第9話 #ハル
夏休みに入ると、去年と同じようにお店のバイトと勉強三昧。
午前中に勉強をして、午後はお店で鍋を振るう毎日。
マキの方は、あまり勉強はしてないようだが、週に2日バイトに入っていた。
バイトに入っていない日は、高校の友達と遊んでるらしい。
というか、折角の夏休みだから友達と目いっぱい遊びたいのに、遊ぶのにもお金がかかるし、スマホ料金も稼ぐ必要があるからバイトしている感じで、サキさんから「遊んでばかりいないで勉強するようにハル君からもあの子に言ってやってよ」と言われたりもした。
そんな俺達だったけど、定休日だけは俺は勉強も休んで、マキも友達との予定を入れずに二人で過ごした。
マキは金欠気味だったから、デート代や食事代、他にもコンドーム代やマキが欲しがった物なんかも全部俺が出してたけど、俺は他にお金使わなかったし、そのことは特に気にしていなかった。
そういえば、夏休みに入ってしばらくした頃に片岡がウチの店に食べに来てたな。
学校ではウチが中華料理屋とは誰にも話してなかったけど、夏休みに入ってからもたまに片岡からメッセージ来てて、そのやりとりで初めて教えた。
『夏休み入っていつも何してるの?』
『自分ちでバイトしてる』
『お家ってお店してるの?』
『うん。中華料理屋』
『うそ!マジ?凄いね!行ってみたい!なんてゆーお店なの?』
『萬福軒』
『あ!その中華料理屋知ってるよ!』
『来た事あるの?』
『ううん無いよ。でも行ってみたい!』
そんなやりとりをした翌日に、本当に来た。
お昼のピークが終わって、父のお昼休憩の交代で丁度俺がシフトに入った時に、存在感が凄いギャルが一人で来店してて「もしかして?」と思って、客席に出たらやっぱり片岡だった。
片岡はデニムのショートパンツで生脚にビーチサンダルで、相変わらず中華料理屋でも場違い感が凄かった。
「おっす、ホントに来たんだ」
「おー!松山っち久しぶり!」
「片岡さんは相変わらず元気そうだな」
「なんか友達と会うの久しぶりだかんね」
「そうなの? 遊んでばっかいそうなイメージだけど」
「うーん、休みの間は勉強ばっかしてるからねぇ」
「まぁ俺もそんな感じ」
「それでー、どれが一番美味しいの!」
「どれも美味しいよ」
「っていうか、松山っちが作ってくれるの?」
「そうだな。父さん休憩入ってるから、俺が作るぞ」
「じゃあじゃあ、一番のオススメ食べたい!」
「うーん、ギョーザと唐揚げはオススメだけど、後はチャーハンでいいか?それとも普通のご飯にしとく?」
「チャーハンで!」
「おっけ。んじゃカウンターで少し待ってて」
マキ以外の友達に自分が作った料理を食べてもらうのが初めてだったし、カウンター越しに料理してる姿を見られてると思ったら、いつもよりちょっとだけ気合入れて鍋を振るった。
因みに、マキのシフトは17時からでこの場には居なかった。
更に調子に乗って、チャーハンとギョーザと唐揚げ以外にも、麻婆豆腐とデザートの杏仁豆腐風プリンをサービスしておいた。
「松山っち、こんなに頼んでないんだけど」
「あぁ、サービスだから」
「いや、悪いし」
「ギャルが遠慮するの、似合わないぞ」
「いやいやいや、ギャルでも遠慮とかするし!」
「まぁ、もう出しちゃったし食べてよ。 無理そうなら残してくれていいし」
「うー、分かった。意地でも全部食べる」
結局、片岡は全部食べてくれた。
会計の時、チャーハン代だけで済ませようとすると
「いやマジでダメだって!お金ちゃんと払うから!」
「いや、俺が勝手にサービスで出しただけだから、いいよ」
「うー・・・・やっぱダメ!こういうのされると次、来づらくなるからちゃんと払う」
「そっか、悪いな。じゃあチャーハンとギョーザと唐揚げ分だけ頂くね。他は確認せずに勝手に出したやつだから」
「わかった。ありがとね」
「いやこっちこそ気つかわせて悪かった」
「ううん。松山っちのチャーハン、マジ美味しかったし、料理する姿も学校と全然違ってカッコよかったし、来て良かったよ?」
「ありがとな。 遠慮せずにまた来てくれよ」
「うん!ご馳走様ね!」
片岡が帰ると、母が「凄い個性的な子だねぇ」と言ってたので、「あれでも学校だと俺より成績上だから」と教えると、かなりビックリしていた。
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