第21話 理人のいない1週間 その④
「勇者絡みだから、此処からは俺が話そう、今回の話の立会人は俺だ」
立会人という事はガイアと理人との間に何だかの契約がなされた。
そういう事ね。
しかも、ギルマスが立ち合いという事はかなり重要な契約がなされた…そういう事ですね。
「立ち合い人という事は、何だかの契約がなされた、そういう事だな?」
「一体どんな契約なのでしょう?」
「そんな金額と釣り合う物なんて聖剣位しか思いつかないよ」
「あるぜ! 勇者ガイアが持っていて、彼奴が喉から手が出るほど欲しい者…例え命と引き換えにしても欲しい者がな」
勇者の地位…聖剣ですか? ですが、それは絶対に手に入りません。
いったいなんでしょう?
金貨1200枚の価値あるもの…
「なんでしょう」
「さっぱり解らないな」
「なんだろう?」
「はぁ~っ、理人に同情するぜ『お前達に決まっているだろう?』お前達だ!」
「「「私達!?」」」
「ああっ、それ以外に彼奴が欲しい者なんて無いだろうが! そんなのも解らないのか? よく考えて見ろ! あいつはS級なんだぜ、あんたら程じゃねーが有能だ。ワイバーンを1人で狩れる位強いからな勇者パーティを離れて金が欲しいなら1か月金貨500枚(約5000万円)位は稼げるんだ…地位が欲しいなら彼奴ほどの男だ貴族のお抱えにすぐになれるし爵位だって夢じゃねー、それが何であんたらと居るのか考えた方がいいぜ」
「確かに好かれているのは解っています、愛されているのも、ですが…」
「まさか、そんな命がけで好きになっているって思わなかった」
「そんな…私なんて事を…」
「あのよ…あそこ迄の男がよ、なんで女物の下着を洗って、下働き全部して、一銭にもならないのに旅に参加してるんだ? お前達という女を諦めれば、彼奴なら貴族との婚約、女冒険者との恋も思うがままだ、欲しけりゃエルフの奴隷だって簡単に買える金位すぐに溜まるぜ、好きだから他にあるか、彼奴にとってかけがえのない存在じゃなきゃそこ迄しねーよ」
「そうですね…確かにその通りです」
「あいつが私達に付き合う必要は無いな」
「そうだよね、逆に理人が私を捨てれば幸せになれる…そうだよ」
「だからよ…この結果も解ってやってくれ! はっきり言うぞ、この話は理人からじゃねー、それは見ていた俺が保証する、金が欲しいガイアがせっついていた…だから責めないでやって欲しい」
「今の話の何処に理人を責める話があるのですか?」
「理人が私達を好きだという話じゃないのか?」
「そうだよね」
「だから、金貨1200枚の対価をガイアが渡したって言っただろう? それがこれだ!」
「書類ですか?」
「書類?」
「書類? なにかの契約書…」
「良いから読んでみろ」
「うっ嘘…これ本当に、わわわわわ私が理人の妻になっています」
「私が理人の嫁さんだと…これ本当なのか?」
「嘘…本当に私もお嫁さんになっている…だけどこれって大丈夫なの? 不味くないの?」
「そうよ、魔王討伐の最中の勇者パーティが結婚なんて出来るのですか?」
顔が、にやけてしまいますが…そんな事が通るなんて信じられません。
「これ、公的に通るのか? 正直言って私はこれで良い…理人の嫁さんならうん、悪くないが…四職が魔王討伐前に結婚なんて聞いたことが無い」
「私もそうです! これは本当に大丈夫なのですか?」
「私も嬉しい…こんな私でも理人が欲しいって言うなら、お嫁さんにでも何でもなってあげるけど…こんな話が通るとは思えない」
「それがな、これが恐ろしい事に通るんだよ、背筋が凍った! これは三国の王宮にまで預ける公正証書だから不備が無いか調べたんだ…だが、この証書を無効にするとガイアが理人を騙した事になるから誰も否定できない…勇者が詐欺をしたなんて事には出来ないからな」
どういう事なのでしょう?
普通に考えてまかり通らない…そう思うのですが…
「書類をよく見てくれ! 『下賜』と言う言葉と『拝領妻』という言葉があるな」
「「「確かに(あります)(あるね)」」」
「拝領妻じたいは滅多にないが王族や大貴族が部下の功績に対して褒美として『自分の妻』を与える…そういう事らしい。そして下賜という文面もある『下賜』は知っての通り目上の立場の者が下の立場の者に褒美を与える事だ…実際にこの世界をまわしているのは教皇様や王様だが、形式上は女神の使いである勇者が一番偉いという事になっている…その勇者が下賜と言う言葉で与えてしまった物に対して他の者は口なんて挟めないだろう」
「ですが、私はガイアの妻じゃありません」
「ああっ、私もだ」
「婚約が良い所じゃないかな?」
「そこなんだよ! この契約書の怖い所はよ…つまりそこを突っつくと勇者ガイアが詐欺を働いた事になるんだ、だからあんたらは不本意だと思うが、ガイアとあんたらが『事実婚』にあったという事にするしかない、まぁお揃いの指輪を一緒に着けていたから大きな意味でそう取れるしな。 その上で理人がガイアやあんたらのお世話を一生懸命していた事実は誰もが知っている」
「解りにくいですね」
「さっぱり解らない」
「賢者の私が理解できない程難しいよ」
「俺も良く説明出来ねーが『この世で一番偉い勇者が『下賜』という名目で与えた拝領妻』は誰も口を挟めないし、下賜した物を返せなんてガイアも言えないから…もうこの通りにするしかねー、そういう事だ」
「あの、それは私は正式に『理人の妻』という事ですか?」
「私もそうなんだよな! そうか私もう人妻なのか、うんそうか、そうか」
「ああっ二人は良いわよ…私も嬉しいけど、謝らなくちゃ不味いよ…どうしよう?」
これで良い筈なのですが、理人が居ないので実感がわきません。
「一応は三人とも結婚した事になるな…おめでとう」
一応?
「一応ってなんですか? 私はもう理人の妻になっていますよね?」
「私は、そのなんだ、理人の新妻で間違いないんだろう?」
「私、奥さんなんだよね」
「そうだがよ…忘れて貰っちゃ困る、今彼奴は地竜を狩に行っている! 結婚してすぐだが、最悪すぐに未亡人だな」
「そう言う冗談は笑えませんよ」
「ギルマス…それは笑えないな」
「ねぇ、口は災いの元だよ」
「悪かったから、杖を持ったり剣を抜こうとするな」
心配で、心配でたまりません。
ですが…今の私達にはどうする事も出来ないのです。
理人…貴方が私を『妻』にしたんですから無事に帰ってきてください。
エルザとリタと待っていますから…ね。
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