頃になってやって来た。 みんな何か言いたそうな顔をしていたが、忙しすぎてそれどころでは無くて叱ることをしないから、なぁなぁになってしまっていた。 家族同然と言えども、まだみんなマキに対してどこか遠慮している部分もあったのかもしれない。


 俺も「後で注意しておくか」と考えてても、お店を閉店する頃にはヘトヘトになってて、マキのことよりも早く休みたくなってしまい、結局何も言わずにさっさと自宅の方へ引き上げてしまっていた。



 そんなちょっとシコリを残したお盆の連休が終わりお店の方も落ち着き、最初の定休日に久しぶりにマキとゆっくり過ごすつもりで居たら、「友達と約束しちゃってた。ごめん」と当日になってマキに断られた。 お店の定休日はこれまでずっと二人で過ごしていたから、今まで二人の間で事前に約束したりすることはしていなかったが、こんな風に会うのを断られたのは初めてのことだった。


 モヤモヤするし「折角久しぶりに二人でゆっくり出来ると思ったのに」という残念な気持ちがあったけど、束縛してるとか思われるのも嫌で「そっか」とだけ返事して、諦めた。


 マキはそんな俺の態度に罪悪感を感じた様で、しつこく「ホントにごめんね!次はちゃんと空けとくから」と言っていたけど、言われれば言われるほど「そんなに悪いって思うなら、今日だって俺と一緒に過ごせばいいじゃん」と考えてしまい、余計イライラしてしまった。




 モヤモヤしながらも「こんな事でいちいちイライラして、俺ってガキだな」と自己嫌悪したりもして、気を紛らわせたくて部屋で勉強に没頭した。



 そんな時に片岡からメッセージが来た。


『松山っち、生きてる?』


『死んでる』


『死んでたら返信出来ないし!』


『片岡さんの方は調子どう?』


『うーん、結構煮詰まってるねぇ』


『俺もそんな感じ』


『そういえば!前にまたお店に行ったんだよ!でもお店の前の行列凄くて諦めて帰っちゃった』


『あーそれはごめん。お盆休み中でしょ? 毎年お盆は凄く混むんだよ』


『そっかぁ、松山っちの料理、美味しいもんね』


『いや、俺なんてただのバイトだし。父さんとじいちゃんのが凄いから』


『ネネ! お盆終わったらお店空いてるの?』


『うん、もうお店の方は落ち着いてるよ』


『じゃあ今日行ってもいい?また松山っちのチャーハン食べたい!』


『ごめん、今日定休日』


『そっかぁ、残念! ていうか、休みってことはカノジョとデート中とか?』


『いや、部屋で勉強してる』


『えー!なんで!カノジョ可愛そうじゃん!休みの日くらいデートに連れてってあげなよ』


『そうだな』


 そのカノジョなら、俺のこと置いてどっか行っちゃったよ、と言いたくなってしまったけど、片岡に愚痴って弱み見せるのもなんか嫌だったので、話合わせて適当に返信した。


『明日ならお店行っても平気そう?午後なら松山っち居るよね?』


『おう、遠慮しないで来て』


『じゃ明日行くね』



 大したことのない、ごく普通の友達とのやり取りだけど、マキに対するモヤモヤが少しだけ軽くなった気がして、その後は勉強に集中出来た。



 翌日のお昼のピ-クが落ち着いた時間に、片岡は来店した。


「今日はチャーハンとギョーザね! 唐揚げ美味しかったけど、太るし今日はナシで!」


「片岡でも体形とか気にしてんだな」


「ちょい!ソレ酷くない!?私のことなんだと思ってんの!」


「喧嘩が強そうなギャル?」


「ナニソレ!ちょーウケるんだけど!」



 片岡は相変わらず元気一杯で、そんな片岡にウチの母もゲラゲラ笑っていた。

 祖母は「外人さんみたいな頭の子」と呼んでいた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る