第62話 【閑話】 宗教者たち

「ローアン、先程は助かりましたよ」


「正気に戻って頂いて良かったです…よりによって『女神の騎士様』にあの様な事を言うなんて」


「どうかしていたのです…余りにも勇者がお粗末だったので、頭が混乱していました」


「そうですよ…あと少しで私達が教皇様を殺さなければならなかった」


「殺して頂いても構いませんでした…教皇たるこの私が『真の女神の協力者』を破門なんてとんでもない事を言い出したのですから」


「他の10大司教も同じです、誰も教皇様が背信者などとは思っていません…ですが…」


「そうですね『女神の騎士様』には何かお考えがあるのかも知れませんね」


「はい…あと、ご報告ですが、女神の騎士様から連絡がありまして、ガイアのFランク降格は教皇様の指示かというお話がありました」


「そんな…それでなんと答えたのですか?」


「雰囲気から、ガイアに肩入れしているのが解りましたので『そんな事教皇様はしませんよ、私が保証します』と答えておきました」


「助かりましたよ、ローアン」


「別に構いません…私だって『女神の騎士様』に嫌われたくありません、まぁその為にギルドに犠牲になって貰いました」



「それは仕方が無い事ですね…女神の騎士様が肩入れなさるなら仕方がありませんね…ガイアの罪も水に流しましょう…普通の信徒扱いで留める事にします」


「聖剣を差し出すなんて本当に腹立たしいですが…致し方ありませんね…それで女神の騎士様へ与える土地ですが」


「それならもう決めております、ガルイサムの空いている土地の5割を未来永劫税金が掛からない形で差し上げましょう」


「ごごご5割ですか…それは土地というより最早領地ではないでしょうか?」


「ローアン…あの方は女神の騎士…本物の救世主なのですよ、誰もが下の存在、私より偉い存在ですから…その位、当たり前です」


「そうですが…静かに暮らしたいと言っていたと思いますが」


「そうですね、ですから…私、作る事にしました、女神の使徒たる理人様の為の村をです」


「あのお聞きしても宜しいでしょうか?」


「簡単な事です、理人様が好きになった女性は、幼馴染や過去に憧れた人物です…思い出を大切にする方なのが良くわかります、ならば住むロケーションも同じなのではないかと思いました」


「それで…」


「はい、ですから理人様の故郷の村人で仲が良かった村人や奥方様のご家族を全員移民させ…同じ環境を整えたらどうかと、そして私と10大司教の数人がガルイサムの教会に引っ越せば…色々と便宜をはかれます」


「この中央教会は誰に任せるのですか?」


「それはローアンに任せます…それに伴い、そうですね貴方に『教皇代理』の称号を上げますよ、おめでとうローアン」


「嫌です」


「いま、何と?」


「嫌ですと言いました…私もガルイサムに連れて行って下さい」


「なぜです、10大司教から頭一つ抜け出せるのですよ」


「私だって神職者です、地位よりも『女神の騎士』に仕えたい…当たり前じゃないですか、ですがそんな事したら、嫌われますよ…」


「そんな事はありません」


「理人様は、ささやかな幸せを好む方です…絶対嫌われますよ」


「それでは、私にどうしろと!」


「理人様は、静かに暮らしたいのです…約束の土地…そうですねガルイサムの2割でも与えて、後は何か相談が無い限り放って置いてあげましょう…それが良いと思いますよ」


「解りました、ローアン、貴方の言うことは最です、嫌われては致し方ありませんから、それが良いのかも知れませんね」


「はい…我々は近くの教会にただ移り、見守れば良いと思います」


「それが良いかも知れませんね」



◆◆◆


「なぁ、あれ諫めないで良いのか?」


「教皇様と大司教様の話に割ってなんて入れないだろう」


「ああっ、どうして上は常識が無いのでしょうか、ガルイサムの2割といえば、村幾つぶんか解っているのでしょうか? 楽に大きな村10個分を超えますよ」


「そんな物、貴族でもない限り貰っても困るだけですよね」


「司教様、伝えるべきでは」


「大声で話していますが…これはシークレットです…話は聞かなかった事にして此処を離れましょう…良いですね」


「「「「「はい」」」」」



ローアンですら…実は狂っていた。



その後、教皇を含む聖教国の権力者の半分がガルイサムに移り住んだが…その人選は熾烈を極めた。

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