第52話 死闘? 優しすぎる敵


深夜遅く、俺はジブヤにたどり着いた。


要塞都市の面影はなく、破壊の限りを尽くされていた。


この都市のシンボルの大きなゴーレムも此処には無い。


恐らくは戦闘に駆り出されたのだろう…


自分が作り出したとはいえ、無残だ…


あちこちに死体が転がっている。


だが、これは仕方が無い…教会や国の言う所の『世界を滅ぼしかねない魔王の幹部との戦い』


この位の犠牲で済むなら安いだろう…


俺は勇者でも無い、四職ですらない…そんな人間が、化け物と戦うのだ…


各国の騎士団ですら逃げ出す相手に戦いを挑むのだ、手段は選べない。


『只の魔法戦士が魔族の四天王に挑むんだ』


仕方ないだろう…


しかし、思った以上に死霊が多い…逆に生きた人間は見かけない。


まさか…完敗したのか?


そんな…



「貴様が今回の黒幕か?」


デスラか…倒されていないと思っていたが…周りに死霊が数百は居るじゃないか…


流石にこれだけの犠牲を払ったんだ逃げるわけにはいかないな…


「ああっ魔法戦士、理人参る!」


まさかここまでの数が残っているとは思わなかった。


勝てる要素が無い。


まさか5万対1万で此処迄残っているとは思わなかった。


デスラ+少数…場合によってはデスラ単体だと思っていたが…甘かったな。


もう…死ぬしか…可笑しい。


死霊の中に飛び込んで斬りこむ…死霊の攻撃を食らう筈が、何故か避けられる。


しかも、こちらの一撃は確実に相手の息の根を止めていく。


「ほう…我を討伐しようとするだけあって、なかなかでは無いか。お前が勇者ガイアだな…だが、我には届かぬ、我が正体はドラゴン…真のドラゴンの恐ろしさを見るが良い…」


嘘だろう…聞いてないぞ…まさか、デスラの正体がドラゴンゾンビだなんて…


「…ドラゴンゾンビ」


「いかにも…さぁ死霊には手を出させん、一騎討ちで受けてやろう、勇者よ!」


「俺は勇者ではない…勇者パーティの魔法戦士、理人だ!」


俺が倒したワイバーンは亜竜…骨だけとはいえ本物のドラゴンに勝てるわけはない。


だが…心の何処かに…負けない…そんな気持ちがあるのは何故だ。


どうせ勝てないなら自分自身、最強最高の技を使うしかない。


「ほう、勇者でも無い男がただ一人で我に挑むのか? もしかしたらこの都市の人間と戦い疲弊でもした我を討ち取るつもりだったのか?」


図星だ…


「行くぞ、これが『本来は』勇者のみが使える奥義! 光の翼だぁぁぁぁぁー-っ」


体が熱い…今迄俺は翼は2枚しか出せなかった。


今俺の背中には7枚ずつ14枚の翼が出ている。


「貴様ぁぁぁぁー――勇者じ無い…何じゃそれわー-っ」


可笑しい、背中に現れた羽が光じゃなく土色の羽に見える。


「俺にも解らないな…」


その羽が、光の翼のように切り離されデスラに襲い掛かった。


たったの一撃だが、その羽はデスラの骨を切り刻みバラバラにした。


「貴様、よくも我をこの様な姿に…等と言うと思うかー-っ」


一瞬でデスラは体を再生させた。


「体が再生された」


「お前は馬鹿か? 我は死霊の王…不死じゃ」


何故出来たか理由は解らない。


だが、いにしえの勇者リヒトの技を完全再現出来た…それをもってしても勝てない…こんな奴誰も勝てない。


恐らくガイアが居ても死ぬしかない。


ガツン…なっ!


頭を軽く殴られた。


「なっ!」


「お前、人間じゃ無いな! さっきの翼は竜ではないか? しかも『泣き虫勇者 リヒト』の技と竜の合わせ技まで使いおって、我の遠縁じゃないのか? 」


俺は『勇者リヒト』に憧れて技を模倣した事を話した。


「ほう、名前が同じだから憧れ、技を覚えたと言うのか?」


「その通りです」


逆らっても無駄だ…


「だが、さっきの羽は何だ? あれは竜の物じゃ…お前竜人間(ドラゴニュート)か?」


「普通の人間ですが…」


「そんな訳あるまい『鑑定』…なっお前…我の血を引く者から『血の加護』を貰っているではないか? もう良い…去るが良い!」


「もう良いんだ…五万もの犠牲を出して、貴方を討伐出来なかった…俺は終わりだ…悔いはないとは言わないが、殺せ」


「はぁ~難儀じゃなぁ~ ひぃひぃひぃひぃひぃ孫位から加護を貰っている奴を虐めるのは忍びないのぉ~ パチン…ほれこれで良いじゃろう?」


可笑しい…肉片だったり、焼け焦げた人間が再生していく。


「なっなっ…」


「馬鹿か? 我は死霊王と馬鹿な人間が呼んでおるが、真の名前は『冥界竜デスラ―ド』じゃ、死後の世界は我の管轄じゃ…死霊にしないで人間のまま肉体を与え生き返らせた…ゴーレムや城壁や建物は知らんぞ…あとほれ…」


この能力…前世の神話のハーデスに近いんじゃないのか?


冥界って事は死後の世界…まさかそこの支配者なのか?


更に見ていると、デスラは自分の角を1本、斬り落とした。


「これは…」


「我の角じゃ…これが有れば、我を討伐したと皆は思うじゃろ? まぁお前の面子もあるじゃろうから300年ほど眠っていてやろうぞ」


可笑しいな?


魔族の方が人間が出来ている気がする…それに俺に優しい。


「デスラ…いえデスラ様…」


「なんじゃ、いきなり泣きよって…我はこれ以上は甘やかさんぞ…えい…泣くな馬鹿者、仕方が無いのぉ…我も加護をやる…」


デスラの体から黒い霧が現れ、俺を包んだ。


「泣き虫なのは『彼奴と同じ』じゃな…同じように加護をくれてやった…まぁ死なずに頑張るのじゃ」


「どんな加護…ですか」


「内緒じゃ…それでは我たちは去る」


そう言うとデスラ…いやデスラ―ドは死霊を引き連れ去っていった。


どう見ても、教皇や王、帝王より人として出来ている気がする。


それに…俺の過ちすら無かった事にしてくれた…



あれは魔族じゃ無くて神なのではないか?


思わずそう思った。


◆◆◆


「英雄 理人様だっー-あの手にあるのは…デスラの…」


「勇者パーティの理人様が討ち取ったぞー――っ」


真面目に凄いな…さっき迄死んでいた人間が傷もなく復活している。


「ここのギルドは大変そうだから…エビルの街の冒険者ギルドに提出するわ…」


いたたまれなくなり…俺はジブヤを急いで後にした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る