第60話 明暗
俺は部屋に戻り引き篭もった。
魔族が怖い…だがそれ以上に街に出るのが怖い。
通信水晶がさっきから光りっぱなしだ…
理人に相談しようと思ったが、流石の彼奴でも無理だ。
「ガイア様、でないで良いんですか…」
「ああっ…」
仕方なく俺はでる事にした。
「ガイア、要件はわかっていますね」
解っている。
教皇ロマーニにローアン大司教が水晶に映っていた。
俺は聖剣を差し出し、魔族に敗れた。
しかも、最悪な状態でだ…
「解っております…裁きをお受けします」
俺にはもう受け入れるその選択しかない。
「ガイア、貴方が選べる未来は二つです『罪人勇者』となり、自分の人生を魔物の討伐に費やすか、何もかもを捨てて『只の人』になるかです…市民権の無い平民になる事です…どちらにしますか?」
※都市部で暮らす平民は大型の都市で暮らす権利を持つ、貴族より下だが平民の中では優位、これをこの世界では市民権という。
俺はもう戦えない…
「平民に戻ります」
「それではガイア、もう私達が貴方に会うことは無いでしょう…今迄ご苦労様でした、これより勇者として全てをはく奪します、冒険者のランクもFランクまで下げてのスタートです」
「教皇、それは…」
「はっ? お前はもう只の平民ですよ? 様をつけなさい…その前にちゃんと教会づてに面会の申し入れをしなさい…」
そう言うと通信水晶は切れた。
◆◆◆
暫くすると、教会直轄の聖騎士が此処になだれ込んできた。
「勇者…いや、ガイアお前から全てを回収させて頂く」
そう言うと、装備にブラック小切手、通信水晶に僅かなお金、ストレージに装備を回収された…そして…
「待て、その女は俺の奴隷だ」
「ハァ~だから? 彼女達を購入するお金は国から出ている…婚姻でもしていれば何だかの権利はあるが、無かろう回収だ」
「お前達」
「「「「「…」」」」」
誰も何も言わないのか…
「解った」
結局俺は…着ている物だけで無一文でホテルを追い出された。
◆◆◆
教皇からの通信水晶が光っている。
嫌な予感がする。
「理人殿、実は困った事になった」
教皇とローアン大司教がガイアに起こった事を話し始めた。
4人も俺の横で話を聞いている。
「そこまで落ちたのですか?」
「やはりクズだったな」
「ハァ~何をやっているのかな」
「評判通りでしたわ」
だが、俺はこれで良いと思っている。
四天王最弱があれなのだ…絶対に魔王には勝てない。
『運が良かった』
俺にとって妻たちは『俺の命より大事な存在』
だから、彼女達を守るためにガイアを犠牲にする選択をした。
四天王と戦い死ぬか戦闘不能になれば、そこでこの戦いは終わる。
流石に勇者抜きで戦えとは言わないだろう。
『死なないでくれてありがとう』
ガイアにはそういう気持ちがある。
ガイアは悪友だが俺の中で、妻たちが『命より大事な人』であるなら『命の次に大事な人間』位の価値はある。
死んで欲しいとは思っていない。
気の置けない親友だ。
※ 間違った使い方ですが70年代はこういう使い方をしたので敢えて使っています。
「それで今回はどういったご用件でしょうか?」
「ああっ、理人殿達には二つの道がある、このままの待遇で『魔王討伐』を目指して、今の待遇を守るか? それとも只の平民に戻るかだ、好きな方を選んで良いぞ…まぁ敢えて後者を選ぶ者は居まいが…」
教皇って馬鹿なのか?
利口だと思っていたが、此奴もアホの子なのか?
「皆に聞きたいが…これ俺が決めて良いか?」
「このパーティのリーダーは理人くんですお任せします」
「ああっ、夫である理人に任せる」
「理人お兄ちゃんに任せるよ!」
「解った」
さぁ、此処からが俺のターンだ。
この日をどれだけ待ちわびたか…
「どちらも嫌ですね」
「理人殿、何を言われるのだ…」
「はっきり言わせて貰えば『俺は誰からも何も貰って無い』だから只の平民になる必要は無い…市民権は『勇者、魔王絡み』とは関係なく冒険者として活躍して得たものだ、ランクもSSは別だがSまでは自力で得た…返せと言うならSSランクだけ返せば良いだけだ」
「だが、妻は…」
「これはガイアが勇者だった時に正式に下賜された…王が退陣しても下賜した物が無効になる…そんな話は聞いたことが無い、そこから考えたらSSランク、ドラゴンスレイヤーの称号、英雄の称号、聖剣デュラン、ロザリオも返す必要は無いな…貰った別荘も同じだと思いますが」
「確かにそうかも知れませんが…私は教皇ですよ? そんな物幾らでも無効に出来ます」
「四天王の一人デスラを倒した功績が無効になるのですか?」
「そうだ、理人殿、教皇様に逆らうのか? 今なら」
「そうか、倒した事無効にされちゃうのか…なら仕方が無い、俺…魔王軍に行くわ…丁度四天王の席も一つ空いているし、魔族は力が全てだから、此処以上の待遇を約束してくれそうだ…うん、そうしよう。功績が無効になるなら『倒した事も無効』にしなくちゃな…いっそうの事教会からエリクサールを奪ってデスラ蘇らしちゃおうか?」
「理人、貴方という人は、許せません、破門にします」
