バッドエンドのその先
バネ屋
第1話 #ハル
「ハル君・・・ごめんなさい」
「・・・」
目の前で泣いて謝っているのは、カノジョだったマキ。
この約1カ月の間、悩んで悩んで何度も吐いて苦しんだが、ようやく決着が着いた瞬間だった。
失恋なんてよくあること。
日常茶飯事だ。
彼女に浮気されることだってそう。日常茶飯事。
だからと言って、簡単に割り切れる物でもない。
ずっと身近に感じていたカノジョの存在が、幻の様に霞んで、そして今はどうしようもないほど手が届かない遠い存在になってしまったことを痛感する。
目の前に居るのに、もう触れることが出来ない元カノジョ。
自分じゃない別の男のカノジョになってしまったことを知り、絶望と嫌悪感がごちゃ混ぜで、触れることも目を合わせることも出来なくなった。
マキの裏切りを知ってから、よっぽど俺の態度がおかしくなっていたんだろう。
今朝、マキの方から「話があるから、学校から帰ったら公園に来てほしい」と言ってきた。
遂に来たか、と思ったが、話の内容は予想通り別れ話だった。
マキは俺に浮気がバレていることは知らないのだろう。
ただ、俺の様子がおかしくなっていることに、ある程度は察していたのかもしれない。
「ハル君、私と別れて下さい」
「はぁ・・・理由を聞かせてくれる?」
俺は、強がって冷静を装って尋ねた。
「理由は・・・私がカノジョだとハル君辛そうだから・・・」
「なんでそう思うの?」
「・・・だって最近一緒の時間少なくなったし、体調も悪そうだし」
本当の事(浮気のこと。別の男を好きになったこと)は言わずに誤魔化すつもりか。
時間が少なくなったのは、他の男と会ってカレシである俺の存在を蔑ろにしているからだ。
体調が悪く見えるのは、浮気を知って悩んで苦しんでいたのが原因。
俺が黙っていると、マキは続けて「ハル君・・・ごめんなさい」と言って泣き出した。
泣きながら頭を下げるマキの頭頂部の旋毛を眺めながら、「なんでお前が泣くんだ。泣きたいのは俺の方だ」という不快感と「父親の不倫で辛い思いしたクセに自分も同じコト出来る人間だったんだな」という軽蔑の思いが体の内側から湧き上がってくるようで気持ち悪かった。
別れたら言いたい事も言えなくなるだろうし、最後にここでハッキリ浮気のことを責めるべきかと思い、相手の男の名前を口にしようとしたら胃の中身がせり上がって来て、堪らず嘔吐した。
浮気され、振られて、浮気の事実を隠され、冷静を装っても結局みっともない姿を晒した。
惨めだ。
嘔吐して顔を上げられない俺の背中をマキが擦っていたが、無言で払いのけた。
同情なのか、罪悪感なのか。
どちらでも大差ないか。
17歳の未熟な自分には、この現実は「日常茶飯事」と言って受け入れるにはあまりにも辛過ぎた。
俺はマキに顔を向けることなく、マキとの思い出が詰まった公園を無言で後にした。
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