第59話 単独勇者の絶望
俺達5人は要塞都市ジブヤに来ている。
俺は凄く心が痛い。
「英雄理人様、これ食べて下さい…凄く評判が良いんですよ…勿論無料で良いんで!」
ニコニコしながら肉屋の親父が大量の串焼きを押し付けてきた。
「この服、奥方様達に如何ですか? 勿論、感謝を込めてプレゼントします!」
今度は服屋だ。
本当に心が痛い…
俺はこの都市の人間を犠牲にしてデスラを討とうとして失敗。
結局は、ほぼ全員を死なせてしまった。
敵であったデスラが、まるで神の様な人物じゃなければ…この都市は廃墟になり、死体だらけだった筈だ。
「理人様…お母さんを助けてくれてありがとう…これあげる」
貧しい身なりの少女に飴を差し出された。
「ありがとう」
本当に心が痛い…もう忘れようと思っていたが、いざ来てみると…駄目だ。
「理人様…私大きくなったらお嫁さんになってあげるね!」
「大きくなっても忘れて無かったらね」
「うん、約束だよ」
そう言うと顔を真っ赤にして走っていってしまった。
「随分と理人はモテるな…まぁ都市を救った英雄だから当たり前か?」
「相手は子供だから、すぐ忘れるよ」
「理人くん、多分あの子は忘れないよ? 絶対にね」
小さな子供のいう事だからな…
なんでそんな事言うんだろう?
「理人お兄ちゃんは天然すぎるよ…ハァ~、あのね、あの子の話じゃ、理人お兄ちゃんは、あの子のお母さんが死に掛けているのを助けたんだよね?母親の命の恩人で『英雄』でカッコ良い、そんな男性忘れると思う…私なら忘れないよ」
「だけど子供だよ、きっと」
そこ迄言いかけた時に腕をロザリオに引っ張られた。
「忘れるわけないですわ…実際に私が理人様の妻になっているのが証拠ですわ」
そうか…
あの子の思いが、子供だった頃の俺と同じなら…
「俺、不味い事言った?」
「理人くん…あの子は8歳位、6年もすれば大人だよ…6年後『お兄ちゃん約束したからお嫁さんになりに来ました』って来たらどうするのかな?」
「多分、忘れるって」
「そうか? じゃぁ理人、想像して見てくれ…マリ姉じゃない、とびっきり美人な聖女様がいました、小さい頃の理人の母親と自分が死に掛けた状態で助けてくれたら…忘れるか?」
確かに忘れ無さそうだ。
「エルザ、マリ姉じゃないに悪意を感じますが…理人くん、そう思ううよ」
「理人お兄ちゃんにとってのロザリオと同じじゃない?」
「そうですわ」
割と本当に不味い事しちゃったのか?
「6年後考えるから良い…」
心が痛いな…俺のせいできっと彼女の母親は死んでいる。
母親を殺したのに、感謝され、愛される…
痛い。
◆◆◆
「今宵は、存分に楽しんでいってください」
そうジブヤの領主に言われ、ブッフェ形式で食事を振舞われたけど…
本来ならこれを食べる資格があるのは、寧ろデスラの方だ。
俺じゃない。
このままじゃ、神経がすり減ってしまう…
だから、忘れる事にした…
この都市を救ったのは俺…そう思う事にした。
「しかし…凄いですな『英雄』はあんな巨大なドラゴンゾンビを放り投げるとは」
「『光の翼』ですか…まるで勇者みたいでしたぞ」
この都市の要職者が集まってきていた。
俺がどんな活躍をしていたのか…俺自身が解らない。
俺は一体どんな風に活躍したんだー-っ。
◆◆◆
「2週間位、留守にする」
「ガイア様、戦いに行かれるのですね」
「ああっ勇者だからな…」
俺達はガブギの街から次の街ヨヨグに来ている。
此処から先は俺一人…この近くに四天王の一人バモンが居ると聞いたからだ。
次の女を手に入れるには金が要る。
その為には理人曰く実績が必要だという…彼奴が倒したデスラは四天王最弱だ…四天王の序列1位のバモン…此奴を倒せば文句はない筈だ。
奴隷商から買ったエルフのリリの話では、自分と一緒に『ハイエルフ』も居たらしい…此奴に存在について奴隷商に聞いてみたら…その存在を教えてくれた。
ただ、その金額は金貨8万枚 (約80億円)だった。
これを買うにはブラック小切手の限度額解除しか無理だ。
だから、俺は、その金を得るために1人になる必要があった。
だが、ヨヨグの街からでた途端に筋肉の塊のような男に出くわした。
「貴様が勇者ガイアだな?」
「俺がガイアだとしたら、何だ」
「我が名はゾルベック…バモン様の副官をしている…俺は強い男が好きだ、一騎討を望む」
なんだ…副官だと…倒しても実績にもならねーな。
「お前など眼中にない…」
