第2話 #ハル
佐原マキと初めて会ったのは、小学生の低学年の頃だった。
母の高校時代からの友人であるサキさんの娘で、住んでいたのは他県だったが年に数回親子でウチに遊びに来ては、俺と同い年ということもあって毎回二人で家の中や近所の公園で遊んだ。
学校以外の異性の友達というのがちょっとだけ特別な関係に思えて、毎回会えるのを楽しみにしていた。
年々可愛くなっていくマキに、多分俺は好意を抱いていたと思う。
学校と違って、異性と遊んでいても周りの目が無いから気楽に接することが出来たし、大胆なことも出来た。
大胆って言っても、手を繋ぐだけだったが。
マキの方はどうだったんだろう。
そう言えば、一度だけバレンタインのチョコを送ってくれたことがあった。
小学6年の冬、郵送で送られてきたチョコを受け取った時、母や姉に揶揄われて凄く恥ずかしくて、嬉しい気持ちを必死に隠した。
そのチョコも1週間以上食べずに毎日眺めては、嬉しさを噛みしめていたな。
結局、姉に「食べないなら貰っちゃうぞ」と脅されて、慌てて食べたけど。
もし、お互い離れた土地に住んだまま青春時代を過ごしていたのなら、きっとこの子供の頃の思い出は淡い記憶となり、いずれは別の人と恋愛をして、記憶も薄れていたと思う。
マキの両親が離婚したのは、俺たちが中学1年の夏。
詳しく聞いていなかったが、後でマキから聞いた話では、父親の不倫が原因だったそうだ。
親や兄弟の居ないサキさんは、不倫に悩んでウチの母に相談していたらしい。
サキさんは旦那さんと離婚し苗字が工藤から佐原に代わり、マキを連れてウチの裏にあるアパートへ引っ越してきた。 ウチの母が、離婚後の二人を助ける為に、サキさんの故郷でもあるこの町へ呼び寄せたのだ。
アパートは、ウチの祖父(母の父)が所有する不動産で、築20年近くの所謂ボロアパートだったが、ここの一部屋にほぼ無料で佐原親子を住まわせていた。
ウチは、自宅兼店舗で中華料理屋「萬福軒」を営んでいる。
祖父の代でお店を始め、現在は祖父の娘である母と婿養子である父とで切り盛りしている。
サキさんはこちらで仕事を探し就職し、仕事の間マキはウチに預けられた。
親の離婚に傷つき、引っ越しで無理矢理友達とも別れる事になり、毎日他人の家に預けられることになったマキに、俺の家族はとても気を使っていた。
祖父母や母に「優しくしてあげるんだよ。アンタが支えてあげるんだよ」と何度もしつこく言われた。
マキが引っ越して来たのが丁度夏休み中の8月の上旬で、俺は部活等はしておらず毎日お店の手伝いばかりしていた。
父や母は俺がお店の手伝いをすることに反対していたが、ある条件を守ることで手伝うことを許されていた。
マキが来るようになってからは、店の客席でマキと勉強しながら、お店が忙しくなると手伝いに周るという日々。
たまに母に「マキちゃんをどっか遊びに連れてってあげな」と言われ、お小遣いを貰って二人で遊びに行ったりもした。
2学期から通うことになる中学校を案内したり、女子が好きそうな商業施設に買い物に行ったり。 後は、海浜公園や図書館とか。
どこか元気が無く俺たち家族に遠慮がちなマキが、遊びに行った先ではまるで緊張感から解放されたかのように笑顔を見せてくれるのが、たまらなく嬉しかった。
もうすぐ夏休みが終わる8月末近く、マキの新しい制服を注文していたお店に二人で受け取りに行った帰り、コンビニでアイスを買って近所の公園でベンチに座って食べていると、マキが色々話してくれた。
両親の離婚の理由。
引っ越しで友達と離れるのが凄く辛かったこと。
こっちでの生活に不安だらけのこと。
ウチの家族が良くしてくれることに凄く感謝してること。
俺が居てくれて良かったと思ってること。
この場では「そっか」としか返事が出来なかったけど、実際にはマキの言葉を聞いて、俺はマキのことを好きなんだと自覚した。
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