これははったりだ…だが…使える筈だ。
「破門にされたなら仕方が無い…どこかの宗教国家の教皇殺して国を奪うしかないかな…この世界、破門にされたら生きづらいからな…うん、そうしよう」
「理人…貴方いった、何を言っているんですか?」
「ああっでも教皇とかメンドクサイな…そうだローアン大司教、俺がさぁ、横の老害殺してあげるから『教皇』やらない? 対価は、俺を許す、それだけで良いぞ、安いだろう」
「それは本気ですかな…」
「ローアン…いったい何を」
「教皇…忘れてないか? 俺は一つの都市5万を滅ぼせる様な敵を単騎で倒せるんだ…聖教国に押し入って逆らう者を皆殺しにしながら、貴方を殺して玉座に座る事なんて朝飯前だ…それでどうする?」
「それは…」
ローアン大司教が短剣を抜いている…まさか…
「決断が遅いですな…これも国を守る為です…死んで貰います」
「待ちなさい、ローアン…ローアン、何故…」
ローアン大司教だけじゃない…他にも沢山の大司教がナイフを持って教皇に迫っていた。
「教皇様…お忘れですか…思い出して下さい…貴方が言った事でしょう、ガイアへの怒りで忘れたのですか…」
「ああっ…そうです、理人様ならガイアの代わりに魔王を倒してくれる…そう思っていたので少し可笑しくなりました…ローアンよくぞ私のめを覚まして下さいました、礼を言いますよ」
「解って下さればよいのです…理人様、教皇様はガイア様の事でお疲れだったのです…この度の無礼お許し下さい」
何がどうしたんだ…しかも『様』をつけ始めた。
「俺も言いすぎました、この通り謝ります」
「構いません、私の方こそ『破門』など馬鹿な事を申し訳ありませんでした…それで理人様は、今後、どの様に暮らしたいのでしょうか?」
「俺たちは静かに暮らせたらと思っています、魔王討伐に関わらず冒険者として生活するか、あるいは畑でも耕しながら仲良く家族で暮らせたら、それで良いんです」
「随分、慎ましい生活ですね」
「俺は親友や幼馴染が勇者や三職になっていたから付き合っただけで、そんな事が無かったら…きっと田舎で畑を耕して暮らしていました…その生活がしたいだけです、勇者が戦わず魔王に止めを刺せるというガイアの持つ聖剣が無くなった今…元に近い生活をしたいそれだけです」
「そうですか…それなら差し上げた別荘の周りの土地も差し上げますから、そこで畑でも作って暮らしてみては如何ですか? ガルイサムは高原ですし高級な野菜の産地でもあります、小さいですが街もあり冒険者ギルドもあります」
「そうですね…ですが良いんですか? 魔王討伐から離れる俺達に土地迄くれるなんて」
「構いませんよ…今迄下賜した物は理人様の言う通りです、返す必要はありません…ただ、聖剣が無くなってしまったので、聖剣デュラン、三職に貸し与えた聖なる武器だけは、将来次の勇者様や聖女様が現れた時に返して頂ければ結構です」
まぁ、あの武器は魔王討伐で必要だから仕方ないな…だが、あんなおもちゃじゃデスラでも倒せない…絶対に。
「それは約束しましょう」
「それでは、今後はゆっくり過ごし下さい『貴方が再び旅立つ事があれば聖教国、教会は援助を惜しみません』それではその時まで…」
「はぁ…」
何を言っているのか解らないが丸く収まったならそれで良いな。
◆◆◆
ガルイサムは魔国から遠く離れている…戦争になっても巻き込まれる事は少ないだろう…
もう、俺は冒険者の範囲でしか戦うことは無い。
「理人くん、結構良さそうな土地だね」
「耕しがいがあるな」
「結構広いね、土いじりは久しぶりだね、理人お兄ちゃん」
「そうだな…暫くはまたバカンスを楽しんで…それからは趣味の範囲で冒険者と農業でもしよう」
「理人くん、いつまでバカンスを楽しむの」
「どの位、休むんだ」
「理人お兄ちゃん、1週間位は休むの?」
「そうですわね…私も1週間位は休みたいですわ」
お金には困らない…まだ前世のお金に換算して億単位のお金は有る。
皆、贅沢しないから、あまり減らないし…ワイバーンを狩れば金貨500枚(約5千万)稼げるから、このメンバーで行って20も狩ればもう生涯遊んで暮らせる。
「そうだね、1か月位休んでからで充分だよ…それより、ほらな」
「理人くん…あっそうだよね…うんそうだ」
「そうだよな…あははははっ魔王と戦わないという事はそういう事だよな」
「理人お兄ちゃん…そうだよね」
「私はとばっちりですわ、最初から問題ないのに、今まで本当に待たされましたわ」
もう彼女たちは三職じゃない…
その日の夜は…本当の意味で燃えた….
此処には俺の欲しかった者全部がある…
うん、幸せだ
【本編 完】
※ これで本編は終わります。
ですが、解りずらい所と、ガイアやこの世界はどうなるのか?
その辺りを含めまして閑話やエピローグ等あと数話続きます。
その中で『本当に理人の本心』も書く予定です、今しばらくお付き合い下さい。
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