「ふぅ、我がストレージには莫大な金銀財宝が入っている、もし俺に勝てばその財宝はお前の物だ…やろうぜ」
「そうか…ならば戦ってやろう…勇者ガイア参る…」
「ああっ来い!」
たかが副官俺なら楽勝だ、財宝という位だ、ハイエルフは無理でもエルフ位買える金は…えっ…
「どうした勇者、驚いたか!」
嘘だろう…此奴の動きが見えない…今のが当たっていたら死んでいたぞ…
『看破』
これでどうだ…これで此奴の動きは見切れたはずだ。
俺はすぐさま攻撃を仕掛ける…『瞬歩』
瞬歩とはただ速く移動するだけではなく、全ての動作が2倍速くなるスキルだ。
看破と瞬歩、これなら、どんな素早い奴でも捕らえ攻撃が出来る。
そのまま俺は斬り込む…これなら外さない。
「奥義…聖光剣―――――っ」
聖魔法と光魔法を聖剣にかけて斬る、俺の最強剣技だ。
もう、終わりだ、これで俺の勝ちだ。
「ほう、随分と速く動いたもんだ…だがまだ遅いな! そらよ!」
馬鹿な…手が掴まれただと…
そのまま、俺は岩に叩きつけられた…
「うわぁぁぁぁー―――っ ぐわっ、げふっ、あああー-っ」
一度だけじゃない。
2度3度とまるでおもちゃの様に叩きつけられた。
「うわぁぁぁぁー――っ止めろー-っ止めてくれー-っ」
「敵に情けを乞う、それが勇者か? お前達は魔族にとっての天敵だ…人間がゴブリンやオークを嫌悪するように、我々は勇者を嫌悪している…止める理由は無いな」
「助けて…助けてくれー―――っ」
だが、決して止めてはくれない…俺の体があちこち千切れていくのが解る…最初は激痛が走っていたが、今はただ冷たくなっていくだけだ…
血や肉がただ、ただ飛び散る。
最後にはとうとう…俺の掴まれていた腕が千切れた。
そして…ようやく、この戦い…いや蹂躙が終わった。
だが違った…街から騎士やヒーラー冒険者が助けにきた。
無駄だ…
「貴様ぁぁぁー――っ勇者様になにをするー-っ」
「ああっ勇者様、今回復を掛けます、そちらの方、この腕と足を押し付けて…必ず勝って下さいね『自己犠牲 パーフェクトヒール』 これで大丈夫、元どおりですぐふっ…頼み…ましたよ」
自分の命と引き換えに俺を助けたのか。
「さぁ一緒に戦いましょう…我らがフォローしますから」
「ほう…そこの虫けらを助けにきたか? だがそいつじゃ俺には勝てない」
嘘だろう…あれでもまだ手加減していたのか?
「うわぁぁぁー-勇者様、早く一緒に…」
「早く、我々が盾になる」
「私達が押さえつけますから、聖剣の一撃をー-っ」
そんな…そんな…
俺を助けに来た騎士が頭を潰され横たわった。
盾になって時間を稼いでくれた大楯を持った冒険者の首がなくなった。
嘘だ…嘘、これが…魔族の力。
四天王にすらなって無い魔族の力…
自己犠牲で俺を回復してくれたヒーラーの死体を俺に投げつけてきた。
「だとよ…勇者、もう一度やるか! 体は治ったようだな」
嫌だ、嫌だ…もう戦いたくない…俺は死にたくない。
「俺は…戦いたくない…もう」
「勇者様、何を言うんですか、我々は貴方と共なら死んでも構いません」
「私は死ぬまで、回復魔法を掛け続けます…戦いましょう」
「今度は、俺が盾になる、だから…」
無理なんだよ…そんな事しても此奴には勝てない。
「勇者…俺はこれでも魔族としては慈悲深い、人間は無条件にゴブリンやオークを殺すが、俺は敵で無いなら…殺しはしない『一寸の虫にも五分の魂』昔の転生者が言った言葉だ、もし降伏するなら聖剣を差し出せ…それでお前は見逃してやろう」
「勇者様駄目です!」
「それを差し出したら終わりです!…私たちは死んでも良いですから…戦って下さい!」
「勝てないならそれで良い…一矢報いてやりましょう」
俺は…死にたくない。
「聖剣は差し出す…助けてくれ…」
俺は聖剣をゾルベックに差し出した。
ゾルベックが俺の聖剣を受け取ると聖剣は光を失い黒く変わった。
そして粉々になった。
「約束だ…見逃してやる、虫けらに興味はない、俺は立ち去るとしよう…飛んだ無駄足だったな」
ゾルベックはそのまま立ち去った。
「「「「「うわぁぁぁぁ聖剣がぁぁぁぁぁー-勇者様ぁぁぁぁうわぁぁぁぁぁぁぁー――――――っ」」」」」
俺は絶望の中、立ち尽くすしかなかった。
※ 恐らく、あと少しで完結予定です。こちらを終わらせたらもう一つのお話を更新し始めます。
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